アニメ映画『君の名は。』が空前のヒットとなっている。監督の新海誠(しんかい・まこと)氏といえば、「いつかめぐり逢う少年と少女」を流麗な映像とともに紡ぐ作風で有名だ。もとより若者の支持を得ていたが、今回の作品で完全にメジャー化した感がある。

 そんな『君の名は。』の「原点」ともいえる作品が、通信教育のZ会が2014年に製作したCM映像『クロスロード』(http://www.zkai.co.jp/home/crossroad/)だ。離島に住む女子高生と都内の男子高生が、勉強に励む青春を描く。短いバージョンだと、その細かい設定はよくわからない。全容が見えるのは動画サイトで注目された120秒版だ。ふたりはまだお互いを知らないが、劇中の添削担当者は、なぜだか解答用紙にある「単純なミスも証明の組み立ても」よく似ていることに気づく。やがてふたりが合格発表の場で出逢ったことも、偶然ではなく運命であったかのように演出される。短いながらも、新海誠の「らしさ」が全開となっているストーリーラインである。

 『クロスロード』と『君の名は。』のキャラクターデザインは、いま業界で引っぱりだことなっている田中将賀氏(たなか・まさよし、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』など)。ヴォーカル付きの曲を活かしたビデオクリップ的な表現も、『クロスロード』ですでに完成されていた。社会現象ともなった『君の名は。』は、決して運や偶然で生まれた作品ではない。新しい名作の方向性を見出した制作陣が、正しく120秒間を敷衍した成果なのだ。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   


結城靖高(ゆうき・やすたか)
火曜・木曜「旬Wordウォッチ」担当。STUDIO BEANS代表。出版社勤務を経て独立。新語・流行語の紹介からトリビアネタまで幅広い執筆活動を行う。雑誌・書籍の編集もフィールドの一つ。クイズ・パズルプランナーとしては、様々なプロジェクトに企画段階から参加。テレビ番組やソーシャルゲームにも作品を提供している。『書けそうで書けない小学校の漢字』(永岡書店)など著書・編著多数。
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