注文に応じ、調理したお魚やお惣菜、弁当などを、仕事場や家庭に届けるのが仕出し屋の仕事である。料理屋のような店もあるが、普通、食堂のような食べる席はなく、調理する厨房と腰掛け程度に休める座敷があれば十分なのだ。かつての京都には、そのような仕出し屋がたくさんあった。有名な二傳(にでん)や井傳(いでん)のように、後に会石料理や京料理店として有名になった特別な仕出し屋も少なくないものの、庶民の暮らしを支えてきた仕出し屋は、徐々に姿を消しつつある。それでも、お惣菜を入れた平箱(カジキとか、ネタ箱と呼ばれている)を自転車の荷台に重ねて積み、お得意様を訪ねご用を聞き、配達に走る姿を見かけると、なんともほっこりした気分になるものだ。

 仕出し屋は京都市内いたるところにあるけれど、なかでも西陣織や友禅染などに携わる職人が集まり、職住一体の住居で生活をしてきた職人街は過密地域といえよう。昭和期半ばぐらいまでは家族総出で仕事に携わっていたので、女性も食事をつくる手間さえ惜しんで働いてきた。そのため、昼食には仕出し弁当を頼む家が当たり前で、繁忙期には、夕食にも仕出し屋さんが欠かせない存在だった。昔は注文した家の台所に仕出し屋が上がって、お魚をさばいたり、下拵(したごしら)えしたり、ということも少なくなかったそうだ。仕出し屋はそんな常連客を数十、数百と抱えながら、一緒に生きてきたのだ。

 近年は自転車に積まれた平箱には、主に旬のお魚料理と常のおばんざいが入っている。焼き魚や煮魚、鍋料理に合いそうな切り身。だし巻き、おから、えび豆、天ぷら。旬の食材とおいしそうなお惣菜である。最近は開封すればすぐ食べられるようになったものが詰め込まれている。

 

   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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