12月13日は事始めで、昔は煤払いをこの日にする風習があったそうだ。しかし、年越しまでにまた汚れてしまうこともあり、もっと押しつまってからするのが当たり前になったようである。そして、年末の大掃除といえば、次に散髪とくる人も多いだろう。京都の人なら「「かんかん(髪)」もずいぶん伸びたし、年(とし)越さんうちに「じょりじょり(床屋)」いっとこか」といった感じである。

 昔ながらの趣のある床屋さんは、必ずといっていいほど四辻(四ツ角)の一角にある。そして、床屋の隣には銭湯が建ち並んでいることも多い。これは京都だけのことではない。なぜだろうか。

 「四辻の床屋」というのは、地域の自治組織の成り立ちと関係した来歴のある場合が多い。江戸期以降に見られるようになった町の形態で、地域の区画の中心にある四辻の角地を町会の共有地とし、そこに町用人(ちょうようにん)を住まわせ、町内全体の管理人としていた。町用人は町の年寄の配下にあって、公儀からのお触れを町人に知らせたり、祭や仏事に必要な道具類の保管を任されたりしていたという。その町用人の多くが髪結いを生業とし、普段は町内の会所で髪結床を営んでいたそうである。

 いまも祇園祭の山鉾を維持管理している鉾町には、このような髪結床の名残のある会所に、山鉾や飾り物を保管している地域がいくつかみられる。また、松原通麩屋町(ふやちょう)付近の元床屋さんの建物には、「祇園床(ぎおんどこ)」という屋号が現在も掲げられたままになっている。

 

   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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