9月5日、公正取引委員会は「介護分野に関する調査報告書」を発表。報告書の柱となっているのが「混合介護の弾力化」だ。

 介護市場の規制改革を促すために、公的な介護保険を使ったサービスと介護保険を使わない全額自費のサービスの同時利用、介護保険の利用料金の自由化などを提案している。

 報告書では、現行制度によるヘルパーの訪問介護で食事の支度や洗濯などをする場合、利用者本人のものに限られ、同居家族の家事支援はできないことなどが規制にあたると指摘。

 公正取引委員会は、こうした「規制」を見直して、利用者から追加料金を徴収して、同居家族の家事支援をできるようにすれば、介護事業者の効率がアップし、職員の賃金も引き上げられるという。さらには、競争が促されて、利用者が負担する料金も下がる可能性があると、規制緩和すれば、いいこと尽くめのようなシナリオを描いている。

 だが、本当に介護市場に「規制」は存在しているのだろうか。

 そもそも、介護保険は、2000年の発足当初から「混合介護」を認めており、利用者が介護保険と保険外サービスを組み合わせて使うことを禁止しているわけではない。

 介護保険では、利用者の心身の状態から、必要な介護サービスを事前に審査する要介護認定が行なわれる。保険給付されるサービスの限度額が決まっているので、個人的に「もっと介護サービスを利用したい」という人は、保険外サービスを利用することが認められている。

 利用料金についても、限度額を超えた部分は全額自己負担になるが、保険給付の範囲内のサービスは1割(高所得者は2割)で利用できる。

 混合診療を原則的に禁止している健康保険と、この点が介護保険の違うところだ。

 実際、利用者のニーズに合わせて、介護保険と保険外サービスを組み合わせて提供している事業者もいる。利用者が必要だと思えば、保険外の介護サービスを受けることは可能なのだ。

それでも混合介護が進まないのには、別の理由がある。

 前出の報告書で、「保険外サービスの提供に当たっての課題」として、多くの事業者があげたのが「保険外サービスを提供する人員の確保が困難であること」。株式会社等の37.4%、社会福祉法人の34.7%が、介護スタッフの確保に頭を悩ませているのだ。

 もちろん、介護保険だけではカバーできない利用者のニーズを、その他のサービスによって支援していこうという流れ自体は悪いことではない。介護が必要な人の暮らしの質を上げるために、介護保険以外の資源を投入することは、今後ますます求められるだろう。

 だが、それは、必ずしも貨幣を使って買うサービスである必要はないはずだ。実際、ボランティアによる移動サービス、利用者家族による認知症カフェなど、金銭のやりとりは発生しなくても、すでにある社会資源を利用して介護が必要な人を支える仕組みはいくつもある。

 ましてや、所得があがらず、厳しい家計運営を強いられるようになっている今、お金を払って保険外の介護サービスを利用できるのは一部の富裕層に限られるのではないだろうか。

 混合介護を弾力化すれば、保険外サービスの利用が爆発的に増えて、介護市場が活性化するという思惑は、絵に描いた餅に終わる可能性が高い。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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