『週刊新潮』(1/12号、以下『新潮』)の巻頭特集。一つ目は20日に大統領に就任するトランプが、世界を揺るがす暴れん坊になるのか、現実的な対応をとって世界各国は胸をなで下ろすことになるのかという「トランプ占い」である。

 とりわけ選挙中から毒舌を吐いてきた米中関係が注目される。12月初めに台湾の蔡(さい)総統と電話会談したことで、「一つの中国」に固執する習近平は怒り心頭だからだ。

 だが、京大名誉教授の中西輝政氏は、同じ頃トランプが師と仰いでいるキッシンジャーが習近平と会っていることに注目すべきだという。

 中西氏は、ニクソンもレーガンも大統領に就任したら対中宥和路線に転換している。共和党政権で繰り返されてきたことだから、安倍首相が、「『米国の後ろ盾があるのだから』と、対中強硬の前のめり姿勢を取ってしまうと、トランプに梯子を外され、日本が孤立する恐れがある」と警告する。

 『新潮』は「トランプ氏は、やはり日本にとって『ジョーカー』となりかねないようである」と結んでいるが、その予兆は早くも出てきている。

 トランプは国外に工場を建設しようとしている自動車メーカーなどを、ツイッターで批判してきたが、トヨタにもアメリカ国内に工場を建てろとツイートした。

 まだ大統領でもない人間の戯言になぜ過敏に反応するのか、私には理解できないが、早速、北米国際自動車ショーに出席していた豊田章男社長は、米国に今後5年間で100億ドル(約1兆1700億円)を投資するという計画を明らかにしたのである。

 こんな日本のトップ企業の弱腰を見て、トランプが大統領に就任したら、さらなる無理難題を日本に吹っかけてくるのは間違いない。

 韓国には強気の安倍首相も、アメリカの言うことには何一つ逆らえない。トランプは日本が植民地であることをはっきり見える化し、沖縄だけではなく国民全員がアメリカの奴隷だと自覚させられる年になると、私は思う。

 戦後何度目かの「敗戦」の年になる。そうした境遇に甘んじてこのまま生きるのか、独立への闘いを始めるのか、重大な岐路に立たされている日本人の正念場が、今年から始まるのだ。

 二つ目は小池都知事と今夏の都議選について。『新潮』によると、小池が今夏の都議選に新党を立ち上げるとぶち上げたが、20議席ぐらい獲得する可能性があり、小池に擦り寄る公明党、民進党、小池シンパの党を加えると「過半数の64議席を超える可能性は非常に高い」(政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏)そうだ。

 だがそうなると、大風呂敷を広げることはできても畳むことができない小池に、移転を延ばされた築地の仲卸業者がゴネて、豊洲市場の使用料の値下げを要求することもあり得るという。

 これまでは都議会自民党が間に入っていたが、これからはそうはいかない。結果、補助金という名の都民の税金がムダに投入されることになりかねないというのだ。

 たしかに「口だけ番長」の小池に、都民の目も厳しくなってきてはいる。だが、今のような自民党のボスたちが勝手気ままなことをやり、都政を蹂躙してきたことに対する都民の怒りは大きいから、このままいけば自民党は惨敗するに違いない。

 小池の真価は、その後どうするかで決まるはずである。

 最近の小池都知事の言動を見ていて気になることがある。どこのインタビューでも「都政の改革」と言うが、具体的な政策やビジョンが見えてこないのである。

 「都民ファースト」などという浮ついた中身のないキャッチフレーズづくりはうまいが、メディアが批判力を失っていることをいいことに、内田茂という都議会のドンさえ追い落とせば、すべてよくなるなどという幻想を振りまくだけでは、都民の真の信頼は得られない

 彼女の賞味期限切れはすぐそこまで来ている。

 三つ目は、韓国との「慰安婦像」をめぐる軋みが広がるというのだ。すでに、釜山の日本総領事館前に据えられた慰安婦像をめぐって日韓が反発し合い、安倍首相は駐韓国大使を一時帰国させた。

 この問題は、安倍と朴大統領との間で合意ができ、日本側は10億円を支払ったあげくの果てに、「新たな像まで設置されたのだから、日本は『振り込め詐欺』にあったようなもの。韓国の本音は和解より対立であることがはっきりしたのである」(『新潮』)という日本側の言い分もわかる。

 だが、当事者であった朴が大統領の職務から外され混乱の最中にある韓国だけに、日本としては「大人の対応」をとり、しばらく様子を見るぐらいの度量があっていいと、私は思うのだが。

 四番目は、『週刊現代』が「株価が2万5000円超え」、『週刊ポスト』が「4万円超え」と浮かれているが、この世の中そんな甘いもんじゃないと、冷水を浴びせている。

 トランプの口先だけの莫大な公共事業や減税政策が、そのまま実行に移される可能性は極めて低い。

 政策が実行に移されない、またはトーンダウンすれば、一気に円高、株安に触れることは間違いない。

 その上、今年は、オランダ総選挙、フランス大統領選、ドイツの連邦議会選挙などが目白押しで、その結果次第では右派勢力が勝利し、イギリスに続いてEU離脱ということにもなりかねない。

 さらに気懸かりなのは、原油価格が高騰してきていることである。賃金も上がっていないのに円安と資源高が続けば、実質所得は減り、消費は冷え込む。

 経済でも、日本にいい材料はほとんどないのが実情である。週刊誌の無責任な煽りに乗せられて、なけなしの虎の子を失う愚だけは避けたほうがいい。

 私は、トランプ&経済問題は、今年最大の課題ではあるが、最悪のシナリオという意味で外してはいけないのが、首都圏大地震と国内のテロ事件だと思う。

 『週刊ポスト』(1/13・20号)は、「富士山に“異常変動”が! MEGA地震予測2017年最新版 いよいよ首都圏に大地震襲来」という特集を組んでいる。

 これは村井俊治東大名誉教授が全国1300か所に設置されている電子基準点のGPSデータを使って地震を予測するやり方だが、的中率が高いといわれている。

 村井名誉教授は今回、「6年前の東日本大震災以降、日本列島では地表の大変動が起きている。昨年の熊本地震以降、その変動幅は拡大し、今も広がっています。そのため、今年は昨年以上に大きな地震が起こる可能性がある」と不気味な予測をしている。

 なかでも昨年末に4センチの「異常変動」が観測された富士山だが、この変動は無視できないという。

 したがって、首都圏を含む南関東を全国で唯一、最高警戒レベルの5、地震の可能性が極めて高い地域に指定して、警告を発しているそうである。

 95年の1月に発売した『週刊現代』で、関西地方に大地震の可能性という予測記事を掲載した。

 阪神淡路大震災が起きたのは発売の翌朝だった。首都圏をおそう大地震は間違いなくいつ起こってもおかしくないのに、国も都もわれわれ住民も何も手を打っていない。

 そしてテロ事件である。イスラムの過激派だけではなく、日本でテロを起こそうと考えている人間は、おそらくそこら中にいるはずである。

 日本ほどテロに無防備な国はないだろう。貧困や非正規雇用問題で鬱憤がたまっている若者や、国の冷たい福祉政策に怨みを抱く年寄りが「暴発」することもあり得る。

 一見、平和で穏やかに見えるこの国も、一枚皮を剥ぎ取れば「生き地獄」が見える。そうした現実があることを、いやというほど知らされる年になる。これが私の最悪のシナリオである。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 年の始めから出版界に衝撃が走った。総合出版社では最大手の講談社の編集者が、殺人容疑で逮捕されてしまったのである。
 数々のベストセラーマンガを世に送り出してきた名編集者である。『進撃の巨人』は累計6000万部という信じられない発行部数を積み上げてきた。
 その人間のことは知らないが、同じ屋根の下で働いていた後輩である。どうしてそんなことを、と思わざるを得ない。暗い出版界が一層暗くなってしまうことを恐れる。

第1位 「『進撃の巨人』元編集長の妻が怪死」(『週刊文春』1/19号)
第2位 「天皇陛下『安倍総理への不満』」(『週刊現代』1/14・21号)
第3位 「生長の家 谷口雅宣総裁インタビュー」(『AERA』1/16号)

 第3位『AERA』は久々の登場だが、安倍首相の支持団体として名高い「日本会議」について、その中心メンバーの多くの出身母体である「生長の家」の谷口雅宣(まさのぶ)総裁(65)がインタビューに答えている
 「日本会議」の中枢メンバーは「生長の家」の谷口雅春初代総裁の熱烈な信者だといわれている。
 だが雅宣総裁はこう断言している。

 「戦後の冷戦下に雅春先生が唱えられたことを、世界構造が変わった現代で実践しても、何の実効性もありません」

 元メンバーは「生長の家」のなかに「生長の家政治連合」をつくり、右派学生たちを集めて全共闘と対抗したり、政治活動をしていたが、2代目の谷口清超(せいちょう)総裁が、宗教運動が政治運動によって阻害されているとして、これを活動停止にした。
 現在の「生長の家」は、原発を推進し経済発展至上主義の安倍首相の政治姿勢に反対し、「日本会議」の元信者たちに対しても、「時代錯誤的」「狭隘なイデオロギーに陥っている」と断罪し、そのことを声明として発表したのである。
 宗教的な信念と政治を選ばなければならないとき、政治的な現実を選んではいけないという。
 政治家はあくまで政治家の価値判断で生きるため、何度も裏切られたからだというのだ。

 「だから、今の創価学会と政治の距離感をみていると危ういと思います。完全に政治にのみこまれてしまっている。実は声明を発表したら、創価学会の人から感謝されたんですよ(笑)。本当は創価学会もスタンスをきちんと表明すべきだと」

 声明を発表したら、信者の1割ぐらいが離れていったそうだ。

 「信仰とは生き方です。『信仰はあるが、生き方は違う』というのでは、信仰は続きません」

 こうした人間が創価学会にはいない。だが、少しずつ流れが変わってきたのはたしかだろう。

 第2位。1月10日の産経新聞にこんな記事が載った。

 「天皇陛下が在位30年を節目として譲位を希望されていることを受け、政府は、平成31(2019)年1月1日(元日)に皇太子さまの天皇即位に伴う儀式を行い、同日から新元号とする方向で検討に入った。
国民生活への影響を最小限とするには元日の譲位が望ましいと判断した。譲位に伴う関連法案は、有識者会議の報告と衆参両院の論議を踏まえ、5月上旬にも国会に提出する見通し。譲位は『一代限り』として皇室典範改正は最小限にとどめる方向で検討を進める」

 こうしたやり方が、天皇が望んでいる「退位の制度化」や「皇室典範についての議論」とほど遠いことは間違いない。
 『現代』によれば、もともと15年秋の時点で天皇が安倍側に生前退位の意向を伝え、その後、時間をかけて内容を摺り合わせてきたのに、「おことば」を発した直後に生前退位は「憲法違反」などという話が出るのは、ハシゴ外しではないかというのだ。
 そこで、昨年暮れの誕生日会見で「内閣とも相談し」という文言を入れ、そうした話は終わっているはずだ、私の意向を反映させろと釘を刺したのだと見る向きもある。
 なぜ安倍首相が皇室典範の議論をしないのか。それは、反対議員が出てきて党内が混乱するから、面倒くさいのだそうだ。呆れた話である。天皇と安倍の確執はまだまだ続きそうだが、国民の多くは生前退位と皇室典範改正支持であるはずだ。
 安倍首相はそこを見誤っていると思う。

 第1位。私の古巣である講談社で大変な事件が起きた
 1月10日、講談社編集次長の朴鐘顕(パクチョンヒョン)容疑者(41)が妻殺しの容疑で逮捕されてしまったのである。
 事件が起きたのは昨年の8月9日未明。文京区千駄木の自宅で妻の首を締めて窒息死させた疑いが持たれているという。
 『文春』によれば、警察に対して朴容疑者は、「妻は自殺した」と言っていたそうだ。
 だが遺書は残っていなかったし、自殺する動機が見つからない。警視庁捜査一課は、遺体の状況なども容疑者の話と違う点が多かったため、殺人の可能性もあるとみて捜査していたようだ。
 その後、死因が窒息死だと判明して、被害者の首には手で絞められた跡があり、絞殺死体によく見られる舌骨の損傷はなかったが、室内が物色された形跡もなく、誰かが侵入したとも考えにくかったという。
 『文春』によれば、これほど時間が過ぎてしまったのは、彼が大手出版社の社員編集者で、大ヒットマンガを数多く手がけてきた敏腕編集者だからだという。
事の真偽はまだわからないが、彼が社の看板雑誌『週刊少年マガジン』の現役副編集長で、09年に立ち上げた『別冊少年マガジン』創刊の編集長で、そのとき、後に大ベストセラーになる『進撃の巨人』など、数々のヒット作品を手がけてきたため、講談社社内は混乱の極にあるようだ。
 私は彼のことを知らないが、1999年入社だというから、私が『週刊現代』を離れ、インターネット・マガジン『Web現代』を立ち上げた頃である。
 75年、大阪府生まれで、一浪して京大法学部に入り、『文春』によれば、当初、弁護士になろうと思っていたが、父親が経営する喫茶店でマンガに接し、マンガ編集者の道を志し、講談社に入社したそうだ。
 私と一緒に仕事をしたことのある男で、マンガが大好きで東大法学部から講談社に入ってきた編集者がいる。今は某誌の編集長をしているが、彼も優秀な編集者である。
 近年、彼らのような有名大学を出て、マンガ編集者をやりたいという人間が増えてきている。
 一方で『週刊現代』や『フライデー』をやりたいなどという学生はとんといなくなった。
 彼は韓国籍だそうで、韓国の苗字にこだわっていたそうだ。私が入った頃は韓国名や中国名を名乗る社員はいなかったと思うが、それは日本名を名乗っていたからであろう。
 私の記憶では1980年以降からだろう、朴や劉という苗字を堂々と名乗る人たちが入ってきたのは。私は眩しい思いで彼らの名簿を見た覚えがある。
 彼は、入社して社内報に「わたしたわしわたしたわ」という回文のタイトルをつけた文章を寄せているが、これは読んだ記憶がある。
 最初に配属されたのは『週刊少年マガジン』編集部で、以来そこにいて、数々のヒットを飛ばしてきた。
 昨年アニメ映画が大ヒットした『聲(こえ)の形』、累計発行部数2000万部を超える『七つの大罪』、ヤンキーマンガの最高峰『GTO』などにも関わっていたようだが、なかでも『別冊少年マガジン』の編集長として手がけた『進撃の巨人』は、累計発行部数6000万部を超えるというからすごい。
 それも諫山創(いさやま・はじめ)という新人マンガ家を起用し、彼は「絶望を描いてほしい」と伝えたという。
 これ一冊だけでも「役員候補」といわれる由縁はあると思うが、残念ながら講談社という会社は、ベストセラーを出した編集者が出世するところではない。
 『窓ぎわのトットちゃん』を出した女性編集者は、最後は校閲へ行かされたし、乙武洋匡(おとたけ・ひろただ)の『五体不満足』を手がけた編集者も大出世はしていない。
 百田尚樹(ひゃくた・なおき)の『海賊とよばれた男』を世に出した編集者も局長まで行かずに、先日定年を迎えた。
 マンガ出身の役員はいるが、多くは営業や販売の人間たちで、オーナー会社だからトップにはなれないがナンバー2には、この中から選ばれることが多い。編集上がりをあまり重用しない不思議な会社である。
 朴容疑者は華々しい実績を上げている上に、「後輩のちょっとした悩みも邪険にしませんし、若手編集者の目標です」(講談社関係者)と言われるように、人格的にも優れていたようだ。
 奥さんと知り合ったのは10年以上前で、同期が開いた合コンでだった。
 結婚して2人は社宅に住み2011年には今の一戸建ての家を買ったというから、私生活も順調だったようだ。
 その証拠に、07年に長女が生まれると次々に4人の子宝に恵まれている。彼は次女誕生の後、ツイッターで「僕は結婚してから3回しかエッチしてません!!!」と呟いているそうだが、夫婦仲もよく、声を荒げることもなかったという。
 次女誕生後に、講談社の男性社員としては初めて約2か月の育児休暇を取ったそうだ。
 朝日新聞で連載していたコラム(12年7月18日付)で、こう書いている。

 「なぜ今も昔も、現実でも漫画の中でも、子どもは『お母さん』が好きなのか、分かった気がしました。そりゃそうだ、あんなに大変なんだもん。子どもたちはじっとそれを見ている。じっとお母さんを愛している」

 これほど妻の苦労を思い、子どもたちを愛している男が、なぜ妻殺しで逮捕されてしまったのか、私なりに考えてみたい。
 近隣住民の言葉にある「奥さんは育児ノイローゼ気味ではないか」というキーワードがある。
 私にも3人の子どもがいるが、3人目が生まれたのが40歳の時だったから、彼と同じような年だった。
 その当時は『月刊現代』という雑誌の編集次長(組織的には副編集長→編集次長で、編集長心待ちなどと揶揄されることもあった)。
 幸い2人の両親が近くにいたため、何かあれば助けてくれるのをよいことに、毎晩午前様どころか、2時、3時に帰り、4、5時間寝て家を飛び出していった。
 週に1回、子どもたちの顔を見ればいいほうだった。今でもカミさんに愚痴られるが、子どもたちの小学校の運動会が毎年5月末の日曜日に行なわれていた。
 その日は、さすがに見に行ったが、2時頃になると「行くぞ」と言って東京競馬場に駆けつけ、ダービーにありったけのカネをつぎ込んだ。
 子どもたちが一番可愛い頃、父親が遊び相手にならなくてはいけないときに、仕事と称して酒を飲み、博打にうつつを抜かしていた。
 3人の子どもを抱えて辛い思いをしているカミさんのことなど、思ったこともなかった、ひどい亭主であり父親であった。
 あるとき、夜中胸苦しくて目が覚めた。布団の横に立ち、包丁を手に私を睨み付けているカミさんの鬼気迫る表情は今でも忘れられない。
 子育てに疲れ、家庭を顧みない私に対しての「怨み」が積もり積もったのであろう。
 あの時、何が起きても不思議ではなかったと思う。

 マンガ編集者はもっと大変である。マンガ家は絵を描く才能はあるが、ストーリーを作れない作家が多い。
 それに若い人が多いから、担当編集者は、ストーリーを一緒に考え、絵コンテのアイデアを出し、できるまでマンガ家のところに寝泊まりすることもしょっちゅうである。
 女性マンガ家と編集者が結婚するケースがあるのは、こうした密な時間を共有するからである。
 妻の実家は北関東で朴容疑者は大阪で親にも頼れないだろうから、4人の子どもを抱えた奥さんの苦労はいかばかりだったろう。
 彼も懸命に支えたのだろう。家も会社から比較的近いから、子どもの幼稚園の送り迎えなどもしていたようだ。
 だが30代の終わりから40代初め、編集長になる日も近い彼の多忙さは想像に難くない
 育児に疲れ、日に日に消耗していく妻を見ながら、彼にも焦りがあったのではないか。
 そんなとき、ちょっとした言い争いから悲劇が生まれた。
 これは私の経験から想像してみた妄想である。真相はまったく違うところにあるのかもしれない。
 この事件は各テレビ局のニュースもトップで報じていた。ワイドショー然りである。だが、そのいずれも、容疑者の逮捕前の姿をカメラに収めていた。
 たしかに『文春』によれば、昨年秋頃から情報が出回り、年末から「年明け逮捕」と言われていたのであろう。
 だが、『文春』が発売される前日に逮捕、それも、すべてのメディアに知らせ、逮捕の瞬間を撮らせるというのは、後輩だからというのではなく、納得がいかない。
 『進撃の巨人』を世に出したエリート編集者だから、ニュースバリューがあるから、ということなのだろうか。
 警察は、週刊誌でスッパ抜かれたから仕方なく逮捕したという形をとりたかったのではないのか。
 日頃、警察批判をしている雑誌を出している出版社をさらし者にするという「意図」はなかったのだろうか。
 メディアの人間だからというのではない。もし朴容疑者が妻を殺した殺人者であっても、もう少し人権に配慮したやり方があったのではないか。
 講談社の広報は言いにくいだろうから、私が言っておく。

 小説でもノンフィクションでもマンガでも、優れた作品にはいい編集者の手が必ず入っている。
 優秀な編集者を失ったのは、講談社も大きな損失であるが、優れた作品を待ち望んでいる読者にとっても取り返しのつかない損失であるにちがいない。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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