高齢世帯のおもな収入は公的な年金で、現役世代に比べると相対的に所得が低い。その一方で、病気やケガをして医療を受ける確率は高くなるので、日本では70歳を境に医療費の自己負担が低くなるように設定されている。

 病院や診療所で支払う窓口負担は、現役世代は3割だが、原則的に70~74歳は2割で、75歳になると1割に引き下げられる(ただし、高所得層は70歳以降も3割負担)。

 医療費が高額になったときの高額療養費も、高齢者世帯の1か月の自己負担限度額はこれまでは現役世代より低く設定され、長く優遇されてきた(編集部注:自己負担限度額を超えた分が後で払い戻される)。だが、社会保障費を厳しく抑制する安倍政権のもとで、とうとう限度額の見直しが決定。高所得の高齢者を中心に、今年8月から段階的に引き上げられることになった。

 現在、70歳以上の人の高額療養費の限度額は、所得に応じて4段階になっており、通院(外来)のみの場合と入院もした場合で異なる金額が設定されている。

住民税非課税世帯
・通院(個人ごと、以下同)/月8000円
・入院(世帯ごと、以下同)
◇年金80万円以下の人/月1万5000円
◇年金80万円超の人/月2万4600円

一般(年収約370万円以下)
・通院/月1万2000円
・入院/月4万4400円

現役並み所得者(年収約370万円超)
・通院/月4万4400円
・入院/月8万100円+(医療費-26万7000円)×1%(多数回該当は4万4000円)

今年8月以降は、住民税非課税世帯の限度額は据え置かれるが、所得が「一般」「現役並み」の人たちは、次のように引き上げられる。

とくに、大きく変わるのが「現役並み」の人たちだ。2017年8月に「通院」の限度額が引き上げられるだけではなく、2018年8月からは所得区分が3つに細分化される。同時に通院の限度額は廃止されて、入院もした場合に一本化される。詳しくみていこう。

一般(年収約370万円以下)
・通院/2017年8月~:月1万4000円、2018年8月~:月1万8000円
・入院/2017年8月~月5万7600円(多数回該当は4万4400円)

現役並み所得者(年収約370万円超)
・通院/2017年8月~:月5万7600円、2018年8月~:廃止
・入院/2018年8月~:
◇年収約370万~770万円以下:8万100円+(医療費-26万7000円)×1%(多数回該当は4万4400円)
◇年収約770万~1160万円以下:16万7400円+(医療費-55万8000円)×1%(多数回該当は9万3000円)
◇年収約1160万円~:25万2600円+(医療費-84万2000円)×1%(多数回該当は14万100円)

 こうした見直しが行なわれる背景にあるのは、厳しさを増す社会保障財源であることは言うまでもない。2015年度の国民医療費は41.5兆円となる見込みで、3分の1は高齢者の医療に費やされている。高齢者の医療費を賄うための現役世代の拠出金が年々増加しているため、「年齢だけではなく負担能力に応じた負担」という観点から、今回の見直しが断行された。

 高齢でも高い収入を得て、高額な資産を持っている人もいる。余裕のある高齢者に、自分たちが使う医療費を負担してもらうこと自体は悪いことではない。

 だが、その財源を受診時の窓口負担や高額療養費に求めるのは、筋のよい政策ではない。本来、応能負担とは、病気の有無に関係なく保険料で徴収すべきものだ。病気やケガをしたときの自己負担に求めると、健康保険の防貧効果が半減し、新たな貧困を生み出す可能性があるため、医療費は削減できても生活保護費が上昇するという懸念が生まれる。

 高齢者が医療機関を受診する割合は高いため、実際に支払っている自己負担額は、現状でも現役世代の2倍になっている。負担の増える高齢者世帯では、今後、厳しい家計運営を強いられる可能性がある。

 70歳以上の高齢者世帯では、医療費の引き上げに備えて早めに家計の見直しもしておこう。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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