米プリンストン大学のクリストファー・シムズ教授が提唱する経済理論。アベノミクスが結果を出せず、デフレ脱却が思うようにいかない中、日本経済をリードする新たな経済理論として注目を集めている。

 提唱者のシムズ教授は1942年、米国生まれ。専門は計量経済学、マクロ経済学。2011年に、「マクロ経済学における原因と効果」に関する功績で、ノーベル経済学賞を受賞した。

 シムズ理論は一口で言うと、「デフレが長引く中では、財政悪化を招いてでも、財政出動を拡大すべし。それがデフレ脱却の近道である」というものだ。さらにストレートに言えば、「デフレから脱却できないのは、政府、財務省の役人が財政規律にこだわりすぎるからだ」ということだろうか。

 脚光を浴びるシムズ理論だが、GDP比で2倍、先進国で最悪水準の財政赤字を抱える日本で「財政出動・イケイケ論」は、危険ではないのか、との懸念も少なくない。エコノミストの間では、シムズ理論を実践すると、デフレを通り越して激しいインフレを招く、との見方もある。

 そもそも財政出動のために赤字国債をさらに大量に発行するのは、無責任ではないか。借金を子や孫に転嫁する浪費癖の親の所業である。

 一方、シムズ理論が脚光を浴びる背景についてこんな観測も流れている。

 <消費税再引き上げを見送るべきだ、とする安倍政権による意図的なアドバルーンだ。財政出動の先には消費増税の再先送りの可能性があるのではないか>

 その観測に信ぴょう性を持たせているのは、シムズ教授が、浜田宏一内閣官房参与に近いとされる人物だからだ。浜田氏は、アベノミクスの理論的支柱で安倍晋三首相のブレーンである。

 安倍政権が今後、シムズ理論を取り入れるのかどうかわからない。ただ、採用する際は「財政悪化をどの程度まで許容するのか」の線引きも、しっかり定めておく必要がある。いきなりまた「新しい判断」で消費税の先送りをされたら将来世代の反発を買うだろう。
   

   

マンデー政経塾 / 板津久作   


板津久作(いたづ・きゅうさく)
月曜日「マンデー政経塾」担当。政治ジャーナリスト。永田町取材歴は20年。ただいま、糖質制限ダイエットに挑戦中。
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