独特の仕草と愛らしい表情で、人を魅了する猫たち。愛猫のためならお金に糸目をつけずに餌や玩具などを与える猫好きも多く、ネコノミクスの快進撃は衰えを知らない。そうした飼い主に出会えた猫は、家族として慈しみ、育てられ、暖かい寝床と空腹を満たす餌に事欠くことはないだろう。

 その一方で、飼い主のいない猫たちもいる。環境省の「動物愛護管理行政事務概要」によると、2015年度に全国の動物愛護相談センターに持ち込まれた猫は9万75匹。そのうちの6万7091匹が殺処分されている。10年前の殺処分数22万6702匹に比べると3分の1以下に減少したものの、いまだ人間の都合で多くの罪のない猫の命が奪われている。

 そうしたなか、2011年から6年連続で「猫の殺処分ゼロ」を実現しているのが、東京都千代田区だ。

 野良猫による糞尿、ゴミ荒らしなどの苦情が保健所に寄せられ、頭を悩ませていた千代田区では、2000年から「飼い主のいない猫の去勢・不妊手術費助成事業」を開始。翌年、住民と在勤者によるボランティアと動物病院の獣医師などがネットワークを組んで、「ちよだニャンとなる会」が発足した。

 そして、路上で暮らす飼い主のいない猫に不妊・去勢手術を行なって繁殖を抑え、元の場所に戻して地域猫として見守っていく「TNR(Trap,Neuter,Return=一時保護/去勢・不妊手術/元の場所に戻す取り組み)活動」を行なっている。

 また、区の協力のもと、区内で保護された猫の譲渡会を定期的に開催し、飼い主探しもしている。譲渡の対象になる猫は、ワクチン接種、去勢・不妊手術、ウィルス検査、のみやダニの駆除も済んでおり、参加費用もかからない。猫が、愛情を注いでくれる飼い主と出会えるような場を提供しているのだ。

 こうした活動が実を結び、千代田区は猫の殺処分ゼロを実現。全国の意欲ある自治体やボランティアの間に、この取り組みが広がりつつある。

 犬に比べて、猫の殺処分数は格段に多い。それは、繁殖率の高い猫の特性にもある。猫は、年に2~3回出産し、1回につき4~5匹の子猫が生まれる。いくら可愛くても、生まれた子猫すべてを飼ったり、新たな引き取り手を探したりするのは難しい。その結果、全国の動物愛護相談センターに持ち込まれて、殺処分の対象となっている猫の8割が生まれたばかりの子猫となっている。

 人間の都合で、猫に不妊・去勢手術を施すことに異を唱える意見もあるが、飼い主のいない猫を年間数万頭ずつ殺処分している現実の前では、バースコントロールは不可欠な対処法となっている。

 2月22日は、「にゃんにゃんにゃん」の猫の日だ。

 人の都合で殺処分される猫がいなくなり、人と動物が共生できる社会の実現を祈りたい。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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