テレビ、単行本、週刊誌に健康情報があふれている。いわく『Matty式マッサージが自宅でできる! 脂肪とり! むくみとり! こりとり! 解毒棒』『疲れをとりたきゃ腎臓をもみなさい』『「毛細血管」は増やすが勝ち!』『「脳の呼吸」を整えればあなたの全身はよみがえる!』『1日1分であらゆる疲れがとれる 耳ひっぱり』『寝るだけで腰痛が消える! 仙骨枕つき背骨コンディショニング』(2017年3月15日付Amazonの健康法の売れ筋ランキングより)

 私が雑誌編集者時代にやったのは「サルノコシカケ」や「紅茶キノコ」が、がんにいいという記事だった。

 どちらも一時期ブームになり飛ぶように売れたが、あっという間に忘れ去られた。

 『週刊文春』(3/16号、以下『文春』)は、納豆が脳卒中リスクを30%減らし、乳がん、前立腺がん発症リスクも下げるという特集を組んでいる。

 納豆で思い出すのは、フジテレビ系の人気情報番組「発掘!あるある大事典II」で「納豆がダイエットに効果的だ」と紹介して、スーパーなどから納豆が消えてしまった騒動のことだ。

 だが、後にこれが「やらせ」であったことが判明して番組は打ち切りになった。

 たしかに納豆に含まれるナットウキナーゼは、血管を詰まらせる血栓を溶解する力があるといわれる。私もほぼ毎日食べてはいるが、がん細胞まで死滅させるといわれると「?」である。

 その同じ号で『文春』は、健康情報番組の老舗であるNHKの「ガッテン!」(「ためしてガッテン」を改名)を信じるなという特集を組んでいる。

 同番組が2月22日に放送した『最新報告! 血糖値を下げるデルタパワーの謎』で、「睡眠薬で糖尿病が治療できる」「睡眠薬の使用で糖尿病発症の予防にも」などと解説をしたのである。

 だが、3月1日の番組冒頭で、小野文恵アナが「行き過ぎた表現があった」と謝罪し、沈痛な面持ちで頭を下げた。

 私も寝るときに睡眠導入剤を使っているが、睡眠薬で糖尿病が予防できるなら、私は糖尿病になっていないはずだが、残念ながら立派な糖尿病患者である。

 こうした言い方は、覚せい剤で脳こうそくが予防できるというようなものではないか。天下のNHKがやることではない。

 だが、問題はこれだけではなかった。

 番組で大阪市立大学医学部附属病院の稲葉雅章医師が、「糖尿病の患者さんも割と気楽に(睡眠薬を)飲んでいただいてもいい」と推奨し、カメラがたびたび「ベルソムラ」という商品をアップにして映していたという。

 この薬はMSDという製薬メーカーの睡眠薬で、ここの公開情報を見ると、稲葉医師はMSDから原稿執筆を引き受け、講師謝礼をもらっているのだ。

 また、彼が教授をしている大学にも寄付金200万円が支払われていた。稲葉医師とMSDは利益相反(一方の利益になると同時に他方への不利益になる)の関係にあるといわれても仕方あるまい。

 さらにこうした特定の薬を推奨しているように見せることは、薬機法に抵触する可能性があると、弁護士で薬害オンブズパースン会議の水口真寿美事務局長が指摘する。

 「番組は、全体として特定の医薬品を推奨するものとなっており、広告に該当する可能性があります」

 NHK広報局は、出演した専門家は他の薬剤についても解説していたが、その内容を十分に伝えることができず、配慮に欠けていたと、『文春』に答えている。

 『文春』の調べによると、それ以外でも、3月1日に放送した『決定版! コラーゲン100%活用SP』ではコラーゲンの効果を特集したが、コラーゲンが床ずれ(褥瘡=じょくそう)により損傷した皮膚を回復するとしたのは、医学的に問題があると批判している。

 「コラーゲンによる治療法のエビデンスレベルは高くない。ガイドラインの『推奨度C1』は、最も低いレベルで、やっても良いが効果があるかは分からない。そんな治療法を薦めるべきではありません」(小林記念病院褥瘡ケアセンター・古田勝経センター長)

 紹介されたデータや実験方法にも疑問符がつく。番組のディレクターが自身の肌をヤスリで傷つけ、コラーゲンを摂取した場合としなかった場合とで傷の治り具合を比較し、コラーゲンを摂取したほうが治りやすかったと結論付けているが、1人のケースを取り上げて結論を出すのは意味がないと、専門家から批判されている。それは当然だろう。

 私もこの番組をたまに見ることがあるが、単なるバラエティ番組として見ていればいいが、この番組の重大な欠陥は、北里大学薬学部分子薬理学の川島紘一郎客員教授が指摘するところにあるはずだ。

 「明らかに科学的な手続きを欠いているにもかかわらず、さも科学的な結果であるかのように見せている。これでは視聴者が誤解することになる」

 長年この番組の司会をやり、知名度を上げた落語家の立川志の輔は、こういう批判にどう答えるのだろうか。

 いや~、この番組はですね、ちょっとした生活の中にある健康へのヒントをお伝えしているだけで、医学的にどうかなんていわれちゃうと困ってしまうと、逃げるのだろうか。

 昨年10月26日に放送された『大腸がんにならないぞSP』では、大腸がんの内視鏡検査に美肌効果がある、検査の前に強力な下剤を飲み、便や老廃物を排泄し、腸内を空っぽにすることで美肌やダイエット効果があるというのである。

 私も経験があるが、この検査は内視鏡でやるので、腸内を傷つけたりするリスクがあり、医者は数年に1回にしたほうがいいと言っている。

 また昨年10月12日放送の『まさか! ダイエットが引き起こす肝臓の悲劇』も、「番組では、体重が減っているときも含めた“ダイエット中”に脂肪肝になるという表現をしていますが、それは誤り。脂肪肝は体重が増える時になるんです。そのことを番組はちゃんと伝えていない」(大櫛陽一・東海大学名誉教授)と批判されている。

 怪しげな健康情報を同番組は垂れ流してきたと、『文春』は難じる。

 以前は、こうではなく、収録から放送まで時間をかけ、何重にもチェックする体制をとっていたという。それが今は全部抜けてきてしまっていると、この番組の立ち上げから18年間携わってきた元専任ディレクターの北折一氏が嘆いている。

 「安易なバラエティ化では番組の価値が下がる。さらに、明らかに行き過ぎな情報を、信頼感の高いNHKが流してしまうのは、罪が大きいことだと思います」(北折氏)

 本当に健康にいい情報が毎週毎週見つかるわけはない。それに他の民放もやっているわけだから、危なっかしい情報でも「まあいいか」とでっち上げ、放送しているのが実情だろう。そういうことを視聴者は知り、眉に唾をつけながらこの手の番組を見るべきだろう。

 私が信頼する医者に、あるサプリメントのことについて聞いたことがある。その医者は、もしどうしても飲みたいというのなら一番安いものにしなさい。どちらにせよ、効果のほどは期待できないのですから、と言っていた。

 私は今、サプリメントは100円ショップでと決めている。そのためかこのところ体の調子はすこぶるいい。

 昔、万病に効くといわれた丸薬「万金丹」というのがあった。子どものころ、鼻くそ丸めて万金丹、などという戯れ歌があった。どういう成分なのかわからないが、それを薬だと信じて飲めば、どんな病気も治ったという。

 今巷に溢れている健康情報の多くは万金丹のようなものばかり。そう思っておいたほうがいい。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 私の家には東芝製品が多い。テレビ、パソコン、ビデオなど、かなりある。画質がとりわけいいわけでもなく、スタイリングがいいわけでもなく、使いやすいからでもない。相性がよかったからだ。
 その東芝が倒産の危機に瀕している。最大の元凶はアメリカの原発メーカー「ウエスチングハウス(WH)」を買収したことからである。福島第一原発事故が引き金になり、原発部門は大赤字になった。だが、国が原発再稼働、原発の輸出を声高かに言っているから何とかなるだろうと、高をくくっていた。東芝の経営陣の無能はもちろんだし、安倍政権の責任もあると思うが、そこを衝くメディアはほとんどない。今この原稿を書いているのも中古で買った東芝製のパソコンである。2~3年でバッテリーがダメになるが、なんだか愛おしい。

第1位 「小池新党呆れるほどの圧勝!!」(『週刊ポスト』3/24・31号)/「『ベンゼン79倍』で小躍りの『小池都知事』に突き刺さったブーメラン」(『週刊新潮』3/16号)/「豊洲移転にも森友学園にも日本会議にも連なる小池百合子都知事の『父』怪人脈」(『週刊ポスト』3/24・31号)
第2位 「ともに自民党…妻子ある中川俊直が前川恵と重ねる『真夜中の密会』」(『フライデー』3/24号)
第3位 「三越伊勢丹社長大西洋氏『突然クビ』の全内幕」(『週刊現代』3/25・4/1号)

 第3位。新宿の伊勢丹は、私の家に近いこともあってよく行っている。といっても、高級品が多く、目の保養に行くだけだが。
 伊勢丹が三越と一緒になったときは驚いた。店のカラーが違うし、客層も相当違うのではなかったか。
 その大百貨店グループが、カリスマ社長の突然の辞任で揺れている。たしかに中国人の爆買いがなくなり、軒並みデパートの売り上げは落ちているようだ。
 さらにここは伊勢丹と三越の対立があり、この騒動は尾を引きそうだという。
 『現代』は3月1日に大西洋(ひろし)社長にインタビューしていた。それが事実上の「遺言」になってしまったという。
 そこでは、自分が「構造改革を進めている」と言うと、店を閉めるのかとすぐメディアは聞いてくる。「本来メディアというものは、もっと本質論に踏み込むべきだと思うのです」とメディアに対して苦言を呈していたというが、メディアを買いかぶってはいけない。
 17年3月期の営業利益予想は240億円と前年比で3割減だというから、トップ交代は致し方ないのであろうが、この交代は社員が知る前に日経新聞にすっぱ抜かれたそうである。
 では、今度の社長になるという杉江俊彦とはどんな人物なのか。頭が切れ嫌味もない人間だそうだが、

 「よくも悪くも非常に『優等生的』な人物。社内でも、『杉江さんが就任らしい』という話題が出ても、『どんなことをしてくれるんだろう』といったわくわくした感じはありません」(同社社員)

 どんな変わり方をするのか、来月でも伊勢丹に行ってみようか。

 第2位。お次は『フライデー』。自民党衆議院議員の中川俊直議員(46)が前川恵議員(41)と真夜中の密会を続けていると報じている。
 中川議員は3人の子持ち。目撃されたのは2月28日、夜7時過ぎ。渋谷区にある高級マンションから2人が姿を現し、近くのカフェレストランで食事。
 食後また、同じマンションへ帰って行った。2人の出会いは前川議員が初当選した14年12月。中川議員の父親は内閣官房長官や党幹事長を務めた中川秀直。中川議員は元テレビ東京政治部記者だそうである。
 先輩として何くれとなく相談に乗っているうちに男女の仲になったのか。
 週に3、4回会うこともザラだそうで、『フライデー』も何度か目撃している。
 『フライデー』が直撃すると、男のほうははっきりしないが、女のほうは堂々としている。
 「深夜にマンションで会うことが疑いを招くという意識は、まったくありませんでしたね」
 こういう神経の人間が国会議員だというのが、日本の政治の現実である。

 第1位。小池都知事と石原慎太郎のバトルが続いている。やや石原寄りと思われる『新潮』が、環境基準の79倍のベンゼンが検出されたと発表した豊洲の地下水モニタリング調査をした業者が、都議会の特別委員会で「都に指示され、適切ではない方法で採水を行った」と爆弾発言したと報じている。
 調査するためには、溜まっていた水には雨水なども混じっているので取り除く必要がある。これをパージというそうだが、それまでの調査ではパージの翌日以降に井戸に溜まった純粋な地下水を分析していた。
 だが今回、1か所の井戸ではパージした水をそのまま分析に回したというのである。
 これでは、「採水条件が異なる場合は、過去の調査結果との単純な比較は困難となります」(京大大学院の米田稔教授)
 こうしたことに丁寧に答えているのだろうか、小池知事は。
 『ポスト』は7月2日に行なわれる東京都議選を予測し、小池新党が呆れるほどの圧勝をするという特集を組んでいる。
 3人区で自民も民進も落選。8人区で自民がゼロになり、小池新党は最大62議席を獲得するというのだ。
 自民が最大で31、公明が22だから、一躍小池新党が断然の第一党に躍り出る。
 『ポスト』は、これを境に、国政選挙でも同じことが起こり、安倍一強時代は終わりを告げるというのである。
 だが、小池はいまだに自民党であり、それも石原慎太郎と同じウルトラタカ派である。
 今はその牙を隠してニコニコしているからわからないが、彼女の仮面の下の顔が暴かれれば、小池の快進撃はどこかで止まること間違いない。
 『ポスト』は持ち上げておいて、小池の父親がどういう人物で、どういう人脈があるのかをかなり詳しく追いかけている。
 小池が高校生のころ、自宅は兵庫県芦屋にあった。父親・小池勇二郎の書生として住み込んでいたのが、後に東京都副知事になる浜渦武生(はまうず・たけお)、その時代によく出入りしていたのが内閣官房副長官になる鴻池祥筆(こうのいけ・よしただ)であったという。
 父親は、『ポスト』によれば、

 「戦時中、スメラ塾という右翼結社に参加していた勇二郎氏は『第三世界』『民族独立運動』など超国家主義思想に傾斜し、戦後、神戸で貿易商を営んでエジプト、サウジ、クウェートなどアラブ諸国を何度も訪問して各国の大臣クラスに太い人脈を築き、石油の買い付けにも成功する。当時のアラブ世界では名が通った日本人だった」

 政治好きだった父親は、青年作家・石原慎太郎が68年、参議院選全国区に出馬すると、石原の「日本の新しい世代の会」の関西地区の選挙責任者となった。
 石原はこの選挙で301万票をとるのだ。その後父親も選挙に出るがあえなく落選。その後事業も傾き、芦屋の家を失う。
 父親は百合子をカイロ大学へ行かせ、自分もカイロに渡って日本料理店「なにわ」を開き、20年以上カイロに住み、帰国して13年に90歳で亡くなった。
 したがって慎太郎とは近しく、右派団体「日本会議」の石原は代表委員であり、小池も国会議員時代に日本会議国会議員懇談会の副会長をしている。
 父親のルーツを見るまでもなく、小池はガチガチのタカ派である。そうしたものを今は出さないが、国政となればそれも問われる。
 大体、石原とは同じ穴の狢(むじな)である。前に小池に都知事に出ろと勧めたのも石原であった。
 案外、この2人、裏で話し合っていたりするのかもしれない。メディアは、小池が嫌がることも聞かなくては取材ではない。すべてを明らかにしたうえで、まず都民が小池を判断しなくてはいけない。情報は多いほどいいのだから。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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