2018年度から、大学生などが利用できる返済不要の「給付型奨学金」が新設される。

 スウェーデンやノルウェーなど北欧諸国は、教育にかける公的支援が充実している。授業料は無償か非常に低く、学生への支援体制も整っている。子どもへの教育こそ、国を支える力になると考えているからだろう。

 その真逆に位置するのが日本だ。

 戦後、日本では教育費が物価の上昇率を大きく上回って高額になっている。1975年に3万6000円だった国立大学の年間授業料は、2005年に53万5800円へと上昇。40年間で約15倍になっている。その一方で、教育費への公的支援は非常に少なく、個人負担が重いのも特徴だ。OECD(経済協力開発機構)の「図表で見る教育2015年版」によると、高等教育を受けるための個人負担の割合は、OECD加盟国平均が30.3%なのに対して日本は65.7%で、学生への支援整備を長く怠ってきた。

 その象徴的なものが、国の奨学金事業のあり方だ。大学生などを対象とした日本学生支援機構の奨学金は、これまで返済義務のある貸与型しか用意されていなかったのだ。それでも年々利用者は増加。2013年度は約144万人に及んでいるが、その7割が有利子のものだ。

 戦後の経済成長期とは異なり、今は大学を卒業したからといって、誰もが正社員として働けるわけではない。全労働者の4割近くが非正規雇用という社会環境のなかでは、大卒でも安定した収入が得られないこともあり、奨学金の滞納が大きな問題になっていた。

 また、教育格差の広がりは、国力を弱めることにもつながる。親の所得によって子どもが教育を受ける機会を奪われないようにするために、返済不要の給付型奨学金の必要性が言われるようになっていた。

 当初、国は財源確保の問題から、給付型奨学金の創設には消極的だったが、選挙対策のために与党内からも導入を求める声が高まり、「ニッポン一億総活躍プラン」に給付型奨学金の創設が明記されることになった。

 大学生や短大生などを対象とした給付型奨学金の導入は2018年度からで、今年の春から高校を通じて希望者を募る予定だ。利用できるのは、住民税非課税世帯の子どもで、1学年2万人程度。また、高校時代の成績や学外活動での成果なども選考条件になる。

 児童養護施設出身者や私大の下宿生など、一部の学生には2017年度から先行実施される。

 給付額は、下宿の有無、進学先などに応じて月2万~4万円(国立・自宅:2万円、国立・自宅外、私立・自宅:3万円、私立・自宅外:4万円、児童養護施設出身者は別途24万円の入学一時金)。ただし、学業などで問題があれば返還を求められることもある。

 長く放置されてきた教育費の個人負担に目を向け、給付型奨学金を新設したことは大きな評価に値する。だが、利用できるのは1学年2万人程度で、2017年度の18歳人口117万人の1.7%に過ぎない。これで、誰もが平等に高等教育を受けられる社会になったとはいいがたい。

 「勉強したい」という意思のある子どもが、過度な経済的負担を強いられることなく、安心して学べる環境はどうすればつくれるのか。授業料を引き下げるなど、その他の方法も模索しながら解決策を探りたい。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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