中国という一つの国の中に、社会主義と資本主義が並存する制度のことをいう。

 英国(1997年返還)、ポルトガル(1999年返還)からそれぞれ中国に返還された香港、マカオに適用されている。外交と防衛を除く行政分野に「高度な自治」が保障され、当地には返還前の資本主義制度を維持させた。提唱者は鄧小平(とうしょうへい)である。

 香港の場合、特別行政区として独自に行政、立法、司法権が認められており、公用語も中国語と英語である。一国二制度は返還後50年間維持するとされた。

 ところがである。香港でこの一国二制度が形骸化しそうな気配が出てきたのだ。2017年3月、香港行政長官を決める選挙が行なわれ、親中国派の林鄭月娥(りんてい・げつが)氏が当選した。問題なのは、その際、習近平政権が介入したからだ。選挙を前に、政権の要人が「林鄭月娥氏は、党中央が支持する唯一の候補者だ」と発言したのだ。香港の行政長官選挙は、選挙と言っても選挙委員(1194人)による間接投票だ。「一人一票」の普通選挙ではない。しかも委員の大半は親中派で占められており、要人の発言は「林鄭月娥に投票せよ」と大号令したようなものだった。世論調査では当選した林鄭月娥氏は、ライバル候補に30ポイント近く水をあけられていた。民意は林鄭月娥氏に「ノー」だったのだ。

 台湾を自国の一部と主張している中国は、台湾に対しても「一国二制度」を求めている。香港における一国二制度の形骸化の動きは、台湾としても到底、看過できないだろう。
   

   

マンデー政経塾 / 板津久作   


板津久作(いたづ・きゅうさく)
月曜日「マンデー政経塾」担当。政治ジャーナリスト。永田町取材歴は20年。ただいま、糖質制限ダイエットに挑戦中。
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