これまで男性の仕事とされてきた狩猟の世界に、足を踏み入れる「狩猟女子」が3~4年前からメディアに登場するようになった。

 一見、どこにでもいそうな若い女性が、山や森に入り、罠を仕掛けたり、銃を使ったりして、クマやイノシシ、シカ、サル、ウサギなどの野生鳥獣を捕獲する。鳥獣の種類にもよるが、たとえばイノシシだと、体長は100~180cm、体重が80~180㎏ほどになる。力のある男性でも扱いに手こずるものだが、狩猟女子たちは自分よりもはるかに大きなイノシシを解体し、調理して食べている。

 ブームを象徴する1冊の本が、畠山千春さんの『─狩猟女子の暮らしづくり─ わたし、解体はじめました』(木楽舎)で、東日本大震災を機に、自給自足の暮らしを目指した彼女が、狩猟免許を取得して狩猟女子になるまでの心の動きや暮らしの変化を描いている。

 また、2012年には、北海道で「狩猟(shoot)」と「食(eat)」を2本の柱に掲げて活動するTWIN(The Women In Nature -shoot & eat-)という女性狩猟者の団体も発足。狩猟者確保のために女性ならではの視点と発想で狩猟環境を整え、捕獲した野生動物を食や衣などの暮らしに取り入れる提案を行なうのが目的だという。

 これらの狩猟女子に共通するのは、たんに野生動物を捕るという行為にとどまらず、「食」とのつながりを考え、「命をいただく」ことに真摯に向き合う姿勢だろう。

 ただ、狩猟女子の注目を、無邪気に眺めてばかりもいられない。ブームの裏にあるのが、狩猟者数の全体の減少だ。1975年度に51.8万人いた狩猟免許所持者は、2012年度は18.1万人まで落ち込んだ。その後、狩猟ブームの影響で所持者は増加傾向にあるものの、2014年度は19.4万人だ。このうち12.9万人が60歳以上で狩猟者の高齢化も問題になっている。さらに言えば、この統計には免許を持っているだけのペーパー猟師も含まれているので、実際に活動している人はさらに少ないことが予想される(環境省「年齢別狩猟免許所持者数」より)。

 狩猟者の減少が原因のひとつと考えられているのが、野生鳥獣の増加により農産物への被害が深刻化していることだ。1990年代に20万頭ほどだったイノシシは、現在は100万頭に、シカは30万頭から300万頭に増加しているといわれている。これは、狩猟者のいなくなった地域で生態系が変化し、野生動物の生息域が拡大した結果、イノシシやシカ、サルなどによる農作物への被害が多発するようになったから、というのが大方の見方だ。

 これに比例して害獣として駆除された野生動物も増えており、イノシシは1990年度の7万200頭から、2014年度には52万600頭に。シカは1990年度の4万2000頭から、2014年度は58万8000頭へと増加している。

 このまま狩猟者が増加しなければ、山や森の生態系を守れなくなり、農産物への被害が拡大する恐れもある。狩猟女子が注目される背景には、狩猟者の減少と高齢化という待ったなしの状況が隠されていたというわけだ。

 ただ、一方で哀れなのは駆除されたイノシシやシカなどの野生動物たちだ。現状では、捕獲されてもジビエとして食用に回るのは1割程度で、ほとんどは焼却処分されたり、その場で埋められている。いくら害獣とはいえ、ただ殺して、埋めるという行為は、命あるものへの冒涜のようにも感じる。

 駆除された野生動物が食用に回らないのは、食品衛生法第52条により、食肉処理業の許可を得ていない施設で解体されたイノシシやシカなどは販売できないこととも関係している。野生動物の場合は、狩猟後すぐに屋外で解体されることが多いため、現状では市場にのせるのは難しい。

 生態系を守るために狩猟免許取得者を増やすなら、そこで駆除されたイノシシやシカの命を最後までいただくための仕組み作りも考えたいもの。それには、狩猟の延長線上に「食」や「衣」を見出している狩猟女子たちの視点が必要なのではないだろうか。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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