毎朝のように自宅の表に出て、道路の掃き掃除をする「門掃き」という習慣が、京都人の美徳としてテレビ番組などでよく放送される。「かど」とは、玄関の周辺を表す方言で、「門掃き」は、「おはようさん」とお隣さんなどと挨拶を交わし掃き掃除をすることだ。終わったら、お天道様やお地蔵さんに手を合わせたり、暑い季節には打ち水をしたり。「早起きは三文の徳」といったところであろう。

 昔から職住一体の長屋暮らしが多い京都の町では、「門掃き」は「でっちさん」や「おなごっさん」がするものだった。それが徐々に、家人が掃除をする暮らしが当たり前になり、現代のような朝の様子があちこちで見かけられるようになっていった。むろん、そこには京都独特のルールが存在する。例えば、掃き掃除をする範囲は、家の敷地に面した道路の真ん中を少し超えた辺りまでで、両側はお隣さんとの境界を一尺(約30センチ)ほど超えた所まで。これが暗黙の決まりで、そこには「やり過ぎたらあかんけど、少しやったら」という優しさがある。一見、水くさく感じる人もいるかもしれないが、その理由は、頼まれてもいないのに、お向かいさんやお隣さんの領域に踏み込むのは「いらんお節介」ということなのだ。この微妙な距離感が、家々の隣接した狭い町で、隣近所と仲良く暮らしていくために必要な間隔で、付き合いを長続きさせる秘訣なのである。

 この「みやこぶり」というのか、京都人がもっている気質のようなものは、将来「門掃き」の習慣がなくなってしまっても、ずっと受け継がれていくのではないだろうか。

 

   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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