いつの時代も、故事や史実、歴史上の人物などを照らしながら、不可思議な現象がさまざまに取り沙汰されるものである。その数はなぜか七つということが多い。八坂神社やその地域にも不思議な七つの風俗や習慣が伝承され、「祇園七不思議」と呼ばれている。さて、どのようなものだろう。

1、夜啼石(よなきいし)。八坂神社にある16の摂社末社の一つ、捨山王社(すてさんのうしゃ、日吉社)の古木の根元にある石が、夜になると「しくしく」と泣くという。
2、二見岩(ふたみいわ)。伊勢神宮の天照大御神(内宮)と豊受(とようけ)大神(外宮)を祭神とする末社、大神宮社(だいじんぐうしゃ)にある岩は小さいが、地中の姿は地軸に達するほど大きいとか。
3、西楼門(にしろうもん)。四条通のどんつきとなる社の西面にあり、石段上にそびえる西楼門。ここには、雨垂れの落ちる場所に窪みができない。さらに、蜘蛛の巣が張っているところを誰も見たことがないという。
4、力水(ちからみず)大神宮社の入口にある湧き水で「祇園神水(しんすい)」とも呼ばれる。この水を飲んで隣接する美御前社(うつくしごぜんしゃ)に参拝すると美人になれるといわれる。
5、龍穴(りゅうけつ)。八坂神社本殿の下には大きな井戸があり、そこに龍が棲んでいて、龍宮に通じているという。また一説には、神泉苑や東寺にも地下でつながっているという。
6、忠盛灯籠(ただもりとうろう)。八坂神社本殿の東側にある石灯籠のこと。『平家物語』巻六によれば、五月雨の夜、祇園女御のもとへ向かう白河法皇が、石灯籠付近で鬼を見たそうだ。そのとき、法皇はお供の平清盛の父、忠盛に鬼を討ち取るよう命じるが、忠盛は、まず正体を見極めるために生け捕りを試みる。すると、実は祇園社の社僧だったという。雨具の蓑が灯籠の光で輝き、銀の針をまとっているかのように見え、鬼のように思われたのだという。忠盛の機転の良さを逸話にしたもので、現存する忠盛灯籠は、その頃からあるものだといわれている。
7、龍吼(りゅうぼえ)。本殿の東の柱に龍吼と呼ばれる彫刻がある。その下で西に向かって立ち、手を打つと、龍が鳴くといわれ、不思議な音が聞こえるそうだ。

 「七不思議」というけれど、どれも史実のような説得力があり、面白い。実は「祇園七不思議」といわれる伝説はもっとたくさんの話があり、すべて上げたら20ぐらいあるだろう。これとは別に、「永観堂七不思議」や「清水寺七不思議」などと、京都中の名所あちらこちらに七不思議が存在する。物見遊山を楽しくする話題として、昔から人から人へと伝えられてきた話なのだろう。

 


八坂神社境内(写真上)と忠盛灯籠(下)。祇園女御の邸宅は、八坂神社境内を山側の東方向へ進んだところ(現在の円山公園内)にあったそうだ。


京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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