自動車産業はそれほど先ではない時期に斜陽産業になる。そう私は思っている。

 だいぶ前になる。私は講談社という出版社に籍を置いていたが、50代半ばで自動車専門雑誌を出す子会社に出向させられたことがあった。

 社員全員を集めた初めての会議で私は、「クルマは人殺しの道具である。そんなものを、宣伝・広報する雑誌を私はやりたくない」と言って全員の大顰蹙を買ったことがあった。

 この無茶苦茶な暴言について少し説明する。クルマはもはやスタイルやスピードを競うのではなく(当時は自動車事故の死者が毎年1万人前後で推移していた)、安全性に一番カネをつぎ込むべきなのに、それをしない自動車産業は怠慢であり批判されるべきだ。このままいけば石炭産業や鉄鋼産業と同じ運命が待ち受けているに違いないというものだった。

 最近になってクルマ業界も安全性を声高に言うようになり、高級車には自動ブレーキなどを取り付けるようになったが、私に言わせれば遅きに失したと思う。

 CO2排出削減が叫ばれるようになり電気自動車(EV)への移行が始まってはいるが、私は、EVが普及する前に自動運転車が主流になり、既存の自動車メーカーはグーグルやインテルといったIT企業の下請けとして生きるしか道はないのではないかと考えている。

 今回は自動車産業の未来を云々することではないので、ここらあたりでやめておくが、クルマは国家なりという時代は遠い夢物語になりつつあるのだ。

 現時点だけでとらえれば、トヨタが日本を代表する企業であることは間違いない。だがここも、さして明るくない自社の未来をどう考えるのかということよりも、昔ながらの人事抗争に明け暮れていると『週刊現代』(5/6・13号、以下『現代』)が報じている。

 『現代』によれば、4月1日付で発表されたトヨタの役員人事が「懲罰人事」だと、社内ではこの話題で持ちきりだったというのだ。

 その人事とは、牟田弘文専務役員(61)が退任して子会社の日野自動車顧問に就任し、6月の株主総会で副社長に就くというものだが、これが「懲罰人事」だとされるのは、日野の新社長に牟田の下にいた下義生(しも・よしお)常務が抜擢されたからである。

 日野自動車社長は代々トヨタの専務経験者が就くポストだそうだから、系列企業の役員は「豊田章男(とよた・あきお)社長の逆鱗に触れた牟田氏に対する懲罰人事。自分に逆らえば、こういうことになることをトヨタグループ中に見せしめた」と解説している。

 では、何が社長の逆鱗に触れたのかというと、これがよくわからない。一つは15年8月に発生した中国・天津市の国際物流センターでの爆発事故の際、現場近くのトヨタの合弁工場の従業員50人近くが負傷したために生産が10日間近く止まってしまったのだ。

 そのとき、豊田社長は現地に入って陣頭指揮をとると言い出したのだが、牟田専務が現場は大混乱しているので、社長を受け入れる余裕がないと引き留めたというのである。部下としては当然の意見具申ではないのかと思うが、豊田社長は立腹したそうである。

 続いて16年4月にトヨタが導入したカンパニー制にも「トヨタの強みが失われる」と主張して最後まで反対したという。

 カンパニー制にすると、自動車会社として大事なブランドイメージなどがバラバラになるリスクがあるという危惧からのようだ。

 だが、そうしたことに腹を立てた豊田社長が、牟田氏が率いる、工場の建設からロボットやプレス機器など各種機械を導入して製造ラインの設計・構築を担当するトヨタの中枢である生産技術部門全体を「抵抗勢力」とみなし、関係者を放逐し始めたという声まであがっているそうだ。

 実際、牟田氏の有力後継者とみなされていた花井幹雄常務理事まで退任となり、「まるでどこかの国の粛清人事を見ているようだ」(中堅幹部)という不満もある。

 実際、牟田氏の送別会では、「こんな会社はやってられないので辞めてやる」という不満と愚痴がさく裂したそうだ。

 その一方で、社長と仲良しの人間たちを厚遇する人事を始めたというから、社内から不満の声が起こるのは致し方ないのかもしれない。

 その象徴は同じ4月1日付で、トヨタOBでデンソー副会長の小林耕士氏を本社相談役に就けた人事だという。

 トヨタの相談役は副社長以上経験者が就くケースがほとんどだが、小林氏はトヨタで執行役員にも就いていない。なぜその彼が相談役に就けたのか。

 彼はトヨタグループの中では知る人ぞ知るという人物で、一部では「トヨタの陰の会長」と呼ばれており、豊田社長の相談に乗り、役員・幹部の人事にも影響力を持つといわれる存在だそうだ。また、社長側近の一人である永田理専務が副社長に昇格し門外漢のCFO(最高財務責任者)に就いたことも「仲良し人事」と見られているそうである。

 また、常務から専務へ昇格する上田達郎総務・人事本部長も豊田社長の信頼が厚く、社内で「トヨタの柳沢吉保」と呼ばれるほど、社長の意向を忖度する能力には長けているといわれているそうだ。

 「選任された社内取締役を見ると、『いい人』『自分の意見を強く言わない人』という評判の人ばかり。結局、豊田社長は本質的な議論ができない取締役会を作ったのであり、それは自分が意見を言われるのが嫌いだからと見られても仕方がないでしょう」(中堅幹部)

 これをレポートしているジャーナリスト・井上久男は朝日新聞出身。彼はこのままでは、トヨタは激しい競争から劣後しかねないという危機感を覚えると書いている。

 「かつてのトヨタ担当記者は健全な批判を書くことで一目置かれたが、現在は批判記事を書こうものなら即刻出入り禁止処分を受けることがある。しかし、筆者はあえて書く」(井上)

 最近、安全管理に厳しいはずのトヨタで火事が起こっている。工場管理の基本は5S(整理・整頓・清掃、清潔・躾)にあるが、今のトヨタにはそれさえできていないのではないかという。

 また、トヨタの系列企業の団体に「協豊会」というのがあり、年に一回の総会が4月10日に開催されたが、豊田社長はフランスで行なわれた世界ラリー選手権の視察に行っており、下請け企業からは「俺たちよりもレースのほうが大切なのか」という嘆きが出たという。

 このところ独壇場だった国内販売でもほころびが出ている。3月の新車販売で日産『ノート』が1位を獲得しているが、この新型ノートは昨年11月の発売以来3か月もトップを取っているそうである。

 それに比べてトヨタの『プリウス』は新車発売1年余りで陰りが出ており、当初の計画通りには売れていないそうだ。

 ノートが評価されたのは、EVに近い新しいハイブリッドシステムを搭載したことにもあり、国内市場でもEVへの評価が高まりつつあることの現れと見る販売店は多いという。

 だがトヨタはEVをまだ販売しておらず、16年12月1日付でトヨタ社長直轄のEV事業企画室を新設したばかりなのだ。

 EVへの取り組みが遅れたのは、社内で意見を言うと社長に悪く思われはしないかという「忖度」が働いたからだという。

 世界的にみれば自動車業界は合従連衡の渦の中にいる。昨秋、米クアルコムは車載用に強いオランダの半導体会社を約5兆円で買収。今年3月には米インテルが自動運転の画像処理に強いイスラエルのモービルアイを約1兆7000億円で買収することに合意し、このインテルやモービルアイ、独BMWは自動運転での提携を発表している。

 井上はこう結んでいる。

 「ダイナミックな世界の動きに比べて、トヨタでは明確かつ大胆な戦略が見えてこない。自動車産業は勝者と敗者の入れ替わりが激しい業界だけに、このままではトヨタが負け組に転落する日が来てもおかしくないと感じてしまうのである」

 盛者必衰。トヨタも永遠ではない。安倍首相と同じように、トランプ大統領の言うことに付き従っていれば「安泰」だとトップが考えているとすれば、トヨタには明日がないかもしれない。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 トランプのアメリカは北朝鮮への圧力を強めている。いつ不測の事態が起きても不思議ではなく、韓国はもとより中国、ロシアも緊張感をもって推移を見守っている。だが、日本は、と見てみれば、政府もメディアも、国民までもがコトの重大さに気づいていないようである。安倍首相は、北からミサイルが飛んで来たら地下や柱の陰に隠れろと指示したそうだ。笑い話では済まされない。今やらなければいけないのは、米空母などを朝鮮半島から遠ざけ、北が話し合いに応じるよう中国に働きかけることであるはずだ。少なくとも「米艦防護」などやるべきではない。そう思うが、この国のメディアの声はかぼそくて聞こえない。

第1位 「安倍晋三首相が頼る『運勢』のお告げ」(『週刊文春』5/4・11号)
第2位 「安倍昭恵『別居生活』と『偽装ツーショット』の修羅現場」(『アサヒ芸能』5/4・11号)
第3位 「トランプの天敵ワシントン・ポスト砲の“凄腕スナイパー”」(『週刊文春』5/4・11号)

 第3位。安倍政権は放言、暴言続出で崩壊寸前のようだ。こういう時こそ新聞、週刊誌など紙メディアの出番だが、日本には『ワシントン・ポスト』のマーティン・バロン(62)のような「凄腕スナイパー」のいないことが残念だ。

 バロンは『ボストン・グローブ』紙編集局長のとき、映画にもなったカトリック教会神父らによる性的虐待をスクープしている。4月に『ワシントン・ポスト』紙は、トランプのやっていた慈善活動を調べ上げ、財団を私物化していた実態を明らかにした。彼は嗅覚が鋭く、疑惑があれば、決してターゲット(トランプ)から目を離さない。バロンはスピーチでこう述べていると『文春』が報じている。

 「トランプ政権は機会さえあれば、我々を脅かすのか? 何をするにも妨害に遭うのか? もしそうなるとしたら、我々はどうしたらいいのか?」

 そしてこう続けた。「答えは簡単だと私は思う。我々は我々の仕事をするだけだ
 国際NGOの国境なき記者団が26日、2017年の「報道の自由度ランキング」を発表した。アメリカは「トランプ大統領がメディアを民衆の敵だと位置付け、いくつかのメディアのホワイトハウスへのアクセス制限を試みた」として、41位から43位に下げた。日本は順位こそ変わらないものの主要7か国(G7)中最下位の72位。日本のメディアが汚名返上するには今しかないはずだが。

 第2位。『アサヒ芸能』は、義母の洋子が怖くて家に帰れないと、安倍の妻・昭恵がこぼしていると報じている。
 それに最近の森友学園問題で、2人は別居状態にあるというのだ。官邸関係者がこう語る。

 「4月1、2日の両日、秘書官同席ながら、別荘がある山梨県の飲食店で食事をする様子が報じられました。ところがこれはある意味、ヤラセでした。安倍総理は3月31日午後に山梨入りしましたが、昭恵夫人が来たのは翌日の午後、食事の直前なんです。メディアにツーショット写真を撮らせる食事時だけ夫妻は一緒でしたが、その他の行動は別々。2日の昼食後も別々の車で帰京しています」

 それも安倍は自宅へ戻ったが、昭恵は千葉県の寺院に向かったという。最近は千葉の知人のもとに身を寄せているというのだ。
 そうしたことがあって、安倍首相の持病のほうもよくないそうだ。2月のトランプ就任後初の首脳会談でも、安倍はアイスティーを飲んでいたという。
 また、運動不足解消と称して、港区内の会員制高級フィットネススパに通っているのも、「ここの個室にかかりつけの医者を待機させ、極秘裏に診察を受けていると言われています」(政治ジャーナリスト)
 わがままなトランプと妻がいては、健常人でもおかしくなるだろう。その点は安倍首相にちょっぴり同情したくなる。

 第1位。安倍内閣の緊張感のなさは今の週刊誌と五十歩百歩であるが、安倍首相が物事を決める時や人事の際、頼っているのは「占い」だと『文春』が報じている。
 『文春』によれば、トランプを安倍が信用するのも、「中原さんが『トランプとは相性がぴったり』というメールをくれた」からだそうだ。
 国の命運を左右することを占いに頼るのは、安倍に確固たる信念がない証だが、中原なる人物は何者なのか
 元日本銀行審議委員の中原伸之氏(82)で、安倍の経済ブレーンとして知られるという。大学を出て父親が社長だった東亜燃料工業(現・JXTGエネルギー)に入社し、自身も8年間にわたって社長を務めている。
 安倍を囲む財界人の勉強会「晋如会」を主宰していた。総選挙で圧勝して返り咲くと、中原氏のペーパーを下敷きにして早速、アベノミクスの第一の矢「異次元の金融緩和」を打ち出した。
 安倍が中原氏を信じるようになったのは、12年の総裁選に出れば「総裁選は一位にはなれないが、二位、三位連合で絶対勝ち抜ける」と推したからだったという。
 以来、ことあるごとに中原氏の運勢占いに信頼を置くようになった。だが安倍側近の1人はこう危惧する。

 「韓国の朴槿恵(パク・クネ)前大統領と崔順実(チェ・スンシル)の関係と同列に論じることはできませんが、首相が重要な政治判断を、非科学的な運勢占いに頼っていいのか。政局や人事はもちろん、『トランプと相性が良い』という占いの結果を根拠に、米国に肩入れし過ぎるとすれば、安全保障上も大きなリスクです。こうした政権運営の裏側を国民は知らされていません」

 今、安倍が一番占ってほしいのは米朝戦争のことではなく、妻・昭恵と離婚すべきかどうかではないか。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
ジャパンナレッジとは

ジャパンナレッジは約1700冊以上(総額750万円)の膨大な辞書・事典などが使い放題のインターネット辞書・事典サイト。
日本国内のみならず、海外の有名大学から図書館まで、多くの機関で利用されています。

ジャパンナレッジ Personal についてもっと詳しく見る