一昔前は「副業禁止規定」が普通のことであった。たとえば友人のビジネスを手伝うようなことがあっても、所属する会社にバレないように、こそこそやる気持ちが存在していたはずだ。しかし、終身雇用のシステムが崩壊した現代において、キャリアをすべて仕事先に捧げるのはリスクが高い。企業側でも、オフィスにいないときはどうぞご自由に、という姿勢をとるところが増えてきた(外で視野を広げて、それを社に還元してほしいと考えるところもある)。

 そもそも、必ずしも企業にいることが得策とは限らない。自分で起業したり、フリーランスになるという選択肢はどうだろう。重要なことは所属ではない。メインとなる仕事をしつつ、その専門性を活かして別の仕事をする。そうして仕事や人脈の幅を広げていく、未来に向けて自分の価値を上げ続けることが、いまを生き残る術なのだ(ということが、最近よく語られる。これも意識が高くてなかなかタイヘンではあるが)。

 この時代を反映して、一つの肩書だけで済ますのではなく、複数の肩書を同時に掲げるスタイルが増えている。ひんぱんに名刺交換しているビジネスマンであれば、並列型の肩書が多くなった実感は間違いなくあるはずだ。

 テレビでおなじみの例では、「医師(あるいは弁護士)/タレント」などが挙げられる。そのなかには、本業とまったく関係のないバラエティに出演する御仁も見受けられるが、それも立派な「営業活動」。ほかにも、「営業マン/ライター(あるいはブロガー)」のように、明らかに「(会社員)/(副業)」となっている肩書もある。日々のサラリーマンとしての体験をもとに、リアルな業界の問題などを、別のメディアに寄稿しているのだろう。

 これらは、肩書と肩書のあいだに/(スラッシュ)が入ることから、「スラッシュキャリア」と呼ばれる。もとは著名な経営者に対するコーチングで有名なマーシャル・ゴールドスミス氏の言葉である。この「/」は、ニュアンス的には「×」(かける)に近いと考えたほうがよい。異なる分野において掛け算の実力を発揮できる、他にはマネのしにくいキャリアであると、みずからのバリューの高さを主張できるわけである。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   


結城靖高(ゆうき・やすたか)
火曜・木曜「旬Wordウォッチ」担当。STUDIO BEANS代表。出版社勤務を経て独立。新語・流行語の紹介からトリビアネタまで幅広い執筆活動を行う。雑誌・書籍の編集もフィールドの一つ。クイズ・パズルプランナーとしては、様々なプロジェクトに企画段階から参加。テレビ番組やソーシャルゲームにも作品を提供している。『書けそうで書けない小学校の漢字』(永岡書店)など著書・編著多数。
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