昨年の8月に出版された佐藤愛子氏のエッセイ『九十歳。何がめでたい』(小学館)がロングセラーとなっている。よそ様の子育てにまで四の五の言うような世間の偏狭さを、「いちいちうるせえ」と喝破するなど、痛快な内容。評判は増すばかりで、いまや80万部に迫ろうかという勢いだ。単に「毒舌」の著名人ならばごまんといるが、佐藤氏には93歳の人生のベテランならではの優しさも感じられる。読者にとって癒しにもなっているようだ。

 そのキャラクターにも注目が集まり、『直撃LIVEグッディ!』(フジテレビ系)、『ゴロウ・デラックス』(TBS系)、『徹子の部屋』(テレビ朝日系)と、立て続けに人気番組に出演した。当人としてはテレビ出演は疲れるので嫌、今後は御免被りたいということ。それが残念なほど、魅力的なタレント性を見せている。

 今回のブレイクには前段がある。最後の小説『晩鐘』のあと、二度と筆を執ることもあるまいと考えていた佐藤氏。だが、ものを書かない日々に鬱々としてしまった。そこで出版社の依頼を引き受けることにしたというのだ。根っからの仕事人間である。もともとエッセイの名手であり、他の著作も連動して売れている。また直木賞受賞作『戦いすんで日が暮れて』など、「本分」の小説も再注目された。

 メディア各所でのインタビューを読む限り、その舌鋒は衰えるところを知らず。まだまだ活躍を追っていきたい作家である。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   


結城靖高(ゆうき・やすたか)
火曜・木曜「旬Wordウォッチ」担当。STUDIO BEANS代表。出版社勤務を経て独立。新語・流行語の紹介からトリビアネタまで幅広い執筆活動を行う。雑誌・書籍の編集もフィールドの一つ。クイズ・パズルプランナーとしては、様々なプロジェクトに企画段階から参加。テレビ番組やソーシャルゲームにも作品を提供している。『書けそうで書けない小学校の漢字』(永岡書店)など著書・編著多数。
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