森友学園問題に続いて安倍晋三首相のお友だち(加計(かけ)孝太郎)が総長をやっている加計学園が獣医学部を新設する際、首相からの働きかけがあり、当初反対していた文科省側がお得意の「忖度」をして態度を急変させ、認可したのではないかという疑惑が広がっている。

 何しろ、安倍首相の目玉政策である国家戦略特区として獣医学部を愛媛県今治(いまばり)市につくれと決定したが、その資格を有するのは加計学園(岡山市)一校しかなかった。そのうえ、今治市は同地区の高等教育施設用地(16.8ヘクタール)を無償譲渡するだけでなく、施設整備費の債務負担行為限度額96億円の助成もするというのである。

 誰が見ても公私混同の極みだが、安倍首相や菅官房長官らは、森友学園同様、何らやましいところはないと白を切り通し、逃げ切る構えだった。

 しかし天網恢恢(かいかい)疎にして漏らさず。前川喜平文科省前事務次官(62)が、首相補佐官など複数人から、「これは官邸の最高レベルが言っていること」「総理のご意向だと聞いている」から獣医学部の新設を認めろ、規制改革せよと文科省側に圧力をかけていたことは事実、その文書も残っていると告発したのである。

 朝日新聞がこれをスクープし、一気に安倍首相の目に余る公私混同が表に晒され、さしもの安倍一強政権も傾くかと思われた。

 慌てた官邸は、菅官房長官が「あれは怪文書みたいなもの」と真っ向から否定し、官邸のポチ記者の一人・田崎史郎時事通信特別解説委員がフジテレビの『とくダネ!』に出て「(前川は)首を斬られたのを逆恨みして出したもの」と、安倍の代弁をして文書の正当性を打ち消して見せた。

 辞任の経緯を少し説明しておこう。前川前次官は、文部科学省が国家公務員法に違反して同省前局長の早稲田大学への「天下り」をあっせんした疑いが指摘された問題で責任を問われ、わずか半年余りで事務次官の座から降ろされているが、前川は自ら辞任を申し出たと言っている。だが菅の前川憎しは止まらない。

 「前川氏は天下り問題についての再就職等監視委員会の調査に対して問題を隠蔽(いんぺい)した事務方の責任者で、かつて本人もOB再就職のあっせんに直接関与していた。にもかかわらず、当初は責任者として自ら辞める意向をまったく示さず、地位に恋々としがみついていた。その後、天下り問題に対する世論からの極めて厳しい批判にさらされて、最終的に辞任したと承知している」(5月25日、菅官房長官の記者会見での発言)

 前川は、東京大学法学部卒業後に文部省入省。在フランス大使館一等書記官、大臣官房総括審議官などを歴任したエリート。祖父は産業用冷凍庫の世界でトップシェアをほこる前川製作所の創業者。父親は前川産業(現:株式会社前川)元社長で、妹の真理子は中曽根弘文(中曾根康弘元総理の息子)元文相、外相夫人である。この華麗なる人脈からは、逆恨みしてあることないことを言い立てる人物には見えない。

 このままではいけないと考えた官邸は、まさにスノーデンが暴露したアメリカ国家安全保障局(NSA)のような役割をしている内閣情報調査室(内調)と公安警察に前川の活動監視を命じ、親しいマスメディアに書かせるという禁じ手を使ったのである。

 『週刊現代』(6/10号)で公安の内情に詳しいジャーナリストの青木理(おさむ)がこう語っている。

 「警視庁公安部は、テロ組織や過激派以外にも、日常的に中央省庁幹部、次官・局長クラス、さらには問題を起こしそうな官僚や重要案件の担当者などの身辺情報を集めています。また、内調は事実上、公安の『官邸出先機関』のようなものです」

 そして公器を自称する読売新聞が5月22日付朝刊で「前川前次官 出会い系バー通い 文科省在職中、平日夜」と見出しを付けて報じたのである。

 「その結果、安倍官邸の目論見通り、前川前次官の信頼や名声は、あっけなく地に落ちたのだ」(『週刊新潮』6/1号、以下『新潮』)

 読売新聞が飛ばし、同じ官邸御用達の産経新聞が続き、『新潮』がご丁寧に、前川が通っていたという新宿・歌舞伎町の「出会い系Bar」の潜入ルポをする。

 見事な連係プレーである。

 そのBarは、男は入り口で入場料6000円を払い、無料で入れる女性たちを物色し、気に入った女性を外に連れ出して食事やホテルに誘うシステム。

 『新潮』が前川の写真を見せると、そこにいた女性たちが口々に、「あ、何度も見たことがある!」「週3、4回くらいじゃない。1年ちょっと前から来るようになって」と証言する。

 だが『新潮』もこれではあまりに権力寄りだと気づいたのか、その店の女性に「あなたが来る2日前から、読売新聞の2人組がここに来ていた。最初は名乗らず、あなたと同じ写真を見せながら“同じ会社のすごい人なんだ”とか言って、何人もの女の子を食事に連れ出し、色々と話を聞き出そうとしていたよ」という証言を載せている。

 読売新聞は“ポチ新聞”になり下がった。いや、もともと程度の良くない新聞だったのが、安倍首相の改憲論の理論的支柱を自任するナベツネ主筆の狼藉ぶりが目に余るようになってきただけなのだが。

 またNHKは、前川のインタビューも収録済みなのだが、いまだ放送されていないという。

 「というのも、前川さんに“買春疑惑”が持ち上がってきたからです。そんな破廉恥な元役人の話に丸乗りして、安倍総理を追及するのは危険ではないかという判断が、局の上層部であったみたいです」(NHK関係者)

 一方、『週刊文春』(6/1号、以下『文春』)は、前川前次官の「独占告白150分」を巻頭でやっている。

 前川は16年6月に事務次官に就任したが、すぐに直面したのがこの獣医学部新設問題だった。文科省は獣医師の供給不足はない、新設するならば、既存の獣医学部で対応できないニーズに応える獣医師を養成する場合に限るという原則を決めていたが、16年8月に大臣が代わり、新たに「安倍のイエスマンのような存在」(官邸関係者)の山本幸三が地方創成相に就任すると、話が動き出し、山本が率いる内閣府が学部新設へ前のめりになっていったという。

 内閣府からの文書の中に「これは官邸の最高レベルが言っていること」などの文言が入り、前川は「『これは厄介な話だな』と思った記憶があります。官邸の最高レベルというくらいですから、総理か官房長官かな、と受け止めていました」と語る。

 さらに追い打ちをかけるように、平成30年4月開学を前提として内閣府は進めているとし、その理由が「総理のご意向だと聞いている」というのだ。

 前川は「これは藤原審議官の表現であって、本当の総理のご意向なのかどうか確認のしようがありませんが、ここまで強い言葉はこれまで見たことがなかった。プレッシャーを感じなかったと言えばそれは嘘になります」と、総理のご意向という言葉に次官といえども恐れおののいた。

 なぜそんなに急いだのかよくわからないが、結局、内閣府が描いたスケジュール通りに進んでいった。それも加計学園に有利な条件に変更されて。前川はこう反省している。

 「本来なら、筋が通らないと内閣府に主張し、真っ当な行政に戻す努力を最後まで行うべきだったと思います。『赤信号を青信号にしろ』と迫られた時に『これは赤です。青に見えません』と言い続けるべきだった。それができなかった、やらなかったことは、本当に忸怩(じくじ)たる思いです。力不足でした」

 読売新聞の「出会い系バー通い」報道については、「その店に行っていたのは事実ですが、もちろん法に触れることは一切していません」と潔く認めている。

 前事務次官がここまで証言しているのだから、安倍の便宜供与疑惑は真っ黒である。だらしのない野党のケツを叩き、安倍を追い込み、共謀罪を潰すために真っ当なメディアは結束すべきである。

 だが当の安倍は、国会で追及されても「疚(やま)しいところはまったくない」の一辺倒。5月31日付の朝日新聞で、ICIJ(国際調査ジャーナリスト連合)の創設者チャールズ・ルイスがこう話している。

 「トランプ大統領は、真実や事実関係を無視し、毎日のように虚偽発言をします。前世紀、政治が恐ろしい結果を招いた例を見ますと、政治家がうそをつくことから始まっています。それを次第に国民が真実だと錯覚するようになっていくのです」

 トランプを安倍に変えれば、まったく同じことがいえる。否、このことは安倍がトランプに教えたのではないか。追及されても嘘を100万回言っていれば国民は信じるようになる。

 どうしても困ったときは、それを打ち消すような大風呂敷を広げ、国民やメディアの関心をそちらに向ければ、そのうち忘れてくれる。

 森友学園や加計学園問題で困った安倍が突如持ち出したのが憲法改正ではなかったのか。2020年までにやる、憲法9条の1項と2項はそのままにして、第3項に自衛隊を入れるという、ウルトラサーカス的言い方をした。

 わが国は平和憲法を持ち戦争放棄をしているのに、侵略戦争はやりますと言っているのに等しい。こんなふざけたことは憲法学者ならずとも、インチキだとわかる。だが安倍にとっては、森友学園や加計学園を忘れてくれればそれでいいのだろう。

 「私は嘘をついていますが、私は根はそんなに悪い人間ではありません。総理という職にあるため、こういう見え透いた嘘をつかなくてはいけないのです」と顔に書いてある。

 トランプはこれを聞いて膝を打ったに違いない。ロシアンゲートで追い詰められそうになったとき、国民の関心を他に向けるにはどうしたらいいのか。安倍に電話で相談したかもしれない。「それには世界で一番嫌われている北朝鮮を攻撃するに限る」とでも言ったのだろうか。トランプは空母を結集し、初外遊に出かけアメリカを逃げ出した。

 だが、トランプには誤算があった。アメリカのメディア、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストは決してトランプ監視を緩めてはくれないからだ。

 安倍はトランプに、マスメディアなんて、酒を飲ませて甘い言葉をささやいてやればイチコロですよと言ったのだろう。ただし「日本の」と付け加えるのを忘れてしまったのだ。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 このところ『現代』や『ポスト』だけではなく、『文春』や『新潮』まで健康雑誌に衣替えしたようだ。今週の『ポスト』の「主治医が60歳以上だと死亡率が急上昇する」には笑った。たしかに確率的にはそうなのかもしれないが、医者も人の子、若くてもどうしようもない医者もごまんといる。だが、今週の『現代』の「耳かきはいけない」というのは新鮮だった。耳かきや綿棒は耳の奥に入れてはいけない。そうかもしれないな。

第1位 「判決ソフトに頼る『コピペ裁判官』が増殖中」(『週刊現代』6/10号)
第2位 「60すぎたら『耳かき』をしてはいけない」(『週刊現代』6/10号)
第3位 「舛添要一前都知事独占手記『都知事失格の私から小池さんへ』(『週刊ポスト』6/9号)

 第3位。『ポスト』が舛添要一前都知事の独占手記をやっている。いまさら聞くことなどないように思うのだが、覗いてみよう。
 まずは、自分の時に五輪予算が膨れ上がったが、それを削減したとの自慢。それに、森喜朗(よしろう)が自分の“政治の師”だとして、五輪の組織委員会会長として大所高所から的確な判断をしたというのである。
 また、小池にすっかり悪者にされたドン・内田茂も、世間のイメージと実像が異なり、都知事選に立候補したときには、猛反発した自民党都連を押さえてくれたと、感謝している。
 豊洲問題では、石原慎太郎や猪瀬直樹などの身勝手な人事で、職員は委縮し、イエスマンしかいなくなったところに問題があったとしている。
 そして小池のやり方をこう批判する。

 「豊洲を含めた小池劇場が長引くほど、財政を含めた様々な面で大きな負担を強いられるのは、都民だ。
 『サーカス』に騙された都民は、そのツケを自ら払わなければならないのである。
 もちろん分かっている。私が辞任した結果、都政に混乱を招き、都民を失望させてしまったのだ。それに関しては、心から申し訳ないと思っている。
 さきほど職員と都知事の信頼関係構築を説いたが、私にそれができたという自信はない。
 そんな私が、最後に私心を捨てて言う。小池知事は都民を騙すのをやめたほうがいい。そして都民よ、いい加減目を覚ましてほしい」

 都民はあなたへの怒りを忘れてはいない。その怒りが小池支持へ向かい、小池も口先ばかりで何もやろうとしないで、国政への足掛かりとして都議選を私物化しようとしている。
 国と同じで、我々都民も、一度たりとも「都民のための都政」を真剣に考える都知事に出会ったことはない。あるとすれば美濃部都政の一期の時ぐらいか。
 小池は早くも賞味期限切れが来たようだ。だが、安倍政権と同じように、小池しかいないという「感情論」で、小池新党がある程度の勝利を収めるかもしれない。かくして、都民は汚い空気とまずい食べ物を食べて生きてゆかなくてはいけない。嗚呼!

 第2位。ところで『現代』によると、60過ぎたら耳かきをしてはいけないそうだ。
 JCHO東京新宿メディカルセンター耳鼻咽喉科の石井正則診療部長は、こう解説する。

 「耳垢(じこう)には抗炎症作用のある免疫グロブリンAが含まれ、耳の中で細菌が繁殖するのを抑える効果があるのです。なので、完全に耳垢を取り除いてしまうと、かえって細菌感染のリスクが高まってしまいます。(中略)
 たかが耳かき、と油断してはいけません。耳かきのやり過ぎで湿疹がひどくなると、そこにカビが生えてくることがあります。水虫のように、菌が繁殖してしまうと根治が難しいのです。悪化すると、耳介軟骨膜炎を発症するケースもあります。これは、軟骨が炎症を起こして激痛とともに耳が腫れ上がる病気で、最悪の場合、耳が変形してしまうこともあるのです」

 アメリカ耳鼻咽喉科頭頸部外科学会聴力委員会のダグラス・バカス会長は、次のように語る。

 「『なんとなく耳がムズムズするから』と耳かきがやめられない人が多いようですが、これは負のスパイラルに陥っている証拠です。(中略)
 北米で最もポピュラーな綿棒『Q-tips』の公式サイトには、『綿棒は外耳道に入れずに、耳たぶの周りを掃除するのに使ってください』と注意書きがあります。(中略)
 また、日本でポピュラーな竹製の硬い耳かきは、綿棒よりもより外耳道を傷つけるリスクの高いもので、本来は使うべきものではないのです」

 私も耳が痛いことがあるが、綿棒を耳に入れるなら1センチメートルだけにしろというのだ。頻度としては月1回でも多いくらいだと思ったほうがいい。週1回以上している人は、耳かきのしすぎだそうだ。そうだったのか。

 第1位。岩瀬達哉(たつや)が『現代』の連載の中で、コピペ裁判官が急増していると報じている。岩瀬は、本来、判決は、裁判官が「記録をよく読み、よく考え、証拠に照らして的確な判断を下さなければ書けない」ものだが、それを普通の事務のように処理することを可能にしている判例検索ソフトができているという。
 最高裁は「判例秘書」や「知財高裁用 判例秘書」など各種ソフトを、約7500万円かけて購入しているそうだ(2016年度予算額)。このうち「判例秘書」はほとんどの裁判官が活用していて、自分の抱えている訴訟と類似する過去の事件で、どのような判例があるかを検索しては、判例起案の参考にしているという。

 「参考にするだけならまだしも、なかには似た事案の判例を見つける、やっとこれで判決が書けると顔をほころばせ、そのままコピペしている裁判官もいる」

 こう語るのは首都圏の大規模裁判所に勤務するベテランの裁判官。

 「そういう嘆かわしい実態を、最高裁も分かっているはずです。なのに、『判例秘書』の運営会社から、情報提供の要請があれば、便宜をはかり、かなり迅速に対応している。もはや、『判例秘書』は、裁判官にとって無くてはならない『起案バイブル』なので、その手当は怠れないということなのでしょう」

 判決までコピペでは、心の通った判決が書けるわけはない。それに過去の判例と違うことなど間違っても判断できるわけはない。

 「『コピペ裁判官』の特徴は、訴訟で争われている事実認定はどうでもよく、執行猶予にするか実刑にするか、原告の請求を認めるか認めないかにしか関心がない。だから、論理の組み立ては、過去の判例をそのまま借用し、結論部分に有罪か、執行猶予かを書けばいいだけです」(元裁判官)

 近いうちに間違いなく裁判官はAIになるだろう。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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