政治家にルビを振れという試験が出たら、私なら「バカか」とする。

 このところの政治家どもの暴言、放言を聞いていると、「選良」という言葉が死語になったことがよくわかる。

 豊田真由子(とよた・まゆこ)議員の秘書への「このハゲ~ッ!」という絶叫を含めた悪口雑言は人間業とは思えない。もはや悪魔の領域であろう。

 稲田朋美(ともみ)防衛相の時と場所と身分をわきまえない発言には、「バカか」という言葉しか浮かばない。

 向田邦子は「バカ」という言葉が差別語になったら、自分は放送作家を辞めると言っていたが、幸いなことに永田町にはバカが氾濫しているから、安倍独裁政権下でもこの言葉は禁止しようがなかった。

 自民党議員たちの数々の暴言もあり、先日の東京都議選挙で自民党は57議席から23議席へと歴史的大敗を喫した。選挙後の安倍政権の支持率も4割を切ってしまったのである(7月4日付、朝日新聞)。

 だが、自民大敗の最大要因は、安倍首相が親しくしている「お友だち」の森友学園や加計(かけ)学園への“便宜供与”疑惑に対して、何一つ安倍が説明責任を果たさないことに、国民の怒りが爆発したからである。

 さすがに安倍首相も、これはまずいと思ったのであろう。加計学園の獣医学部新設問題で、国会の閉会中審査の実施と前川喜平(きへい)前文部科学事務次官の招致に自民党が応じた。だが、安倍首相は外遊中だから出席しないというのである。これほど国民をバカにした対応はない。

 都議選終盤、『週刊文春』(7/6号、以下『文春』)は、安倍首相の一番のお気に入りの下村博文元文科相が、文科相時代に加計学園から2年にわたり200万円の献金を受けていたことを報じた。

 下村は幹事長代行で、東京都連の会長として都議選の最高責任者でもあった。下村は早速記者会見を開き、事実無根、選挙妨害だと言ったが、青ざめた顔が、この報道がほぼ事実であることを表しているように見えた。

 『文春』砲の内容はこうだ。

 下村と加計学園が親しいのはよく知られているが、もともとは下村の妻だったという。10年以上も前から親しく、下村夫人と安倍夫人の昭恵、加計孝太郎理事長とアメリカや韓国、ミャンマーなどへよく旅行していたそうだ。

 『文春』が入手した内部文書によると、「2013年博友会(下村の後援会=筆者注)パーティ入金状況」と題され、「9月27日 学校 加計学園 1,000,000」と記されているという。

 翌年も同じ金額が記されているが、重大なのは「この献金は、博友会の政治資金収支報告書には記載されていない」ことだと『文春』は指摘している。

 政治資金規正法では20万円を超えるパーティ券の購入を受けた場合、報告書に記載しなければならない。違反すれば、5年以下の禁固または百万円以下の罰金を受ける可能性がある。

 この博友会は全国にあり、塾や学校関係者が入っており、組織的、継続的に政治活動を展開し、盛大なパーティを開いているにもかかわらず、政治団体として登録されていない。したがって政治資金規正法違反の疑いがあると、『文春』は2015年3月5日号で報じ、そう指摘していた。

 この文書は、下村事務所を仕切る金庫番・榮(さかえ)友里子が書いた「日報」だそうだ。そこには加計学園側からの様々なお願いが記載されており、下村が加計学園のために相当な便宜を図ってきたことがうかがえる。

 14年の日報に加計学園の山中一郎秘書室長(当時)がたびたび登場する。4月21日には、「加計学園 山中室長より 大臣にお繋ぎして頂いた山本順三先生と23日に会食することになりました。もし宜しければ、是非大臣もご参加下さい」

 山本は参院議員で、選挙区は愛媛県、地元事務所を獣医学部が新設される今治市に置いている。

 さらに山中室長は、岡山理科大学の件で何度も文科省へ連絡をしたが取り合ってもらえないので、面会してくれるよう陳情している。

 これにも「→事務方を通して、お願いをいたしました」とあるそうだ。

 14年の内閣改造で下村が再び文科相を続投することが決まると早速加計側から、「就任のお祝いをいたしたいと思っています。10月中で空いている日程を夜頂けますか」と言ってきて、「→取り急ぎ、10月17日にいたしました」と素早く決めて返事している。

 文科相が、特定の学校法人のトップと親しくするなど、普通の頭があればやってはいけないことがわかるはずだが、この「バカだ大学」出身の政治家には考えが及ばないようである。

 さらに『文春』によれば、多額のパーティ券を購入してもらったら収支報告書に記載しなければいけないのに、そうしないケースが多々あるという。

 『文春』は20万円以上のパーティ券を購入したとされる人たちに、支払ったかどうかの有無を聞いている。

 そうすると、記載されていない金額は3年分で約1000万円にも上るというのである。

 さすがに下村も、文科省の管轄下にある教育業界から、多額の寄付をもらうことに多少後ろめたさを感じてはいたようだ。

 「文科省の大臣として、教育業界から寄付をもらっていいものかね」と、事務所関係者に漏らしていたというのである。

 悪いと知りつつも、やめられないのをバカというのだ。

 下村が会見で語った200万円の言い訳はいかにも苦しい。

 「下村氏が文部科学相だった2013年と14年、学校法人『加計学園』(岡山市)の秘書室長から、政治資金パーティー券の費用として各100万円、計200万円を受け取ったことを明らかにした。100万円はそれぞれ、11の個人と企業から秘書室長が預かったもので、『加計学園からのものではない』とした」(朝日新聞6月29日)

 11に分けてあるから一人20万円を超えないと言いたいのだろうが、小学生だってもう少しましな言い訳を考えるはずだ。

 11人もの人たちのカネをなぜわざわざ加計学園の秘書室長が集金して持って来たのか。それも、その中に加計学園分は入っていないというのである。

 加計学園と極めて親しい文科省のトップが、在職中に獣医学部新設などの便宜を図るために、その地域の政治家たちを紹介し、自分がいなくなれば、申し送り事項として後任に託し、首相補佐官たちが文科省に圧力をかけて、強引に特区での獣医学部新設を認めさせたのである。

 安倍首相は、森友学園問題では籠池前理事長を悪者にし、国策捜査をやらせて切り抜けようとしている

 だが「腹心の友」である加計孝太郎理事長を安倍首相は切り捨てるわけにはいかない。安倍の側近である下村元文科相と加計学園とのズブズブの関係が明るみに出て、寄付やパーティ券購入金などを違法に処理していたとなれば、これ以上知らぬ存ぜぬでは国民が許さない

 下村は、『文春』報道は「東京都議選の妨害目的と受け止めざるを得ない」と批判し、文書の出先は自民党以外から都議選に立候補した元秘書が関与した可能性を指摘、偽計業務妨害などの疑いで刑事告訴を検討する意向だと会見で言った。

 その元秘書は、都民ファーストの会から出馬して当選した。当選後、自分が持ち出し流したのではないと否定している。

 下村は都議選惨敗の責任をとって都連会長を辞任したが、この重大疑惑に対してきちんとした説明ができなければ、下村を打ち砕く二の矢、三の矢が出てくることは間違いない

 この内部文書から加計学園が学校ビジネスを展開していく過程で、下村をはじめ様々な政治家たちに働きかけを行なっていたことがはっきり見て取れる。

 このまま学部新設が文科省に認められれば、その後は補助金などの形で多額の公費が投入されることになる。

 「加計学園を巡る疑惑は新たなステージに入った」(『文春』)

 下村は、小学校3年の時に交通事故で父親を亡くし、母親が下村を含め3人の子どもを育てたという。交通遺児育英会の交通遺児奨学生第1期生である。

 苦労して這い上ってきた政治家なのに、長年センセイと呼ばれることに慣れ、差し出される多額のカネに目がくらみ、自分が進むべき道を見失ってしまったのであろう。

 夏目漱石の『吾輩は猫である』にこんな言葉がある。

 「呑気と見える人々も、心の底を叩いてみると、どこか悲しい音がする」

 下村議員、自分の心の底にある子どもの頃の悲しみを思い起こし、政治家たるもの何を為すべきかをもう一度原点に返って考えたがいい。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 豊田センセイの罵声で笑い、小林麻央の早すぎる死に泣き、藤井聡太四段の快挙に沸き、都議選の自民党惨敗でわずかに溜飲を下げた日本列島であった。だが、安倍自民党への怒りは、次の総選挙まで持続させなくてはいけない。日本人は忘れっぽいから時間が経てば忘れるよと高をくくっている安倍官邸に、目にもの見せてやろうではないか。

第1位 「我、『藤井聡太』にかく敗北せり──『14歳の天才』に敗れた『14人の棋士』インタビュー」(『週刊新潮』7/6号)/「藤井四段『ここが凄い』──『100回やっても勝てない』」、敗者が語る」(『週刊文春』7/6号)
第2位 「美人代議士『金子恵美総務政務官』が公用車で保育園」(『週刊新潮』7/6号)
第3位 「都議選圧勝! 小池百合子『総理への道』」(『週刊現代』7/15号)

 第3位。『現代』は「小池圧勝」と都議選を予測したが、多くが予想したことだから威張れることではないだろう。
 小池都知事は、このムードを駆って総理へと突き進むのではないかと書いているが、あまりにも短絡的な見方である。
 もちろん、野望政治家である小池が国政を狙っていないわけはない。その証拠に、都議選の候補者応援では、自民党への悪口は言うが、安倍批判はまったくしなかった。
 政治アナリストの伊藤惇夫(あつお)の言うように、「国政で一定数の議席を確保できたら、維新ではなく自民党と連立を組む考えを持っている」のであろう。
 だが、都知事になったばかりの小池が、国政へ出るとなれば都民から大きな批判が出ることは間違いない。
 小池にとっては、都民ファーストが大勝したのは嬉しいが、国政が近くなったことを意味しない。
 実際のところ、ポスト安倍には女性ならば野田聖子あたりが有力になるのではないか。小池はそれを、内心ではコンチクショーと思いながら、押さざるを得ないことになるはずだ。
 国政は遠くにありて思うものと、今頃小池は歌っているかもしれない。

 第2位。ところで、先週、今週と『新潮』のガンバリが凄い。『文春』中吊り盗み見問題にケリがついたのだろうか。6月29日の『とくダネ!』で小倉智昭が「新潮砲」と言っていた。
 「新潮砲」が今週、狙いを定めたのは金子恵美総務大臣政務官(39)の公用車・私用疑惑。金子政務官はゲス不倫で一躍有名になった宮崎謙介元議員の妻である。
 亭主が妊娠中に浮気をしていたことを「文春砲」が報じ、妻は離婚を考えたそうだが、それを乗り越え、今は2人で生まれた1歳4か月の息子を育てているという。
 『新潮』によれば、国会が閉会した翌日の6月19日、朝9時30分、永田町の衆議員第二議員会館内にある「国会保育園」と呼ばれる東京都の認証保育園「キッズスクウェア永田町」へ、専属の運転手が運転する黒塗りのクルマが滑り込んだ。
 クルマから出てきた金子政務官は、息子を車から降ろしベビーカーに乗せて(グラビアを見るとベビーカーを押しているのは総務省の秘書官である)、保育園に連れて行き、戻ってきて霞が関へ。この日は午後2時半にも、千代田区内で母親とともに公用車に乗り込み、母親を東京駅まで送り届けている。
 翌日の朝も公用車で息子を送り、午後6時前に公用車で迎えに行っている。22日は、午後7時に公用車で子供を迎えに行き、一緒に議員宿舎へ帰宅している。
 公用車とは政務三役など要人にあてがわれるもので、当然税金が使われている。舛添要一前都知事が毎週末、別荘へ行くのに公用車を使っていたことが大きな問題になったばかりである。
 このことは国会関係者の間で「バレたらまずい」と噂になっていたようだ。『新潮』も、どうしても忙しい朝に公用車を使って子供を保育園に送るのはわかるが、彼女の場合、それが「常態化」していることに問題ありだと指摘する。
 公用車に関する窓口の会計課管理係の担当者は、「途中の保育園で子どもを降ろす? ないです。家族を乗せること自体ダメでしょう。そんな人いないと思います」とはじめ答えていたが、金子議員が実際やっていると告げると、「えーっと……。運転手の日報にはそうしたことが書かれておらず、詳細は把握していないのが実情です」と、しどろもどろ。
 金子は自分のブログで「公用車の使用につき、常に総務省の運用ルールに則ってまいりました」と、問題はない、総務省の担当者は『新潮』に出ているようなコメントはしていないと言っていた。しかし「公用車に家族を同乗させてよいのかというご批判に対し、改めて自身の行為を振り返り、真摯に受け止めたいと思います」と言い、その後、これから金子は子どもを歩いて送り届けると公表した。
 この記事については、それぐらいはいいではないか、いや、選良は公私のけじめをつけるべきだと、両論あると思う。
 子どもを保育園に入れられない、首尾よく入れても送り迎えに苦労している母親たちの多くからは「特権を利用して」と白眼視されるだろう。彼女も亭主も安倍チルドレン「魔の2回生」である。

 第1位。29(にく)らしいほど強い藤井聡太(14)四段だが、30連勝はできなかった
 安倍政権のおかげで先の見えないどんよりとした雲が覆う日本列島だから、明るい話に飛びつきたい気持ちはわかる。だが、いささか騒ぎ過ぎではないか。
 29連勝を達成した夜のNHK『ニュースウオッチ9』は、放送開始から9時40分ぐらいまで、増田康宏四段(19)との対局を生中継し、29連勝が決まった瞬間、キャスター2人がバカ騒ぎをしていた。おまけに新聞社は号外まで出したのだ。
 翌日、私が読んだのは東京新聞と朝日新聞だが、一面トップがともに藤井29連勝だった。
 私が整理部長だったらせいぜい社会面トップまでだろう。「レジャー白書2016年」によると、一度でも将棋をしたことがある人は2015年で530万人。将棋ファンの数ははるかに少ないはずだ。テレビゲーム2170万人、パチンコが1070万人と比べるとそれほど多いとは言えない。
 それはともかく、非公式だが羽生善治(はぶ・よしはる)三冠まで破っているのだから、藤井四段の強さは本物である。
 『新潮』は、彼に敗れた棋士たちに、藤井の強さについて語らせている。曰く「終盤が強い」(小林裕士七段)、「時間配分が上手くて、持ち時間を残しますから終盤にしっかりと読み込める」(所司和晴七段)、「集中力のすごさは感じました」(宮本広志五段)
 『新潮』によると、大方の棋士たちが、藤井は現段階でトップ10~20人には入る実力があると太鼓判を押しているそうだ。
 瀬川晶司五段によると、ミスをしたときは膝を叩いたり、ボソッと小さな声で「しまった!」と口に出すそうだ。中学3年生の顔が時々覗くそうだが、そこがまたいい。
 こうなると渡辺明竜王や羽生三冠に挑むのも視野に入ってくるが、その先に、今や最強といわれる人工知能(AI)といつどういう形で対戦するのかも楽しみになる。
 藤井四段は、いまのところAIとやるつもりはないと語っているが、彼の将棋にはコンピューター将棋の影響が色濃くあるといわれる。
 『文春』で40代の棋士が、自分たちの世代はソフトの判断をそのまま受け入れることに抵抗があるが、「藤井君の世代だと、ソフトが示す判断基準をそのまま受け入れる事はごく普通のことだと思う。実際、藤井将棋はコンピューターの思考が色濃く反映されていると感じます」と語っている。

 私事で申し訳ないが、私の父親は将棋が好きで、たしか素人三段か四段だったと記憶している。家には分不相応な将棋盤と駒があり、休みの日は前に坐らされ駒の動かし方から教えてもらったのは小学校低学年の頃だった。
 当時、中野に旧将棋連盟本部があったせいだろうか、升田幸三第四代名人の着物姿をときどき見かけた。私もいっぱしの将棋少年だったが、すさまじく短気な父親に、指す度に怒鳴られるため、ついには将棋盤をひっくり返し、以来、将棋とは無縁になった。
 だが、会社に入って作家の山口瞳さんから芹沢博文(せりざわ・ひろふみ)や米長邦雄(よねなが・くにお)を紹介され、親しくなり、特に芹沢九段には可愛がってもらった。彼も14歳で入門して19歳で四段となり「天才」と言われた。
 だが多才すぎた。無類のギャンブル好きで女好き。原稿を書かせたらそこら辺の作家顔負けの素敵な文章。TVタレントとしても売れっ子で、酒は底なし。
 晩年、血を吐いて入院し、医者から酒をやめないと命取りになると言われたが、ワインは酒ではないからと、シャブリを朝から飲み、箱根のホテルへ行った時はホテル中のシャブリを持って来させ、私たち数人で飲み干した。
 たしか、田中角栄に将棋を教えていたと記憶している。彼を通じて角栄インタビューを申し込んでOKをもらった。だがインタビュー直前、角栄の秘書の早坂に「俺を通してない」といわれ、実現はしなかった。
 将棋指しの世界を見せてくれた。「お前のためなら何でもやってやる」と言ってくれた芹沢九段だったが、酒で体を壊し、たしか51歳の若さで亡くなってしまった。奥さんから聞いた。死ぬ間際、彼女に「ごめんね」と言ったという。
 藤井四段の話から余談になってしまったが、米長邦雄の口癖は「兄貴たちはバカだから東大に行ったが、オレはできるから将棋指しになった」。『文春』によれば、藤井は小四のときには五十手以上の詰将棋をあっという間に解いたという。地頭(じあたま)のよさとAIからも吸収できるいい環境があるのだから、連勝はストップしたが、彼がどこまで強くなるのか、これから楽しみではある。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
ジャパンナレッジとは

ジャパンナレッジは約1700冊以上(総額750万円)の膨大な辞書・事典などが使い放題のインターネット辞書・事典サイト。
日本国内のみならず、海外の有名大学から図書館まで、多くの機関で利用されています。

ジャパンナレッジ Personal についてもっと詳しく見る