9月3日、北朝鮮による核実験を受け、広島平和記念資料館(原爆資料館)に設置されている「地球平和監視時計」がリセットされた。

 地球平和監視時計は、原爆による悲劇を知ってもなお、繰り返される核実験の実施を牽制するために、NPO法人「広島からの地球平和監視を考える会」が建立したもので、2001年8月6日から時を刻み始めた。

 設計者は広島市出身の彫刻家・岡本敦夫氏で、時計は高さ3.1m、幅0.8m、奥行き0.4mの御影石で作られている。その細長い形状の最上段には現在の時刻を示す丸い時計があり、その下に2つのデジタル表示板がある。いちばん下にあるのは縦に15個並んだ歯車装置で、このまま核を保有し続ければ人類が破滅への道に突き進むことを暗示的に警告している。

 デジタル表示板の上段は、「広島への原爆投下からの日数」。下段は「最後の核実験からの日数」が表示されており、新たな核実験が行なわれるたびにゼロにリセットされる。

 「最後の核実験からの日数」のデジタル表示は、2016年9月9日の北朝鮮の核実験から359日を刻んでいたが、2017年9月3日に原爆資料館の志賀賢治館長の手でゼロにリセットされた。

 地球平和監視時計がリセットされるのは、2001年に設置されてから24回目(本館リニューアル工事で操作できなかった2回を含む)。世界が、なかなか核廃絶への道に歩みだせない現実を突きつけている。

 北朝鮮に対して、国際社会は再三にわたり、核やミサイル開発の中止を求めている。しかし、金正恩(キム・ジョンウン)体制の維持をかけている北朝鮮は、制止をふりきって今回の核実験も強行した。

 制止のきかない一党独裁体制の北朝鮮が核を保有することは、世界にとって脅威であることは間違いない。国際社会は、今後も北朝鮮の核・ミサイル開発を止めるための努力をしていかなければならない。

 だが、核兵器を保有しているのは北朝鮮だけではない。アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国の5大国のほか、インド、パキスタンも保有を表明している(イスラエルは正式表明していないが、保有国とみなされている)。

 自らも核を保有しているのに、北朝鮮の核保有を認めないというのは道理が通らない。アメリカの核の傘の下にいる日本も同様だ。北朝鮮の核開発を止めるためには、これらの国々が核を手放すための勇気ある一歩を踏み出すことが必要だ。誰かが、その一歩を踏み出さなければ、核なき世界は永遠にやってこない。

 地球平和監視時計の下層に縦に並んだ歯車は、一番上の歯車の回転数(毎分100回転)が、核を手放せない地球の危機的状況の深刻化によって回転が早まり、固定されている一番下の歯車に達したときに、装置そのものが自壊するという発想で作られている。

 今後も「最後の核実験からの日数」がリセットされ続ければ、地球平和監視時計の歯車が暗示する世界が現実のものにはならないとも限らない。歯車の回転を止めるために、今こそ勇気ある一歩を踏み出したい。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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