VOICE

米澤 誠さん 東北大学附属図書館員
学習支援のトップランナー

大学図書館員として学習支援に取り組んできた中で、やはり「教える」ことが非常に役立ったと米澤誠さんは言います。ライティングの指導、アクティブラーニングの実践におけるご自身の印象的なエピソードを語っていただく第2回。

200人のライティング指導から得たもの

 今回の連載では、私が挑戦してきたことを一緒にたどってもらい、いまの大学において学習支援とはどうあるべきかを、考えるはじめるきっかけになってほしいと思っています。連載でも書きますが、図書館員でありながら教えることができたのは、私にとって非常に大きな経験でした。

 アクティブラーニングへの積極的な対応やラーニングコモンズの相次ぐ創設で、いま、大学図書館では学習支援が注目されています。しかし、従来図書館が行なってきた学習支援は、図書館の利用指導や文献検索の仕方の指導にとどまっていました。私はそれを見直す、もしくは再構築する必要があると思っていました。
 そこで注目したのがライティングだったのです。なぜなら、大学生が身につけるべき情報リテラシーとは、情報の探索や収集にとどまらず、それらの情報を活用し、形として外に表すまでの一連のスキルであったからです。
 そのライティング指導を考えるきっかけとなったのが、八洲学園大学で初めて講師を担当した図書館経営論という科目でした。この科目は前期と後期、各半年間の通信教育授業で、履修生が100人、多いときは200人いました。図書館学の知識を身につけてもらうのが本来の目標でしたが、評価のためのレポートを提出してもらうので、その作成指導もしはじめました。

米澤 誠よねざわ まことさん

秋田県生まれ。図書館情報大学(現・筑波大学)図書館情報学修了後、東北大学附属図書館に勤務。NII(国立情報学研究所)、山形大学附属図書館などを経て、2011年より東北大学附属図書館に復帰。現在、図書館事務部長。NPO法人大学図書館支援機構理事であり、八洲学園大学では非常勤講師として情報リテラシーを教えている。ライティング教育、アクティブラーニング、学習環境デザインが研究テーマで論文を発表している。

写真/五十嵐美弥

 そのレポート評価を行なう中で、ただ単にABCという評価結果だけでは全然指導にならないと考え、私は提出されたレポート全部に赤入れをして返していました。1件30分添削にかかるとすると、100人で50時間、200人で100時間。これをやり続けていたのですが、本業もあるので、どんどん体がもたなくなってきました(笑)。
 そこで、レポート提出時の質を上げて添削をなるべく減らそうと思い、教材を作ったのです。それまで一人ひとり添削をしていたことで、指導のポイントがつかめていたんですね。当時、レポートの書き方という教材はありませんでした。そして、こういうスタイルでこういうふうに書けばいいという「レポート見本」も作成しました。それまで体裁も構成も無視した、無茶苦茶なレポートがたくさんあったのですが、おかげで格段によくなり、添削の時間もだいぶ減りました(笑)。そして私もいまは、図書館経営論ではなくてレポートの書き方を指導する情報リテラシーという科目の担当となりました。

 この時の経験でもう一つ認識したのは、ライティングそのもののスキルも重要であるけれど、ライティングを目標にすることにより、学びのプロセスとその重要度が明確になったことでした。すなわち、効果的なライティングを行なうための資料活用の重要性がよくわかったのです。

グループワークの見直しから得たもの

 NII(国立情報学研究所)に在職していた2011年に、図書館職員の研修の中のグループワークを見直す機会がありました。あるテーマを一日2、3時間くらい3、4日かけて話し合っていたのですが、時間をかけた割にはよい結果が出ないと思っていたのです。それもそのはず、グループワークの仕方はそれぞれに任せっきりだったわけで、効果的に議論するためのスキルは教授していなかったのです。
 その時私なりに調べた結果、協同学習というアクティブラーニングの一手法があることを知り、その第一人者である安永悟先生に久留米大学までお会いしに行きました。そして安永先生にNIIの研修で直接指導をしてもらうようにして、グループワークにアクティブラーニングのスキルを取り入れてみたのです。

 その結果が有効であることもわかり、その後、東北大学に転勤してから2013年と2015年の2年間、新入生向けの基礎ゼミという科目で、「仙台を学ぶ」というテーマでアクティブラーニングを中心とした授業をデザインしました。学生には、授業の前に必要な資料を読んだり調べたり、入念な準備をさせます。授業では長い講義はなしにして、グループディスカッションを中心に成果物を出すというスタイルにしました。東北大学の場合は、入学して初めて仙台に住む学生が多いことから、なかなか魅力的な授業にできたと思っています。
 半年間15コマの授業は、ほとんどがアクティブラーニングとなるわけです。講義形式ではない形での学びは、大学に入学したばかりの学生にとっていい経験になったでしょうし、私にとっても実際にその成長をみるという意味で貴重な体験でした。また、学生と対面して指導することで、私自身の学習支援のインセンティブも高まりました。学生のほうはこの授業をきっかけに仙台のことをよく知り、一人暮らしに早くなじむことができたのが、この授業の一番の成果かも知れませんが(笑)。
 実はこの時にもわかったのは、ライティングと同様にアクティブラーニングにおいても、事前の資料収集と活用がとても重要であるということでした。アクティブラーニング自体のスキルも重要ですが、有効なアクティブラーニングを行なうためには、その学びのプロセスと資料の重要性を理解し指導することが必要なのです。それがあって初めて、適切な学習支援を行なうことができるのです。その意味で、アクティブラーニングの場と資料提供の場が同一であること、もしくは近いことが重要であると考えています。

 それぞれ苦労はしましたが、「教える」ということは私にとって非常にありがたい経験でした。普通の図書館員は、大学で教える機会は少ないと思いますが、レポート作成の基本である引用のやり方や、文献の記述の仕方などは十分教えられると思っています。
 また、アクティブラーニングそのものを指導する機会もないかも知れませんが、学生たちが日々の学びの中でどのようなアクティブラーニングを行なっているか、大学の教員がどのような指導をしているのかを理解することが重要だと思います。それらの学びの文脈の中で、図書館員としてできる支援を考えなくてはならないと思っています。

(次回につづく)

2016-11-07

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