オリジナルの表紙写真、好奇心を育む読み物コーナー……まるで出版物のようなつくりのジャポニカ学習帳。2020年に発売50周年を迎えるそうです。開発部の小原崇さん、山端雪代さんにジャパンナレッジを活用したジャポニカ学習帳のつくりかた、そして50周年に向けた思いについてお話をうかがいました。
ショウワノート株式会社
学習帳やキャラクター・ファンシー文具の総合メーカー。1947(昭和22)年富山県高岡市で昭和紙工株式会社として創立。70年にジャポニカ学習帳を発売し、小学生向け学習帳のトップブランドとなる。商品開発も盛んに行なわれ、ジャポニカ学習帳では将棋などをテーマにした「日本の伝統文化シリーズ」、スヌーピー、ムーミンなどの世界の名作を表紙にした「愛され続ける名作シリーズ」などもある。またドラえもん、ポケットモンスターのキャラクター学習帳も人気。従業員数172名。
取材・文/ジャパンナレッジ編集部
──ジャポニカ学習帳を拝見すると、表紙まわりは本のようなつくりになっていますね。
山端 現在販売されている「アフリカ編」では、表紙と裏表紙が山口進さんの撮り下ろし写真、裏表紙には「ジャポニカ学習図鑑」というコーナーを設けていて、文章も山口さんに書き下ろしていただいています。ノートの巻頭は「アフリカの生き物」「なるほど!食べ物のひみつ」、巻末は「地球・自然について知ろう」「行ってみたいな!世界旅行」と、「学習百科」と呼んでいる4つの読み物ページで構成されています。
表紙の写真は、珍しさと美しさを考えながら選んでいます。また裏表紙の学習図鑑では、その場に行かないと見られないような生き物や景色を撮影していただくよう、山口さんにお願いしています。
小原 発売当初の記事は『大日本百科事典ジャポニカ』からの転載でしたが、事典が絶版になってからはこのノートのためだけに独自に製作するようになりました。
山端 「学習百科」は小学館クリエイティブさんに企画、製作から、校正・校閲にいたるまでご協力いただいているんですが、弊社でも子どもたちの視点に立って内容やイラスト、写真について吟味をしています。
文章ができあがると、子どもたちに間違った情報を提供しないように、念には念をと社内でも回覧し、チェックをしています。その際に活躍するのがジャパンナレッジ。入社して以来、私はずっと学習帳づくりに携わっているので、その間ずっとジャパンナレッジを使わせていただいています。
小原 「学習百科」つきのジャポニカ学習帳は現在50種類。1冊にテーマが4つずつ入っているので文章は200本。製作は1年では到底終わりません。また文章の内容同様、文字の大きさや、ひらがな、漢字の表記が学年ごとに変わったり、科目によってノートの開き方が左右違ったり……その対応も結構たいへんなんです。
──数年前、ジャポニカ学習帳の表紙から昆虫が消えたということが話題になりました。
小原 現在販売されている「アフリカ編」から、表紙は全部、花になりました。昆虫が表紙から消えたと話題になったのは「アフリカ編」の発売から2年経った2014年。翌年が発売45周年で、ジャポニカ学習帳が話題になっていたんですね。
その話題の盛り上がりにオンラインショッピングのアマゾンが大変興味を持ち、一緒にジャポニカ学習帳の45周年のイベントをアマゾンのサイト内で行なうことになりました。70年代、80年代、90年代、2000年代それぞれの年代で表紙の人気投票をし、1位になったものを復刻版セットとして発売することになりました。その際、軒並み昆虫の表紙が1位になり、アマゾンのサイト内で予約を受けつけると一日で3000セットが完売してしまいました。
──昆虫の生態を知ることができる貴重なメディアの一つだった気がするので、残念です。どうして昆虫が表紙から消えたんでしょう?
小原 たとえば国語の何マスのノートといったとき、表紙は一つに決まってしまいます。それが昆虫だと、苦手な子どもは困りますよね。全員が全員、昆虫好きではないですからね。カブトムシだったら平気という子どももいますが、カブトムシばかり載せるわけにはいかないですしね。
ノートは学校で勉強をするときも家で宿題をするときも、ずっと身近にあるもの。家族よりも一緒にいる時間が長いんです。ジャポニカ学習帳のシェア率が上がれば上がるほど、みんなから嫌われることのないノートでないといけないと思っています。
──「アフリカ編」の発売が2012年でした。そろそろ新シリーズが発売されますね。
小原 2020年の発売を予定しています。じつはジャポニカ学習帳50周年の年にあたるんです。
山端 いま販売されている「アフリカ編」は私の先輩がメインでつくっていたんですが、今回の2020年版は私がメインで担当させていただいています。
──それは相当なプレッシャーですよね。企画をちょっぴり教えてもらってもいいですか?
山端 山口さんの文章を中のページでも取り上げたいと思っています。裏表紙にある「ジャポニカ学習図鑑」というコーナーでも文章を書いていただいているんですが、もうちょっと書きたいなという思いが山口さんにもあったようで、今回ついに実現することになりました。
小原 山口さんにお話をうかがうと、本当に面白いんですよ。1枚の花の写真を撮るまでに、現地の取材をいろいろとされています。世界各地に花の写真を撮りに行ったからこそわかる、現地で体験したお話を載せようかと思っています。
先生は今年70歳。「世界特写シリーズ」が始まったのが28歳のときですから、40年以上、ジャポニカ学習帳とともに歩まれています。
──目下製作真っ只中。苦労されているところはありますか?
山端 山口さんは長年にわたり培われた知識や感覚で書かれているので、専門的な話題が多くてたいへんです。あまりに一般論と違うときはご指摘をさせていただいたり、調べてもわからないところは山口さんに尋ねたりしています。でもこちらがまったく知識がない状態だと、山口さんに確認をしようにも話が通じません。一般的にはどう言われているかを確認するために、ジャパンナレッジがとても役に立っています。典拠がしっかりしているので、大いに活用させていただいています。
──まさに編集者のようなお仕事。具体的にこれが役立ったというエピソードはありますか?
山端 山口さんが書かれた文章の中に、「ドラボルトという人物がこんな調査をしました」という記述がありました。ジャパンナレッジの見出し検索で調べても「ドラボルト」は出てこなくて、全文検索で調べたら、東洋文庫の『アンコール踏査行』にヒットしました。そこでドラボルトが発掘調査をしたという記述があり、事実確認ができました。
──50周年を迎えるジャポニカ学習帳のこれからについてお聞かせください。
小原 ジャポニカ学習帳で子どもたちに自然を中心に、様々な「コト」にも興味・関心をもつきっかけをつくってあげたい。なかなか自然環境のことを自発的に検索して調べる子はいないと思うんです。休み時間などにちらっとノートにある読み物を読んだことがきっかけで、世の中ではこんな面白いことが起きているんだ、と知る。このノートがその入り口になればいいなと思っています。
山端 発売当時、ジャポニカ学習帳がすごかった点は、百科事典を買わなければ読めない情報が載っていて、それが子どもたちの好奇心をすごく刺激したことだと思うんです。当時はインターネットもないし、学校で習うことや家にある本で知識を得た時代です。それ以外で自分が見聞きできない情報は知りようがなかった。自分が知らない情報が載っているノートが子どもたちをわくわくさせたんです。
翻っていまは、ネットで多くのことが調べられる時代。ジャポニカ学習帳の「学習百科」の役割も変わってきたのかなと思っています。知識を得るものから、いまは知識を得るきっかけ、好奇心の入り口にしてほしいと思っています。
小原 今後ますます、日本人も海外で働くことが普通になると言われています。子どもたちにはどういう問題がどこで起きているんだろうとか、なんでこうなっているんだろうとか、そういうところにどんどん目を向けていってほしい。
山端 知識を得ることはもちろん大切ですが、多面的なものの見方、考え方を養うことは、いまの時代にいちばん必要とされていることだと思います。「こういう見方もあるんだな」ということを、ジャポニカ学習帳を通してぜひ知ってほしいな、と思っています。
2018-07-30
定価:180円(本体価格)
(A5判は150円(本体価格)、A6判は120円(本体価格))
1970年の発売以来、学習帳業界をけん引する、ジャポニカ学習帳。累計販売数13億冊以上になるという。現在販売されているのは世界特写シリーズの【アフリカ編】。表紙は山口進氏による撮り下ろしの写真、裏表紙の「学習図鑑」や中面の「学習百科」といった読み物ページも充実。また鉛筆で書ける名前欄、日本色彩研究所の協力により生まれた目の疲れにくい罫の色を採用するなど、こだわり抜いたつくりとなっている。