笠井清 著
生物学者・民俗学者南方熊楠は、和漢洋の学問を独学にて習得するとともに、その行動は奇行をもって知られる在野の英傑である。本書は豊富な資料を基に、南方を血の通った人間として、また日本のみならず世界の学問の水準を高めた学者としてとらえ、一代の行状を明らかにした。伝説化したその生涯を正し、真の南方熊楠伝の基礎をなす書である。
[明治|大正|昭和][学者]
小高根太郎 著
鉄斎はセザンヌ、ゴッホにも比すべき近代の世界的大芸術家であり、大学者でもあった。著者は鉄斎に傾倒すること20数年、一万点に及ぶ作品、数百巻にのぼる鉄斎自筆の記録、明治・大正期のあらゆる美術文献などを精査して、従来の謬説を正し、正確な鉄斎像を描き出した。鉄斎伝の決定版であり、欠くことのできない好指針である。
[江戸|明治|大正][文化人]
中村尚美 著
藩閥という背景をもたなかった大隈は、維新政府に入っては財政家としてわが国近代財政の確立につとめたが、やがて十四年政変を転機として、藩閥に対抗し、「政治はわが生命」と喝破しつつ、政党をつくり、学校を建て、ひたすら近代日本の発展に捧げつくした民衆政治家であった。本書は未刊の『大隈文書』を基礎にした大隈伝。
[明治|大正][政治家]
住谷悦治 著
マルクス主義社会科学者である一方、貴い“体験”にひらめく宗教的真理を確信し、非転向を貫徹した求道の戦士。本書は、博士の人物・生涯・思想を、多くの学問的著書・論文・『自叙伝』などをたどって、必然の姿において捉え、その精神構造を分析し、東洋的マルクス主義者としての博士の特質・面目を躍如たらしめた力編。
[明治|大正|昭和][学者|思想家]
斎藤隆三 著
“アジアは一つなり”という名言をもって戦時中大いにもてはやされた天心は、戦後、あまり顧みられなくなってしまった。しかし明治の美術界をリードし、日本の美術を今日の隆盛に導いた彼の業績は、いまこそ改めて考究されるべきである。近代美術の生みの親ともいうべき天心の生涯を委細にわたって知り尽した著者による労作。
[明治|大正][学者|文化人|思想家]
三吉明 著
印刷職の時、キリスト教に入信し、苦学しながら同志社に学び、やがて救世軍に身を投じて、伝道と公娼廃止・貧民救済・免囚保護等々の社会事業に自らの血を流して戦う。〝平民の使徒〟〝真の奉仕者〟〝救世軍最初の日本人司令官〟の聖き生涯を描いた本書は、広く宗派を超えて、人類愛と社会福祉に関心を持たれるすべての人々の必読の書である。
[明治|大正|昭和][宗教者]
田畑忍 著
初代の東京大学学長、学士院院長などの肩書をもち思想界・法曹界に君臨、一世に感化を与えた明治時代最大の学傑。その論争家としての立場は官界・政界をバックとし、天賦人権論からダーヴィニズムへの転向は、明治政治史の動向を側面からみるものとして興味深い。人物史としても思想史としても好適。
[江戸|明治|大正][思想家|教育家]
藤村道生 著
典型的絶対主義政治家であり、オールド=日本を一身に具現した山県の生涯は、そのまま近代日本の政治史であり、軍事史でもある。国軍建設以来、軍部の大御所として絶大な権力を握り、巨大な勢力をバックとして政界にも権勢を張ったが、本書は人間山県の弱点と功罪をえぐってあまさず、味わい深い歴史の秘密を追求する。
[明治|大正][政治家|武人・軍人]
西山松之助 著
江戸荒事歌舞伎の源流初代市川団十郎より、明治中期の団・菊・左時代を飾った九代目団十郎までの成田屋歴代の芸道精進のあとと、その演劇界における位置を、厳密な史料批判を基礎にまとめた好篇。豊富な引例とエピソードとによって興味深く説き、思わず読みつづけさせる。新装版にあたって、現代に至る十・十一・十二代目の章を増補し一層の充実を期した。
[江戸|明治|大正|昭和][文化人]
入交好脩 著
鐘紡を舞台として日本産業資本の指導者となり実業同志会を結成して政治に新風を注ぎ、更に時事新報に迎えられて言論界に活躍した武藤山治は、可惜不慮の兇弾に仆れた。しかしその高潔な人格と卓越した識見とは、福沢精神の実践者として不滅の光を放っている。本書はその生涯を叙して余すところなく真骨頂を浮彫りにした。
[明治|大正|昭和][実業家|政治家]
伊佐秀雄 著
明治・大正・昭和の三代にわたり、常に自由主義者として閥族的専制政治に反対しつづけた政治家。1890年以来、連続して衆議院に当選、東京市長・文相などを歴任、人称して“憲政の神様”という。著者は尾崎の後半生に親しくその謦咳に接しながら、その恩顧に溺れることなく、よくその性格と政界に苦闘する過程をたどる。
[明治|大正|昭和][政治家]
楫西光速 著
機大工の子として生まれた豊田佐吉は、早くからすでに国家社会に貢献しようという大望をいだき、機械の理論も知らず、外国品の模倣でもなく、専ら自らの頭脳を生かして、ついに世界的な自動織機を発明大成した。本書は彼の発明の過程を克明に描き、日本織物業における豊田織機の果した役割と、豊田コンツェルンの由来を詳述。
[明治|大正][実業家]
大村弘毅 著
明治・大正期の文壇に君臨した大文豪・教育家の生涯を、逍遙自編の年譜をはじめ最も正確な資料をもとにして、編年的にまとめた精密な決定版。演劇の改良、小説の革新、シェークスピアの全訳、文芸協会の設立など、光彩を放つ文芸活動に合わせて、その家庭生活をも丹念に描く。逍遙研究のみならず、近代文学者の伝記の規範として絶讃の書。
[明治|大正|昭和][文化人|教育家]
猪俣敬太郎 著
中野正剛にたいする見方は「ファシスト」から「秘密共産党員」説までさまざまである。さらに劇的な最期のため、すでに伝説化さえしている。本書は彼の全生涯にわたる伝記として最初のものであるばかりか伝説や俗説を排してその政治的・思想的遍歴を追究し、東条政権と対決して自刃するまでの反逆の生涯を鮮かに浮彫している。
[大正|昭和][政治家]
大林日出雄 著
“真珠王”御木本幸吉は、これまでいわれてきたような真円真珠の発明家ではなく、養殖真珠の逞ましい企業家であり、技術と漁場の独占に辣腕をふるい、巧みな演出と商魂によって全世界に“ミキモト・パール”の名を売り込んだ偉大な商人であった。本書は幾多の新資料を駆使して、伝説化された既往の“真珠王伝”を大きく書き改めた力篇。
[明治|大正|昭和][実業家|政治家]
平野義太郎 著
明治期の自由民権運動の急先鋒、自由党最左翼の驍将大井憲太郎の全生涯を描く。板垣退助や土佐の立志社などの自由党中央派は著名であるが、自由党を乗り越えて進んだ平民的革命派の苦闘を知る人は少ない。本書は大井を中心として、普選運動と労働者農民運動に、生命を賭して闘った歴史の推進力の全貌を明らかにする。
[明治|大正][政治家]
山崎孝子 著
明治四年、岩倉大使一行にまじって満七歳の振袖・稚児髷姿で渡米留学した津田梅子は、不自由な異国の生活を克服して、勉学に励み、長じて帰国後は、女性の解放と女子高等教育の開拓に精魂を尽した。本書は厳密な資料操作に基づき、細やかな愛情を投げかけつつ、梅子の生涯と社会環境とを鮮やかに展開した感動を呼ぶ一編である。
[明治|大正|昭和][教育家|女性]
土屋喬雄 著
日本資本主義の父といわれる渋沢栄一は、富農の子として生れ、徳川慶喜に仕え幕臣となり、フランス留学で自由民権思想にめざめ、維新後大蔵大丞となったが官尊民卑の風潮に反発して官を辞し、第一銀行はじめ五百余の民間企業を育て、また六百余の社会事業に献身した。高邁な精神と人間味に富んだその生涯を生き生きと描く。
[明治|大正][実業家]
三吉明 著
流刑の囚徒たちに鬼典獄と恐れられた初代網走監獄所長。キリスト教に改宗し、自ら死刑囚の手をとって祈り、関東大震災には一人の脱走者も出さなかった愛の行為で、世界行刑官の象徴となる。刑余者と非行少女の家庭学園の灯はその後も燃え続けるが、罪を憎み人を憎まぬ人々のために、著者は全国に資料を求めて彼の足跡を鏤刻した。
[明治|大正|昭和][官吏・官僚]
山口修 著
前島は「郵便の父」として、ひろく知られているように、郵政事業の基礎を確立し、その発展に尽瘁した。しかし前島の業績は郵政にとどまらない。海運・鉄道・新聞などの近代事業、また教育や国字改良などに果した役割は、きわめて大きい。いかにして、このような人物が生まれたのか。本書は雪深い越後から江戸に出て、刻苦勉励、新政府に出仕して活躍した、その生涯をたどる。
[江戸|明治|大正][官吏・官僚|政治家]