笠井清 著
生物学者・民俗学者南方熊楠は、和漢洋の学問を独学にて習得するとともに、その行動は奇行をもって知られる在野の英傑である。本書は豊富な資料を基に、南方を血の通った人間として、また日本のみならず世界の学問の水準を高めた学者としてとらえ、一代の行状を明らかにした。伝説化したその生涯を正し、真の南方熊楠伝の基礎をなす書である。
[明治|大正|昭和][学者]
城福勇 著
非常の才を抱き、非常の事を行ない、非常の死を遂げた無類の奇人。広く物産学を修め特に技術に長じ、多くの発明殊にエレキテルでは最も世人を驚かした。非凡な小説や戯作なども書く通人であったが、その才能は世に容れられず、晩年弟子の一人をあやめて投獄され、自ら絶食して世を去った。この破格な生涯を巧みに描いた最も興味深い伝記。
[江戸][文化人|学者]
住谷悦治 著
マルクス主義社会科学者である一方、貴い“体験”にひらめく宗教的真理を確信し、非転向を貫徹した求道の戦士。本書は、博士の人物・生涯・思想を、多くの学問的著書・論文・『自叙伝』などをたどって、必然の姿において捉え、その精神構造を分析し、東洋的マルクス主義者としての博士の特質・面目を躍如たらしめた力編。
[明治|大正|昭和][学者|思想家]
進士慶幹 著
講談・浪曲で知られる正雪と、実際とは、どこがどう違うのであろうか。正雪が計画したところは、勤皇運動の先駆か、キリシタンの一揆か、また幕政に対する批判か、生活難にあえぐ浪人の救済か。由比正雪・丸橋忠弥らの慶安事件の全貌は、本書に示された時代背景の鮮やかな浮彫りとともに、はじめて克明に描き出されている。
[江戸][学者]
佐藤昌介 著
渡辺崋山は幕末のすぐれた文人画家であるだけではなく、三河・田原藩家老として藩政を担当し、また蘭学を通じてアヘン戦争前夜の対外的危機状況を的確にとらえ、幕府の鎖国政策を批判して、蛮社の獄の悲劇を招いた。本書は、戦後発掘された新史料を駆使して、崋山の人となりや藩政との関係、蛮社の獄の真相等を究明、従来の崋山像を更新した労作。
[江戸][学者|文化人]
仲田正之 著
代官として有能な江川坦庵(太郎左衛門)は、蘭学者・外交官・芸術家・軍学者・教育者にして剣客でもある。幕末の生んだ多芸多能の先覚者といえよう。その幅広い交際から、渡辺崋山・高島秋帆らの力を幕政に反映せしめんとして果せず、晩年は、ペリー来航より登用され、二年余の奔走のすえに没した。著名な人物だが本格的研究がなかった坦庵像に初めて迫る。
[江戸][武人・軍人|文化人|外交官|学者|教育家]
太田青丘 著
その門に林羅山や松永尺五らの俊秀を生み近世朱子学の開祖となった藤原惺窩は、初め五山文学から出た禅僧であり、その十一代前の先祖は藤原定家であった。そうした血筋と環境が織り成したのが彼の儒学・国学・歌学をうって一丸とする文(ふみ)の学であった点を解明し、今日の細分化に過ぎる学術への一つの反省材料としようとしたのが本書である。
[安土桃山|江戸][学者]
片桐一男 著
漢方医学一点張りの鎖国下の日本にあって、初めて西洋医学書を訳読、『解体新書』と銘打って公刊することに心血を注いで成功。日本の医学界の革新と純正な蘭学の確立を希求し、その発展に熱情を傾け通した玄白。日本人の心に生きつづける不朽の名著『蘭学事始』を遺した先覚者の本格的な伝記、新史料と精緻な考証を加えてはじめてなる。
[江戸][医師|学者]
斎藤隆三 著
“アジアは一つなり”という名言をもって戦時中大いにもてはやされた天心は、戦後、あまり顧みられなくなってしまった。しかし明治の美術界をリードし、日本の美術を今日の隆盛に導いた彼の業績は、いまこそ改めて考究されるべきである。近代美術の生みの親ともいうべき天心の生涯を委細にわたって知り尽した著者による労作。
[明治|大正][学者|文化人|思想家]
田原嗣郎 著
平田篤胤の思想は死後の世界を解明するために、宇宙の初発を知ることを中心として作られた。この世は寓世にすぎず、幽世こそ「本っ世」であるからである。宣長の学を受け継いだのも批判したのも、この立場からなのだ。それは政治的思想ではない。本書は篤胤の著書やその性格・伝記などの全体に亙って中正な観点から解説を加えたものである。
[江戸][学者]
堀勇雄 著
儒学者・兵学者として素行の名は周く知られ、またその崇拝者も決して少なくない。しかし封建治下の素行の教学は果してどのようなものであったか、また山鹿流兵学の本質はどうであろうか。これらの歴史的評価は未だ充分なされたとはいえない。本書は著者多年の学殖を駆使し、素行の学問と、その人格に鋭いメスを加えた詳伝。
[江戸][学者]
井上義巳 著
江戸後期、折衷学派の儒者。病身の生涯ながら、豊後国(大分県)日田に私塾咸宜園を開設、50余年にわたり、門弟2,900余名を育成するとともに、大村益次郎・高野長英ら、幕末の逸材を輩出した大教育者であり、詩人としても名高い。本書は、その教育の実態と特色とを中心に、新史料を駆使して生涯を詳述した、著者多年にわたる研究成果の結晶である。
[江戸][学者|文化人]
三枝康高 著
契沖以来の国学の大成をめざし、『万葉集』の研究に心血をそそいだ賀茂真淵は、世に“国学四大人”の一人にかぞえられる。真淵は国学に指導的役割を果し、古典研究の立場と方法を発見して、古道と詠歌とを緊密に結びつけた功績は大きい。とかく無味乾燥になり易い国学者の伝記を、本書は真に血の通った人間として再現した。
[江戸][学者|文化人]
芳賀幸四郎 著
戦国動乱の渦中にありながら刻明につづられたその日記『実隆公記』をはじめ、数々の史料を駆使していわゆる雲上人の生活を丹念に描く。近世の曙を告げる戦乱の世に、室町の幕府も、公家の社会も、斜陽の命運に追われ、その窮迫した生活は想像も及ばないものがあった。夫人の機嫌を伺いつつしかも世間体を繕ろう赤裸の人間像。
[室町|戦国][官人|学者|文化人]
大平喜間多 著
識見高邁なる幕末の開国論者。始め儒学を、ついで西洋砲術を修めて名声高く、海舟や松陰など維新の英才を、その門下に輩出。米艦再度の渡来によって国論沸騰のさい率先開国を唱え、松陰の密航事件に連座して下獄。のち幕府の招命を受けて騒然たる京都に上り、時勢に奔走中、刺客の兇刃に斃れた、偉丈夫の生涯を克明に描く。
[江戸][思想家|武人・軍人|学者]
城福勇 著
国学の大成者で歌人。『古事記伝』四十四巻を三十余年かけて書いた、日本文化史上に屹立する巨人。厳密な文献学的操作と文芸的方法によって、文芸本質論としての物のあわれ、儒教・仏教などの外国の道に対抗すべきわが国の道としての神道を唱えた天才の生身の姿を、その学問・思想の展開過程とあわせ精緻に描く。宣長研究の水準を見事に示す決定版。
[江戸][学者]
板沢武雄 著
鎖国下において西欧科学を伝え、幾多の俊英を輩出すると共に、広く日本を世界に紹介したシーボルトは、またスパイ嫌疑で国外追放になるなど、多難の生涯であったが、わが国近代文化の開明に果した役割は大きい。本書は蘭学史研究の権威が、世界史的視野に立って蘊蓄を傾け、新史料をおりまぜながら、その功業に史的意義を与えた正確な伝記である。
[江戸][医師|学者]
太田善麿 著
『群書類従』をはじめ、数々の古典の編集・校刊にまれにみる偉業を成し遂げた塙保己一は、幼時失明した盲人学者であった。常人ですら容易に成し得られない驚嘆すべき大業績がいかにして盲人の身で達成されたのか。その国史・国文研究における恩恵は大きい。本書は俗説を正し基本的な史実に立脚して真正な保己一に迫る最も信頼し得る正伝。
[江戸][学者]
宮田俊彦 著
学者であり政治家でもあった吉備真備は、奈良時代屈指の著名な人物でありながら、彼に関する直接史料はほとんどない。しかもその生涯には華々しい躍動はなかったけれども、穏健な人柄と、再度の入唐によって得られた該博な学識とは、権謀術数渦巻く平城政界にとって一服の清涼剤であった。厳正な史料分析によるすぐれた真備伝。
[奈良][政治家|学者|官人]
鈴木暎一 著
独学古典を研鑽し、『難古事記伝』以下多数の著作をもって宣長学を大胆に批判し、創見に富む学説により国学史上に異彩放つ守部。桐生・足利の機業家・豪農等に多くの門人をもった彼の事蹟は、天保期における庶民文化の発展と、国学の普及発達を見る上からも注目される。本書は幾多の新史料を駆使して、その生涯と学績とを解明した力篇である。
[江戸][学者|文化人]