イギリスがヨーロッパ連合(EU)から離脱すること。イギリスBritainがEUから退出exitすることから、略してブレグジットBrexitとよばれる。2016年6月のイギリス国民投票で、離脱派が51.9%と過半数を占め、離脱を決めた。東欧・中東などから多くの移民が流入してイギリス国民の雇用の場が奪われているうえ、イスラム過激派などによるテロ頻発や、EUによるイギリスの主権制限などへの不満・反発・抵抗感がまさったためとみられている。イギリス政府はEU基本条約(リスボン条約)第50条で定められた手続に沿ってヨーロッパ理事会に離脱を通知し、ほぼ2年かけて脱退協定の交渉を進める。1952年にフランス、西ドイツ(当時)、イタリアなど6か国がヨーロッパ石炭鉄鋼共同体(ECSC)を立ち上げ、1993年のEU誕生を経て、加盟国拡大を続けてきたヨーロッパ統合の流れから、逆行する国が出るのは初めてである。イギリスが離脱すると、EU加盟国は27か国に減る。
EU離脱で、イギリスはEU域内での人、物、サービス、資本の自由移動を享受できなくなる可能性が高い。これにより、イギリスの輸出競争力が低下するだけでなく、対英投資の低下、グローバル企業のイギリスからの流出、EU全体の経済力低下、世界的な保護主義の台頭などが懸念される。このため国民投票の結果が判明した直後から、株式・金融市場では、ヨーロッパだけでなく日本、アジア、アメリカ各国の株価が下落し、イギリス通貨ポンドが急落した。
また、イギリスのEU離脱により、ヨーロッパ内での債務危機や金融不安が再燃するおそれもある。世界経済の不確実性が高まったことで、国際通貨基金(IMF)はイギリスの2017年の成長率を2.2%から1.3%へ、同年の世界経済の成長率を3.5%から3.4%へそれぞれ下方修正した。イギリスでは、首相のキャメロンDavid W. Cameron(1966― )が辞任に追い込まれ、保守党の前内務大臣メイTheresa M. May(1956― )が新首相についた。保守、労働党ともに離脱派と残留派が党内勢力を二分しており、EU離脱はイギリス国内政治の不安定要因となっている。またイギリス国内のうち、スコットランドや北アイルランドではEU残留派が多く、スコットランドの独立機運がふたたび高まる可能性がある。
なおイギリスは1975年に、EUの前身であるヨーロッパ共同体(EC)からの残留・離脱をめぐる国民投票を実施したが、当時は残留派が67%と過半数を占めた。
[矢野 武]