アメリカ合衆国第45代大統領。1946年、ニューヨーク市で、不動産業を営むフレッド・トランプFred Trump(1905―1999)の次男として生まれる。
私立の寄宿学校ニューヨーク・ミリタリー・アカデミーを卒業後、ニューヨーク市内のフォーダム大学を経てペンシルベニア大学のウォートン・スクールに編入し、父の会社を手伝いながら不動産経営学を専攻。1971年に会社を受け継ぐと、事業の中心をブルックリンやクイーンズ地区での中所得者層向け住宅からマンハッタンでの高級不動産開発へと移した。1983年に五番街に完成した超高層ビル、トランプ・タワーはその象徴的建築である。1980年代にはニュー・ジャージー州でのカジノ建設、地方航空会社やアメリカンフットボールチームの買収など、ニューヨークでの不動産以外の事業に進出したが失敗。20代からマス・メディアに積極的に登場し、自らの名を冠した衣料品や食品を展開するなど自身のブランド化を図り、さらに2004年から2015年までトランプ・タワーを舞台としたビジネス・リアリティ番組「アプレンティスThe Apprentice」(NBCテレビ)の司会として顔を広めた。
知名度の高さからたびたび政界進出がうわさされ、早くには1988年の大統領選挙で共和党予備選挙への出馬が取りざたされた。2000年、アメリカ改革党の候補者指名を競ったが撤退。1987年から2012年までに5回の政党変更を行うなど、一貫した政党帰属意識は乏しい。
2016年、「偉大なアメリカをふたたび」をスローガンに掲げ、共和党から出馬。政治経験を欠く泡沫(ほうまつ)候補とみられていたが、職業政治家や政治エリートを既得権益層と批判することで支持を集め、元フロリダ州知事ブッシュJeb Bush(1953― )や上院議員ルビオMarco Rubio(1971― )、右派の上院議員クルーズTed Cruz(1970― )らを退け、指名獲得。
法人税の引下げ、オバマケア(医療保険制度改革)撤廃、銃規制反対といった主張は共和党的である一方で、「アメリカ第一主義」と称し、共和党が推進してきた自由貿易を否定しTPP(環太平洋経済連携)反対や関税引上げといった保護主義的政策を掲げるほか、外交面では同盟国がアメリカに過度に依存しているとして海外米軍の縮小や駐留費の全面負担を唱えるなど、共和党本流との乖離(かいり)は大きい。排外主義的姿勢が顕著であり、移民政策としてアメリカ・メキシコ国境間の壁建設、イスラム系移民の監視強化や入国禁止を主張。
大統領選挙本選では、中部や南部の地方票、産業の疲弊したラストベルトRust Belt(ラストは金属の錆(さび)の意味。錆の帯、錆ついた工業地帯などともいう)の白人労働者層・中間層の票を取り込み、民主党候補ヒラリー・クリントンに勝利。建国以来初の政治家歴・軍歴のいずれももたない大統領であり、その政治手腕は未知数である。
[小田悠生]