皮膚局所の血管が圧迫されて血液循環が妨げられ、圧迫壊死(えし)に陥ったもので、一般に床ずれともよばれる。長期臥床(がしょう)患者、重症熱傷患者や神経麻痺(まひ)のある患者、高齢者など自力で体位変換できない患者、長期間のギプス圧迫を受けた患者、栄養不良患者などに生じやすい。最初に現れるのは局所の皮膚の発赤で、これは指で押すと退色し、灼熱(しゃくねつ)性の痛みを伴うが、ときには無痛のこともある。この初期の褥瘡を圧迫瘡という。発赤に続いて現れるのが腫脹(しゅちょう)(むくみ)である。これは指で押しても退色せず、かならず灼熱痛を伴う。腫脹に続くのが、びらん(皮膚表層の脱落と分泌物)である。これは滲出(しんしゅつ)液が皮膚にまで広がったためにおこるもので、疼痛(とうつう)も強くなる。この時期には、発赤部位の皮膚が破れて潰瘍(かいよう)を生じやすく、さらに進むと潰瘍は骨にまで達するため、化膿(かのう)菌が侵入して感染をおこしやすい。潰瘍を中心に周囲の組織が壊疽(えそ)に陥ると、褥瘡は暗赤色から青赤色、または暗紫色を呈する。また、大きさは小豆(あずき)大から腰部全体にわたるほどの広範囲まで、さまざまである。できやすい部位は、体圧を受けることが多い骨ばった部分、すなわち仙骨、腸骨稜(りょう)部、肩甲骨、大腿骨(だいたいこつ)大転子、踵骨(しょうこつ)などである。また関節拘縮(こうしゅく)のある患者では、別の骨突出部にみられることもある。さらに、肥満であったり、失禁している患者では、肛門(こうもん)の周囲や鼠径(そけい)部にできることもある。褥瘡の誘因としては、圧迫のほか、摩擦、湿潤、不潔などがあげられる。
[山根信子・編集部]
予防のためにはまず、入院・入所時にブレーデンスケール(褥瘡のリスク評価)あるいは厚生労働省の診療計画書などをもとに、患者の骨突出部の状態、知覚や動作能力および関節拘縮の有無、皮膚の浸潤度、皮膚に対する摩擦やずれ、栄養状態など、褥瘡に陥る危険性について事前に評価する。予防法の第一は、同一部位に長時間圧迫がかからない体位を保つくふうをしたり(側臥(そくが)位45度が褥瘡のできにくい体位という研究結果もある)、たびたび体位を変換したり(2時間以上同一体位にしない)、円座、パッド、枕(まくら)などを使用して圧迫感を和らげることである。ついで、皮膚を清潔に保ち、乾燥させて保護すると同時に、念入りにマッサージをして血行を促すようにする。また、寝衣やシーツには糊(のり)をつけないようにし、できるだけ縫い目、しわを避ける。素材としては柔らかくて吸湿性のあるものを選び、清潔に乾燥させて用いる。また皮膚のずれを防止するために、ベッドを30度ほどギャッチアップするなどを試みる。こうした配慮とともに、低栄養になると浮腫などによる循環障害に陥るため、栄養状態の改善に努めて健康状態を良好にすることもたいせつである。褥瘡は、これらの注意深い観察と手当てによって予防できるが、もし褥瘡ができそうなときは、局所を温湯でこすらないようにふいて乾燥させ(温風ドライヤーを使ってもよい)、50%アルコールでマッサージをしたあと、タルカムパウダーをつけるようにするとよい(これを少なくとも朝夕の2回は行う)。この処置で初期の褥瘡はかなり防げるが、もし痛みなどが生じたら、ただちに医師の指導を仰ぐことが望ましい。
[山根信子・編集部]