特定の国家による価値の保証のない通貨。おもにインターネット上で「お金」のようにやりとりされ、専門取引所などで円、ドル、ユーロ、人民元などの法定通貨と交換することで入手でき、一部の商品やサービスの決済に利用できる。紙幣や硬貨のような目に見える形では存在せず、電子データとして存在し、不正防止のために暗号技術を用い、ネット上の複数コンピュータで記録を共有・相互監視するブロックチェーンで管理されている。このため仮想通貨は「デジタル通貨」「暗号通貨」とよばれることもある。代表格は、サトシ・ナカモトと称する人物の論文に基づくプログラムで管理される「ビットコインBitcoin」である。ほかにも決済に使いやすい「リップルRipple」、不動産や信託などに使われる「イーサリアムEthereum」、ビットコインに似た技術で管理される「ライトコインLitecoin」、仮想空間セカンドライフで使用される「リンデンドルLinden Dollar」など600種類を超える仮想通貨が存在する。仮想通貨の推定時価総額は2016年4月時点で約80億ドルである。
仮想通貨は中央銀行や金融機関を経由せずにやりとりされるため、海外などへの送金や決済時の手数料が安くすむほか、送金・決済時間を大幅に短縮できる利点がある。利用者の信用によってのみ価値が保証されており、国や中央銀行の政策の影響を受けにくい。このため仮想通貨は金融危機時に資金の逃避先となるほか、投機などで通貨価値が大きく変動する性質がある。ネット上での国境を越えたやりとりが容易で、取引の匿名(とくめい)性も高い。一方、法律に基づく監視の目が届きにくいため、違法取引、脱税、資金洗浄(マネー・ロンダリング)に利用されやすく、テロ・麻薬資金の温床となるリスクが指摘されている。2014年にはビットコインの取引所を運営するマウントゴックス社が経営破綻(はたん)し、約400億円の損失が出た。このため日本で2016年(平成28)に成立した改正資金決済法では、仮想通貨の取引所・交換業者を登録制にし、取引所に口座を開くときは本人確認を求めることが義務化された。なお電子マネーを広義の仮想通貨に含める考え方もあるが、電子マネーは商品券のように発行会社が取扱いをやめても残高分は払い戻してもらえるのに対し、仮想通貨は利用者の信用のみに基づいているので、まったく価値がなくなるリスクもあるという点で異なる。
[矢野 武]