宇宙が、誕生する極初期(10のマイナス37乗秒後から10のマイナス35乗秒後の間)に、指数関数的に(10の43乗倍に)膨張したとする理論。これまでに、探査衛星COBE(コービー)や探査機WMAP(ダブリューマップ)などによる観測から、宇宙はビッグ・バン(火の玉)により始まったことがわかっている。しかし、なぜ最初に火の玉のように高温の状態で始まったのか、なぜ宇宙の曲率がほぼゼロで、平坦なのか(平坦性問題)、なぜ相互に連絡できないくらい遠く離れた場所どうしでも性質が同じなのか(地平線問題)、などの問題が残った。それらを解決したのが、重力を除いた三つの力(電磁気力、強い力、弱い力)を統一する大統一理論から予想される、真空の相転移に基づくインフレーション理論で、1981年(昭和56)に宇宙物理学者の佐藤勝彦(さとうかつひこ)(1945― )とアラン・グースAlan Harvey Guth(1947― )により、ほぼ同時に提唱された。これによれば、極微の時空を急激な膨張により、宇宙的な大きさの時空へ拡張できる。そして、真空のエネルギー密度は膨張しても一定であるため、急激な膨張により、非常にエネルギーにあふれた宇宙へと成長できる。膨張が終了した後、真空のエネルギーが潜熱として解放され、ビッグ・バンの元になる。また、膨張の原因が、真空のエネルギーに働く宇宙斥力であることにより、(神の一撃のような)外的な要因を必要としない。次に、現在の宇宙の階層構造の種を仕込める。この構造の種(真空のエネルギーの量子的ゆらぎ)がインフレーションによる急激な膨張で引き延ばされ、現在の宇宙の階層構造が形成されたと考えられている。これらの急激な膨張から、空間を引き延ばして、宇宙の曲率をゼロにすることで、平坦性問題が解決される。そして、元々近くにあったものが非常に離れた場所に引き離されて、地平線問題も解決される。インフレーション理論からは、子宇宙や孫宇宙などを生成するマルチバース(多元宇宙)などの考え方も現れ、さまざまな研究が進んでいる。
[編集部]