日本大百科全書(ニッポニカ)

クルーズトレイン
くるーずとれいん

列車に乗ること自体あるいは付帯サービスを観光目的とした列車。これまで「トワイライトエクスプレス」や「カシオペア」などの定期運行の豪華寝台列車が、それに乗車することを観光目的の一部として開発・運行されてきたが、寝台列車の定期運行が縮小され、列車自体をツアーの主目的とするクルーズトレインが開発されるようになった。豪華客船による観光地を巡る旅行(クルーズ)にならって、JR九州の「ななつ星 in 九州」(以下、ななつ星)の登場以降「クルーズトレイン」の用語が使われるようになった。
 従来の、あらかじめ運行時刻を公表し決まった駅と駅を結ぶ定期運行の寝台列車にかわり、いくつかの観光地を結ぶ不定期運行の寝台列車を用い、列車内あるいは停車駅もしくは近傍での食事提供と観光をセットとした旅行商品の提供を目的として開発された。2017年(平成29)時点で運行されているものは、JR九州の「ななつ星」、JR東日本の「TRAIN SUITE 四季島(トランスイートしきしま)」(以下、四季島)およびJR西日本の「TWILIGHT EXPRESS 瑞風(トワイライトエクスプレスみずかぜ)」(以下、瑞風)である。編成中の乗車人員を、「ななつ星」は7両30名、「四季島」は10両34名、「瑞風」は10両50名と少なく抑え、豪華ホテルでの滞在と同等以上のサービス提供をねらいとしており、全個室寝台、レストラン、ラウンジ等の豪華設備を設け、1泊2日から3泊4日で代金数十万円以上の旅行商品を提供している。「ななつ星」は専用のディーゼル機関車牽引(けんいん)の客車列車であり、「四季島」は電化区間を電車として走行し、非電化区間を気動車として走行する。「瑞風」は気動車である。いずれも、電化・非電化を問わず、すべての線区での走行を可能としている。
 クルーズトレインは、ベニス・シンプロン・オリエント急行にそのルーツをみいだすことができる。定期列車としての役割を終えた、1920年代に製造されたクラシック客車(寝台車、食堂車およびサロンカー)をリニューアルして、不定期運行の観光列車として復活させた。鉄道旅行と食事をセットにし、ロンドン、パリ、ベニスなどの有名観光地を結んでいる。ただし、これは従来からの寝台列車の延長といえる。著名観光地を寝台車、食堂車、展望車などで編成した列車で結び、列車に乗ること自体を目的として営業を開始したものには、スペインのアンダルシア・エクスプレス、インドのマハラジャ・エクスプレスなどがある。日本国内では、2013年10月に営業運転を開始したJR九州の「ななつ星」が最初のクルーズトレインといえる。その後、JR東日本の「四季島」が2017年5月から、JR西日本の「瑞風」が同年6月から営業を開始した。
 航空機の発達によって定期客船がその使命を終え、クルーズ船に活路をみいだしたように、新幹線や長距離バスの発達によって寝台列車もクルーズトレインに活路をみいだしている。船との違いは、鉄道が地域に密着していることから、クルーズトレインは運行路線や沿線地域の活性化も期待されていることである。このため、沿線の特産品を使った内装、食材を生かした料理、名所・旧跡訪問やイベントなども大きな魅力として打ち出されている。しかし、クルーズトレインは1列車当りの旅客数が少なく、それ自体での旅客輸送よりもクルーズトレイン運行に触発された観光客などの誘発効果が期待されている。「ななつ星」は営業開始以降、リピーターも含めて満席の状態が続き、「四季島」や「瑞風」も営業開始直後から、高額商品にもかかわらず販売は好調である。「ぜいたくな旅行は海外」という常識を打ち破って、クルーズトレインは富裕層に国内旅行の価値を再認識させた。
 しかし、どのようにリピーターを増やすかは、提供するサービスの質の維持はもとより列車運行ルート設定を含めいかに新しいものを提供できるかにかかっている。もう一つは、線路の保守である。地方交通を担う鉄道は旅客減による収益の悪化に苦しんでおり、線路保守費も切り詰めざるを得なくなっている。クルーズトレインおよび誘発旅客による収益で、線路保守費がどこまで確保できるのか。列車自体のサービス向上に努めても、乗り心地や安全を損なうようでは、長い目でみて、クルーズトレインの集客にも影響が出てくるであろう。また、旅客の少ない路線はコスト減のため列車運行本数減などの合理化を強いられている。クルーズトレインがそのような路線の維持にどこまで寄与するかは今後の課題といえよう。
[佐藤芳彦]