日本大百科全書(ニッポニカ)

薄型テレビ
うすがたてれび
flat panel TV 英語

平坦(へいたん)なパネルのディスプレーを使ったテレビ受像機。平面テレビともいう。ブラウン管を用いる受像管方式のテレビは、大型になればなるほど奥行寸法と重さが増加して取扱いが困難になり、実用上37インチ(1インチは25.4ミリメートル)程度が大きさの限界となっていた。このような難点をもつ受像管方式テレビにかわるものとして登場したのが薄型テレビである。代表的な薄型テレビは液晶テレビであるが、これ以外の原理によるものも交えて、これまでに登場した薄型テレビ、そして今後の成長が期待される新しいタイプの薄型テレビについて解説する。
[吉川昭吉郎]

液晶テレビ

liquid crystal display TV、LCD TV 液晶は、液体と結晶の中間状態にあって液体の流動性と結晶の異方性を兼ね備えている物質である。電界をかけると異方性の方向が変化する。この原理を利用したディスプレーが液晶ディスプレーである。2枚の偏光板の間に液晶モジュール(液晶板)を挟み、偏光板の背後から蛍光灯または白色発光ダイオード(LED)によるバックライトを照射する。2枚の偏光板は偏光方向が90度違うようにつくられており、何もしない状態ではバックライトの光を通さない、すなわち非透過である。バックライトの背後に制御板を置き、これによって液晶の向きを制御して光の透過度を変化させて画像や文字を表示する。液晶板の制御にはいくつかの方法がある。
 ねじれネマチック(TN:twisted nematic)方式は、液晶のねじれぐあいを変えることで透過度を変えるやり方である。液晶がねじれていない場合は非透過状態であり、液晶がねじれると光の偏光方向が変わって透過状態になる。液晶ディスプレーの基本的な構造のため動作が簡単でつくりやすいので、広く使われる。しかし、視野角が狭く、応答が遅い欠点があり、液晶テレビとしては小型、廉価用向きで、現在大型テレビには使われない。
 垂直配置(VA:vertically aligned)方式は、液晶分子が縦方向に並んでおり、垂直に立っている場合が非透過状態、寝てくると透過状態になる。TN方式に比べて光の遮断性能がよいのでコントラスト比が高く、応答も速い。視野角はTN方式同様に狭いが、これを克服する技術も進んでいる。大型液晶テレビに使われる。
 面内スイッチング(IPS:in-plane switching)方式は、液晶が縦方向に並んでおり、無信号状態では非透過性であるが、横方向に並んだ電極に電圧をかけると液晶が横方向に回転して偏光状態を変え、透過性となる。視野角が広く、どの位置で見ても色や諧調(かいちょう)の変化が少ない特長があるが、透過する光の量や応答速度はTN方式に比べてやや劣る。しかしこれらについては改良が進んでいる。大型液晶テレビに使われる。
 液晶テレビの長所は、画面が鮮明である、バックライトの照度を上げることで画面が明るくできる、消費電力が少ない、比較的長寿命である、など。短所は、黒の沈みが不十分でコントラスト比が低い、視野角が狭く視聴位置が正面から外れると色彩や諧調が劣化する、応答速度が遅く残像が出るなど速い動きへの追随が不得手である、画素抜けがある、パネルの強度が低く誤ってものをぶつけたりするとパネルが損傷しやすい、大型化の製造設備にコストがかさむ、などである。
 日本で最初の大型液晶テレビは1995年(平成7)シャープから発売され、各社からも開発と発売が続いた。初期の製品は前記の短所が著しく、プラズマテレビ(後述)に劣るとされたが、これらの短所はメーカー各社が競って技術向上を図った結果、短時日のうちに改善された。
 その結果、液晶テレビは競争相手のプラズマテレビを抜き去り、2014年(平成26)時点において日本で製造されるテレビはすべて液晶テレビが独占するという状況になった。日本市場では、シャープ、東芝、ソニー、パナソニック、三菱電機の5社が多くを占めており、アメリカ市場では韓国の三星(サムスン)電子が優位にたっている。
 2010年代に入って以降、液晶テレビの高画質化技術が急速に進んだ。その一つは、発光半導体の応用である。発光半導体の代表に量子ドット(Quantum Dot)がある。量子ドットはナノメートル(nm。10-9メートル)オーダーの微小な半導体結晶で、ドットの大きさを変えることで、入射した白色光または青色光を任意の色に変えることができる性質をもつ。テレビへの応用では、2013年にソニーが発光半導体を用いたトリルミナスディスプレー(TRILUMINOS Display)を上位機種テレビに搭載して、色の再現領域の大幅な拡大を実現した。
 韓国の三星電子は、2015年に量子ドットLED(quantum dot LED)を利用した液晶テレビを開発してSUHD TV(super ultra high definition TV)の名で発売。2017年1月、アメリカのラス・ベガスで開催されたCES(セス) 2017(2017年家電見本市。CES:コンシューマー・エレクトロニクス・ショーConsumer Electronics Show)を機に名称をQLED TV(quantum dot LED TV)に変更して現在に至っている。これは、ディスプレーの液晶パネルに量子ドットでつくられたシートを貼り付け、ドットサイズを制御することで、バックライトから受光した光を任意の色に変換して表示する仕組みである。明るさを損なわずに、高いコントラスト、広い色再現範囲、広い視野角、高い色彩変換効率、低電力など、数々の長所を実現することができるといわれる。
 一方、韓国のLGエレクトロニクスはCES 2017にナノセルLED(nano cell LED)を利用した液晶テレビを「SUPER UHD TVs」の名で発売した。構造・動作は三星電子のQLED TVと似ているが、ナノセルシートの液晶パネルへの貼り付け方に相違がある。
 これらに対し、コストが高い量子ドットシートを使わなくても、新世代のLEDバックライトシステムを使うことで、同等の色領域を実現することができるとする立場もあり、日本メーカーの多くはこの立場である。
 新世代バックライトのおもな特長として、最新技術のLED素材を用い、また素材数を2種から3種に増やすなどして、バックライトの白色の純度をあげたことによる広い色域の実現、輝度の向上、液晶パネルへの照射方法を改善したことによる均一性の向上、などがあげられる。また液晶テレビの欠点とされる残像とこれによる違和感を軽減するために、倍速駆動という技術があり、おもに大型テレビに適用されている。ライバルの有機ELテレビは、発売後日が浅く、2017年時点ではまだ高価なため、市場では当分液晶テレビ中心の時代が続くものと思われる。
[吉川昭吉郎]

プラズマテレビ

plasma display TV プラズマディスプレーは、放電により紫外線を放出する素子を並べたガラス板と、蛍光体を層状に並べたガラス板を対向させて密閉し、希ガスを封入した構造をもち、電圧を加えて電極から紫外線を放出しこれを蛍光体層に当てて発光させる。このディスプレーを用いたテレビがプラズマテレビである。プラズマテレビの長所は、自己発光型であるため視野角が広く正面から外れて視聴しても色彩や諧調の変化がない、黒の沈みがよいためコントラスト比が高い、応答速度が速く動きの速い画面にもよく対応する、パネルがじょうぶで誤って物をぶつけたりしても損傷しにくい、大型のテレビの製造に向いている、などである。短所としては、消費電力がやや大きくパネル面の発熱が多い、静止画面を長時間出し放しにすると画面の「焼き付き」という現象が生じて表示機能が損なわれる(注:「焼き付き」はブラウン管ディスプレーにも発生する現象)、構造上37インチより小型のものの製造がむずかしい、などがある。1996年に富士通ゼネラルが42インチフルカラープラズマディスプレーを発表、1997年にはパイオニアが50インチ民生用プラズマテレビを発表した。いずれも世界初のものである。そのころ、競争相手の液晶テレビがさまざまな点で性能的に未熟であるとともに、製造設備の関係で大型のパネルの製造ができなかったこともあって、大型の薄型テレビの本命はプラズマテレビと目されていた。そして、多くのメーカーが競ってプラズマテレビの製造に参入した。小型テレビは液晶、大型テレビはプラズマというすみ分けが行われた時期もあった。しかし、その後液晶テレビの進化は著しく、プラズマに劣るとされた諸問題のすべてがほぼ解決されるとともに、大型パネルの製造設備の充実、コストダウンの実現が進み、プラズマテレビの優位性は急速に低下してゆく。メーカー各社はプラズマテレビ生産から徐々に脱落し、残った2強のうちパイオニア社は2008年にテレビ事業から撤退、パナソニック社も2013年にプラズマテレビからの撤退を表明して、日本でのプラズマテレビの製造は終了した。
[吉川昭吉郎]

SEDテレビ

surface-conduction electron-emitter display TV、SED TV SEDは、日本語では表面伝導型電子放出素子ディスプレーとよばれる。従来使われてきたブラウン管ディスプレーは蛍光面から離れた場所にある電子銃から電子ビームを放出し、空間を走行する電子ビームに電磁的または静電的な力を与えて蛍光面上を走査させていた。フライング・スポット・スキャナーflying spot scannerとよばれる操作である。優れた動作であるが、ディスプレーとしては奥行寸法が大きくなるのが欠点であった。SEDは、微細な画素ごとに電子放出素子を設けることで、フライング・スポット・スキャナー動作を不要とした薄型ディスプレーで、放出された電子を蛍光面に当てて発光させる原理はブラウン管ディスプレーと同様である。長所としては、薄型、応答速度が速い、コントラスト比が高い、画質はブラウン管テレビのそれと同等、自己発光型であるため視野角が広い、蛍光体部分はブラウン管の製造技術がそのまま使える、などがある。薄型テレビの初期、プラズマテレビも液晶テレビも、完成度の高いブラウン管テレビに比べて画質が劣る時期があり、ブラウン管テレビに匹敵する高画質の薄型テレビを供給する目的で開発が行われた。1996年にキヤノンが開発に着手、1999年に東芝との共同開発に発展した。しかし、開発に時間がかかっている間に、プラズマテレビと液晶テレビの改良が急速に進んで品質が高くなり、SEDテレビの存在意義は低下してゆき、2005年ごろからはコスト的にもあわなくなっていった。さらに2007年にはSEDの基本特許をもつアメリカのナノ・プロプライエタリNano-Proprietary社(現、アプライド・ナノテック・ホールディングスApplied Nanotech Holdings社)との間で特許問題の係争などもあり、開発は大幅に遅れた。係争中に東芝が共同開発から手を引いて液晶テレビに集中することを表明、キヤノンも2010年に家庭用SEDテレビの開発を断念することを表明して、SEDテレビは日の目をみることなく終わった。
[吉川昭吉郎]

有機ELテレビ

organic light emitting diode TV、OLED TV エレクトロルミネセンス(EL:electroluminescence)は電子発光ともよばれ、ある種の半導体に電界をかけると発光する現象をいう。有機EL(organic electroluminescence)は、有機化合物でできたLEDに電界をかけると発光する現象、および装置をさし、英語名はOLED(organic light emitting diode)という。これを応用したテレビが有機ELテレビである。有機ELテレビの長所は応答速度が速い、コントラスト比が高い、ほぼ180度に近い広視野角をもつ、駆動電圧が低く消費電力が少ない、発光効率が高い、2枚の偏光板と液晶モジュールの3枚構成でバックライトを必要とする液晶と違い1枚の基盤ですむので薄型が可能である、プラスチックなどの柔軟な基盤を使うことで曲面ディスプレーや折り曲げ可能なディスプレーができる、構造が簡単なため低コスト化が期待される、などがあげられる。現時点での課題として、通電や酸素、湿気によって発光素子が劣化する、画面にむらが出やすく大型化にするほどこれが目だつ、製造歩留りが悪くコストが高いことなどがあげられる。製品としては2007年にソニーが世界に先駆けて11インチの有機ELテレビを発売した。画品質の高さは評価されたが、高価格で普及せず2010年に生産を終了し、その後しばらくの間大型有機ELテレビの計画はなかった。
 2016年5月になって、韓国のLGエレクトロニクスが大型の4K対応有機ELテレビ3機種を発売した。65インチ型、55インチ型および曲面タイプの55インチ型である。さらに10月には最上位機種の77インチ型を発売した。また前述のCES 2017においても、LGエレクトロニクスは多種類のテレビを出展したが、そのなかに65インチ型と77インチ型の新型の有機ELテレビが含まれていた。65インチ型のパネルの厚さはわずか2.57ミリメートルで、壁紙テレビ(wallpaper TV)と位置づけられ、専用の部材を使うことにより、簡単に壁掛けにすることができる。また4K対応で、HDR(high dynamic range imaging、ハイダイナミックレンジ合成)という高画質処理機能も備えている。
 日本では東芝が2017年3月に65インチ型および55インチ型有機ELテレビを発売した。またソニー、パナソニック両社も同年6月に65インチ型および55インチ型を発売し、さらに8月には77インチ型を発売した。いずれも、4K対応、HDR搭載、倍速駆動などの高画質化技術を採用している。各社の特長として、ソニーはディスプレーを音声信号入力に応じて振動させて音を出すことで絵と音の融合が向上したこと、パナソニックはオプションの金具を用いて壁掛けにできること、などをうたっている。
 なお、2007年にソニーから発売された有機ELテレビでは、パネル(テレビ画面の表示部)は自社製であったが、2017年時点で国内各社から発売されている有機ELテレビでは、パネルはすべて韓国製を使用している。有機ELテレビの位置づけについては、ただちに液晶テレビに置き換わるものというよりは、当面液晶テレビと並存し、消費者が好みに応じて選択することになるという見方が多い。
[吉川昭吉郎]