地中に存在する有用鉱物資源を採掘する事業場の総称。石炭や石油を採掘する事業場も広い意味では鉱山であるが、前者は炭鉱、後者は鉱場と称して鉱山とは区別することが多い。ここでは主として金属・非金属鉱山に関して記述する。
[房村信雄]
鉱山関係法規によれば、鉱山とは鉱業を行う事業場をいい(鉱山保安法2条)、鉱業とは鉱物の試掘、採掘およびこれに付属する選鉱、製錬その他の事業をいう(鉱業法4条)。ここでいうその他の事業とは、採掘事業と権利主体を同じくし、鉱物の採掘事業と密接な関係のあるもので、個々の場合に具体的に決定される。付属事業はかならずしも鉱山の付近で行われることを要せず、鉱石の大部分がその鉱山から送られている場合は、場所が遠く離れていても付属製錬所とされる。しかし主として他の鉱山からの買鉱ないし海外からの輸入鉱を製錬している場合は鉱業の付属事業とはされない。また鉱山に付属してセメント製造や金属加工を行っている場合は、二次的加工業と認められ、鉱業法上の付属事業とはされない。
[房村信雄]
鉱物資源を合理的に開発し鉱業の健全な発達を図り鉱山を育成するためには、法的な規制と保護とが必要である。鉱業法では、とくに重要な鉱物を法定鉱物として規制し、国に出願してこれを試掘する権利(試掘権)または採掘する権利(採掘権)を得ない限り、法定鉱物の試掘、採掘は許されない。これらの権利を総称して鉱業権といい、この権利を有する者(個人または法人)を鉱業権者と称する。すなわち、鉱業権者でなければ法定鉱物を採掘する鉱山を経営することはできない。鉱業法第3条によれば法定鉱物とは次の41種である。
金鉱、銀鉱、銅鉱、鉛鉱、蒼鉛(そうえん)鉱、錫(すず)鉱、アンチモニー鉱、水銀鉱、亜鉛鉱、鉄鉱、硫化鉄鉱、クローム鉄鉱、マンガン鉱、タングステン鉱、モリブデン鉱、砒(ひ)鉱、ニッケル鉱、コバルト鉱、ウラン鉱、トリウム鉱、燐(りん)鉱、黒鉛、石炭、亜炭、石油、アスファルト、可燃性天然ガス、硫黄(いおう)、石膏(せっこう)、重晶石、明礬石(みょうばんせき)、蛍石(ほたるいし)、石綿、石灰石、ドロマイト、珪石(けいせき)、長石、ろう石、滑石、耐火粘土(ゼーゲルコーン番号31以上の耐火度を有するものに限る)および砂鉱(砂金、砂鉄、砂錫その他沖積鉱床をなす金属鉱をいう)。1890年(明治23)鉱業条令が制定されたときの法定鉱物は金鉱から硫黄までの16種にすぎなかったが、科学、技術の進歩と社会的・経済的必要性から漸次追加され現在に至っている。今後もまた時代とともに新しい鉱種が追加指定されるものと考えられる。
銅を含む鉱物には、自然銅、赤銅鉱、藍(らん)銅鉱、孔雀石(くじゃくいし)、黄銅鉱、銅藍その他多数あり、鉛を含む鉱物にも、方鉛鉱、白鉛鉱、硫酸鉛鉱、緑鉛鉱など多数ある。他の鉱種についても同様で、特定の金属・非金属元素を含む鉱物が各種ある場合が少なくない。法定鉱物は鉱物学上の鉱物種にかかわらず、指定鉱種を含み経済的価値をもつ鉱石を対象としている。これらは、(1)主体鉱石および随伴鉱石、(2)品位、(3)埋蔵量、(4)採掘の難易度、(5)選鉱・製錬の難易度、(6)需要、(7)運輸交通の便、などから総合的に決定される。
[房村信雄]
鉱山の分類方法はいろいろあるが、一般には鉱産物の種類により金属鉱山と非金属鉱山とに分けられる。
金属鉱山は、金、銀、銅、鉄などの金属鉱石を探査、採鉱、選鉱、製錬する事業場で、単に鉱山という場合は金属鉱山を意味する場合が多い。製錬工程は、選鉱工程から供給される精鉱を融解などによって粗地金(あらじがね)と鉱滓(こうさい)とに分ける製錬smeltingと、電解、溶解、化学反応などの工程で粗地金の純度を高めた地金とする精錬refiningとがある。鉱山付属の製錬所のなかには前者の工程だけのものと、両者をあわせて行っているものとがある。大鉱山では製錬所を併置している例が多く、なかには鉱床が枯渇して鉱石の採掘は中止されたが、かつての付属製錬所は独立して国内他鉱山または海外から買鉱して製錬を続けている例もある。中小鉱山は主として採鉱と選鉱だけを行い、他の製錬所へ売鉱する。
金属鉱山は、産出する主要鉱石によって、金山、銀山、銅山、鉛山、鉄山などとよばれることがある。金属鉱床では数種の金属がいっしょに産出する場合が多く、金山でも銀を伴い、銅山でも金、鉛、亜鉛その他を伴うことが少なくない。これら随伴金属は選鉱および製錬工程で分離され、それぞれの精製地金として供給される。工業生産の発展に伴う既存金属に対する需要増大と科学、技術の進歩に伴う新金属の利用拡大により、金属鉱山では生産拡充ないし新金属鉱石の探査、製錬技術の整備に追われている。新金属はレアメタルまたは希金属あるいは希有金属ともよばれ、地殻中の存在量が少なく精錬もむずかしいものが少なくない。たとえばベリリウム、ガリウム、ニオブ、セリウム、ハフニウム、タリウム、トリウムなどがこれである。ウランも希金属の一種であるが、原子力発電における核燃料として世界中で探査が進み、大量に採鉱され、濃縮ウランとして生産されていることは周知のとおりである。ウランやトリウムを産出する鉱山を核原料物質鉱山というが、この例は、希金属でも需要が高まれば、その探査、採鉱、選鉱、製錬にわたる一連の鉱山技術が発達して新しい鉱山が開発され、需要に見合う新金属が確保されるものであることを示している。
非金属鉱山は、石灰石、ドロマイト、硫黄、石膏、珪石、ろう石、耐火粘土などの非金属鉱物を探査、採鉱し、選鉱して純度を向上させ、または粒度をそろえて製品として供給する。金属鉱物は製錬して純金属、合金または酸化物などとして供給されるが、非金属鉱物はほとんど製錬工程を必要としないのが特徴である。硫黄鉱は加熱溶融して精製するが、これも金属鉱石の製錬に比較すればはるかに簡単である。産業活動が活発になるにしたがい各種非金属鉱物に対する需要が増大し、非金属鉱山も大形化し増産を続けている。他面、公害防止の必要性から排煙脱硫技術が発達し、硫黄や石膏が副産物として安価で多量に生産されるようになったので、天然物を採掘する硫黄鉱山や石膏鉱山は経済的に稼行できなくなり閉山するなどの例もある。
採掘形式から分類すると、表土や被覆岩石を剥土(はくど)して地表から鉱石を採掘する坑外採掘鉱山(露天掘り鉱山)と、地表から立坑(たてこう)、斜坑、通洞(水平坑)のいずれかで地下の鉱体に達して鉱石を採掘する坑内採掘鉱山(坑内掘り鉱山)とがある。鉱体の存在状態によっては、露天掘りと坑内掘りを同時に行っている鉱山、あるいは地表に近い浅部は露天掘りで採掘し、深くなってから坑内掘りに切り替える鉱山、最初に坑内の富鉱帯を採掘し、次いで地表の露頭付近から露天掘りをする鉱山もある。世界的には露天掘りをしている金属、非金属、石炭などの大鉱山が多いが、日本では鉱床の特性から、大規模に露天掘りを行っているのは石灰石鉱山などに限られている。
[房村信雄]
鉱山は次にあげる諸点について他の一般産業とかなり異なっており、これらを無視しては鉱山を考えることはできない。
〔1〕鉱山で採掘する鉱物資源は有限であり、再生がきかない。したがって、できるだけ合理的に採掘する必要がある。
〔2〕鉱物資源は自然によって与えられたもので、人間の努力でつくりだせるものではない。しかし探査努力で未知の鉱量を発見することができる。
〔3〕鉱物資源は世界的にも国内的にも偏在し、鉱山の立地は資源の偏在性に左右される。
〔4〕鉱山の経営は、鉱量計算の失敗、鉱産物価格の変動などで脅かされることが多い。
〔5〕鉱山、とくに坑内掘り鉱山では作業空間が狭く、落盤、爆発、火災、出水など保安上の危険要素が多い。
日本は国土が狭いので鉱産物の絶対量は少ないが、その種類は多く、鉱山開発の歴史も古い。しかし海外鉱業国に比して大鉱山、とくに露天掘り鉱山が少ないという特徴がある。
[房村信雄]
(略)
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