日本大百科全書(ニッポニカ)

肝臓がん
かんぞうがん
liver cancer 英語
hepatic cancer 英語
hepatoma 英語

定義

肝臓にみられるがん。肝臓の組織から発生する原発性肝がんと、他臓器からの転移による転移性肝がんに二分される。
 このうち原発性肝がんは、肝細胞に由来する肝細胞がん、胆管細胞由来の肝内胆管がん、肝細胞がんと肝内胆管がんの混合型肝がん、粘液嚢胞腺(のうほうせん)がん、小児の肝がんである肝芽腫(しゅ)などに分類されている。日本では原発性肝がんの9割以上を肝細胞がんが占めており、肝内胆管がんが5%弱、残りはその他の組織型である。肝細胞がんの多くは肝硬変を合併し、C型・B型肝炎ウイルスの関与が高率である。最近では、非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis:NASH)からの肝細胞がんの発生が増加している。
 一方、転移性肝がんは、他の臓器に発生したがん細胞が、リンパや血液を流れて肝臓に移動し増殖したもので、大腸がん、胃がん、膵臓(すいぞう)がん、胆道がんなどの消化器がんからの転移がよくみられている。これらの多くは、消化器臓器の栄養血管である門脈を経由して肝臓へ転移している。ほかに乳がん、肺がん、頭頸(とうけい)部がん、子宮がん、卵巣がん、腎(じん)がんなどからの転移もある。
 一般に肝がんといえば、原発性の肝がん、なかでも発生頻度の高さから肝細胞がんをさしていることが多い。
[渡邊清高]

疫学・病因(危険因子)

統計

日本において2015年(平成27)に肝がん(原発性肝がん)で死亡した人は2万8889例である。このうち男性1万9008例、女性9881例であり、それぞれがん死亡全体の8.7%、6.6%を占めている。部位別にみると肺がん、大腸がん、胃がん、膵臓(すいぞう)がんに次いで第5位(男性第4位、女性第6位)の死亡数となっている。死亡数の年次推移は、2002年の3万4637例をピークに、徐々に減少傾向に転じている。年齢階級別の死亡率をみると、男性では45歳前後から、女性は55歳前後から増加し、高齢になるほど高くなる。
 2013年の肝がん罹患(りかん)数(全国推計値)は4万0938例である。男性2万7335例、女性1万3603例で、それぞれがん罹患全体の5.5%および3.7%を占めている。部位別の罹患数をみると、男性は胃がん、大腸がん、前立腺(せん)がん、肺がんに次いで第5位、女性は乳がん、大腸がん、胃がん、肺がん、子宮がん、膵臓がんに次いで第7位となっている。罹患数の年次推移は、2008年の4万8512例をピークに、わずかずつ減少がみられる。年齢階級別罹患率では、男性は45歳前後から高くなり70歳代まで増加し、女性では55歳前後から高くなる。
 罹患数と死亡数に大きな差がみられないのは、肝がん罹患者の生存率が低いことを示すものである。実際に2006~2008年に肝がんと診断された人の5年相対生存率は32.6%(男性33.5%、女性30.5%)であり、がん全体の62.1%(男性59.1%、女性66.0%)と比べても低い傾向にある。
 経年的な推移をみるうえで、人口の高齢化の影響を除き、一定の年齢構成に調整した数値を比較する。年齢調整死亡率の年次推移は、男女とも1995年(平成7)をピークに減少傾向がみられる。年齢調整罹患率は、男性では1995年以降減少、女性は横ばい傾向にある。
 肝がん死亡率および罹患率を出生年代別にみていくと、男女とも1935年(昭和10)前後の出生者で高い。この年代は、日本における肝がんの主要因であるC型肝炎ウイルスの抗体陽性者の割合が高い世代に相当する。
 肝がんは分布に地域性がみられ、罹患率の国際比較では、日本を含む東アジア地域が高い。国内では、東日本より西日本のほうが死亡率が高い(データ出典:国立がん研究センターがん対策情報センター)。
[渡邊清高]

要因

肝細胞がんは、子宮頸(けい)がんや胃がんのように、発生要因が感染による慢性炎症に伴うことが明らかになっているがんの一つである。C型肝炎ウイルス(HCV)およびB型肝炎ウイルス(HBV)の関与と、環境因子の影響が大きい。日本では、肝細胞がん患者の約80%にC型またはB型肝炎ウイルスの持続感染がみられる。慢性肝炎になると、長期にわたって炎症が続くことで肝臓の線維化が進み、肝硬変や肝がんに進展していく。肝硬変の場合は年率8%程度の割合で肝がんが発生するため、発がんの高危険群といえる。
 B型肝炎ウイルスの持続感染は、全世界規模でみるともっとも重要な肝細胞がんの危険因子である。B型慢性肝炎のなかでも肝硬変を有する者は、さらにリスクが高い。一方で、肝硬変を伴わない慢性肝炎や肝炎のないキャリア(ウイルス保有者)からも発がんがみられることがあるため、定期的なフォローアップが必要となる。C型肝炎ウイルスの持続感染もB型肝炎ウイルスと並ぶ重要な危険因子であり、日本をはじめ一部の欧米諸国では、肝細胞がんの第一の原因となっている。C型肝炎を背景とした肝細胞がんは、そのほとんどが肝硬変を経てから発がんを認める。
 肝硬変は、B型・C型肝炎ウイルスが陰性の場合でも、肝細胞がんの危険因子となる。ほかに男性、高齢、アルコール多飲、喫煙、カビ毒のアフラトキシン(日本ではまれ)、さらには肥満や糖尿病などの生活習慣病との関連も示唆されている。最近では、アルコール摂取歴がほとんどない非アルコール性脂肪肝炎(NASH)からの発症が増加傾向にある。一方で、コーヒー飲用者でリスクが低下することを示す報告があり、メカニズムの解明が待たれる。
 肝内胆管がんの危険因子は、淡水魚を生食することで感染する肝吸虫の持続感染などが知られており、タイ東北部でよくみられる。肝細胞がんにみられるような肝炎ウイルスとの強い関連はないが、B型・C型肝炎ウイルスの持続感染を示すHBs抗原やHCV抗体陽性例が通常より高率にみられる。また、慢性肝炎や肝硬変の合併例もみられる。
 これらを背景に、日本における肝がん予防対策は、肝炎ウイルスの感染予防、感染の有無を知るためのスクリーニング検査、そして持続感染者に対する肝炎治療および定期的なフォローアップを柱として進められている。
[渡邊清高]

分類

病理組織学的分類

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浸潤・転移様式

(略)

症状・症候

肝細胞がんは通常無症候性で、腹部超音波検査などの画像診断などにより発見されることが多く、症状の出現は病勢が進行してから認められることが多い。一方で、がんそのものより併存する肝硬変などの慢性肝障害に伴う症状を有することも多く、倦怠(けんたい)感、浮腫(しゅ)、腹水などの頻度が高い。これらは腫瘍(しゅよう)そのものによる肝機能障害の症状と厳密な区別はできず、肝硬変と腫瘍のいずれも進行すれば肝不全に至り、黄疸(おうだん)や肝性脳症がみられるようになる。また、肝硬変に伴う低栄養、門脈圧亢進(こうしん)による腹水や便秘、下痢、食道胃静脈瘤(りゅう)破裂も、肝細胞がん患者で問題となっている。とくに門脈腫瘍栓を有する患者では、これらが急激に悪化することがある。
 腫瘍そのものによる症状として、腫瘍の増大や腫瘍内出血による圧迫感や疼痛(とうつう)(痛み)などがある。肝細胞がんは多血性のため、腫瘍破裂による腹腔(ふくくう)内出血を起こすことがあり、この場合は急激に進行する貧血やショック、腹部の疼痛を伴う。その他、肝外転移が生じた場合には、転移部位により各々症状がみられる。
 肝内胆管がんも早期には症状を認めず、胆管閉塞(へいそく)による黄疸や胆管炎に伴う発熱などが症状となることが多い。検診などの血液検査で胆道系酵素の異常、スクリーニングの超音波検査で肝内胆管の拡張や肝腫瘍が検出され、それを契機に診断されることも少なくない。
[渡邊清高]

検査・診断

検査・診断

(略)

病期・肝障害度

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治療

肝細胞がんの治療

(1)おもな治療方法
 肝細胞がんは肝硬変などの慢性肝障害を背景にもつことが多いことから、治療法の選択には、がんの進行度に加えて肝障害の程度も考慮することが重要となる。肝がんの治療は、外科療法(手術)、穿刺(せんし)局所療法、肝動脈塞栓(そくせん)療法といった局所治療が中心となる。「科学的根拠に基づく肝癌(がん)診療ガイドライン」では、病態に応じた治療法の選択基準として、「エビデンスに基づく肝細胞癌治療アルゴリズム」が推奨されている。アルゴリズムは肝障害度、腫瘍(しゅよう)数、腫瘍径の3因子をもとに設定され、これらの組合せによって推奨される治療方法が提示されている。
(2)外科療法(手術)
(a)肝切除
 肝切除は、がんを含む肝組織を部分切除するもので、もっとも根治性が高い局所治療であるが、肝機能を評価し、切除後の肝機能を考慮したうえで検討される。黄疸(おうだん)や腹水がみられるなど、肝機能が十分でない場合、術後肝不全の危険が高まるため、他の治療法が選択される。
(b)肝移植
 肝移植は、肝細胞がんのみならず、背景にある障害肝も同時に治療できる可能性のある治療法である。非代償性肝硬変を伴い、他の治療では制御不能な肝細胞がんに対し考慮される。日本では脳死肝移植はほとんど進んでいないが、おもに近親者から肝臓の一部の提供を受けるかたちでの生体肝移植が行われている。術後の拒絶反応や、長期にわたる免疫抑制薬の内服、移植肝へのC型肝炎ウイルスの再感染といった課題もある。
(3)穿刺局所療法
 穿刺局所療法は、体の外から特殊な針をがんに直接刺し、腫瘍を死滅させる治療法である。1980年代の経皮的エタノール注入療法(percutaneous ethanol injection therapy:PEI)に始まり、経皮的マイクロ波凝固療法(percutaneous microwave coagulation therapy:PMCT)を経て、現在はラジオ波焼灼(しょうしゃく)療法(radiofrequency ablation:RFA)が代表的治療と位置づけられている。腫瘍の数や大きさが限局している場合に検討される。一般的に手術に比べ低侵襲であるが、局所再発を起こすことがあるため、治療効果判定や治療後のフォローアップが行われる。肝動脈化学塞栓療法(transcatheter arterial chemoembolization:TACE)と併用したラジオ波焼灼療法では、壊死(えし)範囲が拡大することが報告されている。
(4)肝動脈化学塞栓療法(TACE)
 腫瘍の栄養血管から抗がん薬および塞栓剤を注入することによって、腫瘍を選択的に死滅させる治療法である。肝切除、穿刺局所療法と比べると根治性が劣る。供血路である血管が確保できれば繰り返し治療が可能であり適応も広いことから、切除後あるいは穿刺局所療法後の再発例や初発例に対して広く行われる。
 油性造影剤イオダイズドオイル(リピオドール)が腫瘍内に停滞することを利用して、リピオドールと抗がん薬の混合液(リピオドールエマルジョン)の注入後に、塞栓物質を注入する。塞栓物質としては、球状の多孔性ゼラチン粒(ジェルパート)などを用いる。最近では、薬剤溶出性ビーズ(DEB)が用いられるようになっている。使用する抗がん薬については定まっていないが、アントラサイクリン系薬剤や白金製剤が用いられることが多い。TACE後効果判定を行い、必要な場合には追加治療が行われる。
(5)化学療法
 肝細胞がんの化学療法には、全身化学療法と肝動脈内注入(肝動注)化学療法がある。全身化学療法は、外科切除や肝移植、穿刺局所療法、肝動脈化学塞栓療法のいずれもが適応とならない症例が対象となる。
 ソラフェニブ(ネクサバール)は分子標的治療薬の一つで、肝細胞がんの増殖シグナルであるMAPキナーゼにおけるRafや、血管内皮細胞、周皮細胞でのVEGFR、PDGFRのキナーゼ活性を阻害することで腫瘍増殖を抑制する、マルチキナーゼ阻害薬である。ソラフェニブは、チャイルド・ピュー分類Aの切除不能肝細胞がん症例に対し、全生存期間と無増悪(ぞうあく)生存期間の有意な延長を認めている。日本では2009年(平成21)5月に保険適用となった。一方、ソラフェニブには分子標的治療薬ならではの毒性がみられ、手足症候群、脱毛、下痢、皮疹(ひしん)、高血圧、肝障害などの有害事象(副作用)が報告されている。肝動注化学療法については、インターフェロン全身投与とシスプラチンとの併用療法などにより生存期間の延長がみられた報告もあるが、十分な科学的根拠とはなっていない。
(6)放射線治療
 他の局所療法の適応困難な肝細胞がんに対して、陽子線、重粒子線といった粒子線治療の効果が期待されている。とくに門脈腫瘍栓や下大静脈腫瘍栓、巨大肝細胞がんなど、治療に難渋する腫瘍に対しては、放射線をあてる範囲を絞り込める放射線治療が有効と考えられている。肝細胞がんの遠隔転移に対しても、骨転移による疼痛(とうつう)の緩和を目的とする照射や、脳転移がみられる場合の生存期間延長を目的とした全脳照射や定位放射線照射による治療が勧められる。
[渡邊清高]

肝内胆管がんの治療

肝内胆管がんに対する根治的治療としては、外科的切除があげられるが、実際には周囲臓器への浸潤や転移により切除不能の場合が少なくない。切除不能例は全身化学療法の適応となる。肝内胆管がんは症例数が少ないため、胆道がんと同様の治療による化学療法が検討される。化学療法としては、ゲムシタビンとシスプラチンの併用療法や、S-1単独、ゲムシタビンとS-1併用などの治療が行われる。
[渡邊清高]

経過・合併症・予後

肝細胞がん

肝細胞がんの経過は、がんの進展に伴う肝障害の進行に加え、背景となる肝硬変などの肝機能の悪化が予後の規定因子となることが多い。肝性脳症や難治性腹水、胃食道静脈瘤(りゅう)破裂などの消化管出血も、病状の経過に伴い起こることが多い合併症である。とくに肝硬変や門脈腫瘍(しゅよう)栓を有する例ではリスクが高い。
 「第19回全国原発性肝癌(がん)追跡調査報告」における全症例の累積生存率は、1年83.6%、2年72.5%、3年62.1%、5年44.3%、10年20.5%である。進行度別の予後として、5年生存率はstage  74.3%、stage  62.5%、stage  43.5%、stage A 25.9%、stage B 18.7%と報告されている。肝障害度別ではA55.7%、B39.0%、C22.0%と報告されている。
 肝細胞がんは治療後も再発率が高いのが特徴の一つであり、5年で70~80%の再発率である。多くは肝内再発であり、肝外転移再発は少なく、診断から2年以内の経過観察中に3~4%出現しているのみである。頻度の高い転移部位として、リンパ節、肺、骨、副腎(ふくじん)などがあげられる。肝細胞がんの予後因子は、がん進行度と肝障害度である。「科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン」には、予後因子の詳細について示されている。
[渡邊清高]

肝内胆管がん

肝細胞がんに比べると初発時に肝外転移がみられることが多く、リンパ節転移を2割程度に認めるほか、肺、腹膜、および骨への転移の頻度が高い。腫瘍の局在によっては胆道閉塞(へいそく)に伴う黄疸(おうだん)や胆管炎が生じうる。
 「第19回全国原発性肝癌追跡調査報告」によると、全症例の累積生存率は、1年58.0%、2年41.7%、3年34.4%、5年24.8%、10年14.9%となり、肝細胞がんと比較して全体に予後不良である。肝内胆管がんの切除後予後因子としては、切除断端のがん陽性、リンパ節転移、血管浸潤、腫瘍数などがある。
[渡邊清高]

その他

(1)肝炎対策基本法
 C型およびB型肝炎ウイルスによる慢性肝炎は、肝硬変や肝がんを引き起こす要因となることから、肝炎の予防や適切な治療を受ける体制を整える必要がある。慢性肝炎罹患(りかん)者が多いことや、1990年代以前の血液製剤や予防接種による感染被害が生じたことを踏まえ、2010年(平成22)に「肝炎対策基本法」(平成21年法律第97号)が施行された。本法には、肝炎の予防および早期発見の推進、肝炎医療の均てん化の推進、研究の推進などの施策を推進することが明記されている。
[渡邊清高]