2017年(平成29)の刑法改正以前に規定されていた性犯罪名の一つ。改正後は罪名が「強制性交等罪」に変更されるとともに処罰範囲が拡大され、法定刑の下限が3年以上から5年以上に引き上げられた。
旧刑法では、暴行・脅迫によって13歳以上の女子を姦淫(かんいん)するか、13歳未満の女子を姦淫する罪で、3年以上の有期懲役に処せられた(旧刑法177条。狭義の強姦罪)。本罪の被害者が、13歳以上である場合は、その反抗を著しく困難にする程度の暴行・脅迫を手段とすることを要したが、13歳未満の場合には、暴行・脅迫がなく、被害者の承諾(同意)に基づく場合についても本罪が成立した。
また、女子の心神喪失もしくは抵抗不能に乗じて、または心神喪失もしくは抵抗不能に陥れて姦淫した場合も、強姦罪に準じてその刑が科された(旧刑法178条2項。準強姦罪。現行刑法では準強制性交等罪)。被害者がすでに熟睡、泥酔の状態にあることを利用する場合やアルコール、睡眠薬をひそかに混入した飲み物を飲ませる場合などがこれに該当した。ただし、相手を殴って気絶させるなど、暴行・脅迫によって被害者を心神喪失もしくは抵抗不能の状態に陥れる場合には強姦罪が成立した。二人以上の者が現場で共同して強姦罪を犯した場合(いわゆる輪姦)は、4年以上の有期懲役に処せられた(旧刑法178条の2。集団強姦罪。現行刑法では廃止。強制性交等罪の刑の下限が5年以上に引き上げられたため、集団強姦罪は強制性交等罪に組み込まれた)。これらの罪の未遂も処罰された(旧刑法179条)。さらに、これらの罪または未遂罪を犯して被害者を死傷させた場合は、無期または3年以上の懲役に処せられた(旧刑法181条2項。強姦致死傷罪。現行刑法では強制性交等致死罪となり無期または6年以上の懲役)。強姦罪は、旧刑法では親告罪(告訴がなければ公訴を提起できない罪)とされていたが、現行刑法の強制性交等罪は非親告罪とされている。
これらの罪は、これまでの刑法の規定の位置からみると社会法益、とくに性道徳または性風俗に対する罪と解されたが、今日では、むしろ、個人の性的自由、とくに女子の貞操を保護するための罪と解されている。なお、強姦罪(強制性交等罪)は、行為者と以前から性的関係があった場合にも成立しうる。夫婦間の場合には、判例によれば、原則として不成立であるが、夫婦関係がすでに破綻(はたん)している場合は成立しうる。
[名和鐵郎]