ロベール仏和大辞典 凡例

I 見出し語

本辞典で取り扱う現代フランス語の語彙の範囲を確定するために,私たちは,Le Petit Robertをベースにし,LexisLogosなど,ほぼ同じ規模の数種の仏々中辞典の収録語彙との比較検討から出発した.また,Robert社からは,Le Grand Robert de la langue française第2版(全9巻,1985)のために同社が用意しつつあった資料を,同辞典の刊行に先立って提供された.しかし,現代の生きたフランス語の記述という本辞典の目的のためには,これら辞典が収録しているフランス語語彙の「安定した部分」だけでは十分でなく,いまだ「浮遊状態にあるもの」も含めて,フランス語語彙の最新・最先端の部分を,最大限に取り込むことが不可欠であると私たちは判断した.この目的のために,P. Gilbert : Dictionnaire des Mots contemporains (les usuels du Robert)などの現代用語辞典,私たちが独自に採集した用例カード,その他最近の直接資料を活用して新語,新語義を大幅に補強した.また,言語レベルの面でも,「スタンダードな」フランス語にとどまらず,日常会話で耳に触れる機会のある流行語,略語,逆さ言葉などのほか,俗語,隠語の類をも,極端に特殊なものを除いて取り入れた.

また,同じ考え方から,現代のフランス語テキストに頻出する専門語についても,各分野の専門家の積極的な協力を仰いで,正確な訳語・解説を追究するとともに,収録語彙の現代化と大幅な補強を図った

一方,本辞典の利用者が生涯おそらく出会うことはないような語を,思いきって整理し,この面からも収録語彙の現代化を図った.すでに完全に過去のものとなった科学・技術用語(たとえばstéatome「脂肪腫」),類書に採られているというだけの理由で採録されてきた古語(たとえばameubler「家具を備え付ける」,今日ではmeublerが普通),痕跡を残すことなく消滅した過去の俗語,隠語,流行語(たとえばargougner「ひっ捕らえる」)の類である.以下,実状に則して述べる.

1  一般語のほか,固有名詞,略語,記号,接頭辞,接尾辞,合成語要素,不規則動詞の活用形,ラテン成句などを収録し,すべてアルファベット順に配列した.
2  つづり字が同じ場合,大文字で始まる語は小文字で始まる語の前に,また,地名は人名の前に配列した.
3  同一のつづりでも語源の異なる語,および語源が同じでも語義が著しく異なる語は別見出しを立て,それぞれ右肩に番号を付して区別した.
4  見出し語が性によって語尾変化する場合は,その変化する部分をカンマ( , )のあとに示した.また単音節の女性形は全形を示した.
5  同一見出し語内における品詞の転換は太ダッシュ(━━)で示し,準見出し語として掲出した.その際,最も現用性の高いと思われるものを親見出し語とした.
6  代名動詞に付される se および s' はそれぞれ語頭に付し,配列上は無視した.たとえば,s'enfuir は enfuir で引けばよい.
7  重要な合成語は見出し語に立てた.
8  同一語でつづりの一部分だけが異なる語を併記する際には,Robert社の辞典を中心に掲出順を考慮した.
9  名詞,形容詞の複数形は,セミコロン( ; )のあとに表示した.ただし,単に語尾に s を付すだけの語および,単数形の語尾が -s,-x,-z で終わり,単複同形となる語には原則として複数形は示さなかったが,発音が異なる場合,また単数形語尾が -al で終わる場合は例外的に示した.
例:œuf [œf] ; ((複)) ~s [ø]
10 固有名詞に伴う冠詞,称号,氏族名などは発音欄の直後に( )で示した.
11 大文字のアクサンは見出し語に限り採用した.

II 発音

1  発音は見出し語の直後の[ ]に入れ,国際音声記号で示した.ただし,接頭辞,接尾辞,合成語要素には付さず,略語については,アルファベット読みでない場合に限って発音を付した.
 例:O.T.A.N. [ɔ-t〓] [男性名詞]
2  女性形の発音はカンマのあとにその変化する部分のみを音節単位で示した.複数形の発音は原則として第1提示の部分と異なる部分のみ,それぞれの語の直後に示した.━━で表示される準見出し語の発音も同様に処理した.
3  同一語で2つ以上の発音,つまり異音がある場合で,直接置き換えられるときは〔 〕で示し,省略可能のときは( ),一音節単位で異なるとき,または比較的重要でない異音は / のあとに示した.
例:
Achéron [a-k〔ʃ〕e-Rõ]
quadrimoteur [k(w)a-dRi-mɔ-tœːR]
china-clay [tʃaj-na-klε/k〔ʃ〕i-]
4  親見出し語になる代名動詞の se,s' も発音表示に入れた.
5  見出し語が2語以上併記された場合,発音が同じ場合には第1提示の語の直後に示し,異なる場合は,それぞれの語の直後に示した.
6  固有名詞で同じつづりで同じ発音が繰り返される場合,2番目からあとの発音は省略した.また事項名などで単に一般語が併記される場合も省略した.
7  有音の h には見出し語の左肩上に * または (*) で示した. (*) は無音もありうることを示す.
8  子音扱いの y は見出し語の左肩上に * で示した.

III 語家族・語源・初出年

1  語家族について
  • 見出し語が単一品詞の場合は,その品詞のあと,複数の品詞に共通の場合は品詞の前に置き,( )内に示した.
  • 見出し語の接辞部分は,煩瑣を避け,~で示した.ただし,肩付き数字のある見出し語または~表示により不分明のおそれがある場合はつづり字を示した.
  • 中心語と語構成要素の指示には→,派生関係の表示には←の矢印を用いて区別した.
  • つづり字の構成に移動がなく,単に語または要素を結合した造語の場合は各要素に分けて示した.
2  語源について
  • 見出し語項目の最後に[ ]に入れて示した.ただし,本辞典で採録されている語および固有名詞は立体で,他はすべて斜体で示した.
  • 項目本文との関係で語源に関する情報を注記で示した場合がある.
1) ギリシア語・ラテン語について
動詞は原則として不定法を示した.名詞・形容詞は主格形をあげ,主格形に語幹の現れない場合は属格形を併記した.
  • ラテン語の長音は付したが,フランス語の本来的進化の観点からみて中世ラテン語以降は付していない.
  • ギリシア語の長音は付した.
2) 本来語について
  • 本来語を示すには<を用いた.
  • 二重語にはおのおの借用語/本来語の組を示し,原則として本来語に詳しい語源情報を載せた.
3  初出年は20世紀に限って表示した.

IV 動詞の活用型

「動詞活用表」と対応した番号を,発音欄の直後に示した.ただし第1群・第2群規則動詞は除く.

例:pondre [põːdR] [活用 59] [他動詞]

V 品詞

1  品詞は発音欄の直後に表示した.
2  同一語で2つ以上の品詞がある場合は,太ダッシュ(━━)をもって区切りとし,見出し語を繰り返したのち,その直後(発音欄がある場合はそのあと)に示した.

VI 語義

1  語義の配列順は,現代の用法を最重視し,一般的なものから特殊な語義へと配列した.
2  語義分類は IIIIII…,[1][2][3]…,123…,(1)(2)(3)…,の順とし,123…を多用した.
3  語義に対応する一定の連語表現のパターンを〈 〉で,語義区分内で特に強調したい連語表現を◆で示した.
例:
1) perdre [...][他動詞]... [2]〈~ qc + à, dans, sur + qc // ~ qc à + inf.〉
プラス記号で囲んで,3つの前置詞を取りうることを示し,// で区切って他の文型を取りうることを示した.
2) fondé,ée [...][形容詞]... [3]〈~ sur qc〉(資料,論理など)に基づいた.
qc の内容を( )内に示した.
3) s'offrir [...][代名動詞] [1]〈s'~ qc〉(自分のために)…を奮発する.
〈 〉で文型を明示することで,se が間接目的語であることを示した.
これら連語表現の訳文では,〔 〕は動詞の目的語などを示し,( )は前置詞の被制辞[支配部]を示す.前置詞は( )の外に訳出したが,この部分全体が省略可能である場合は,前置詞も含めて( )内に示した.
4  (( ))を用いて,((le ~)),((S~)),((名詞の前で))など用法を示した.
5  語義の補足説明は( )で示し,語の置換には [ ] を用いた.
6  同一の訳語が2つ以上の(専門)分野に適用されるとき,または細区分の語義のいずれにも適用される場合は,初めに共通の訳語を示し,異なる部分を(1)(2)…などで示した.
例:nihilisme [ni-i-lism][男性名詞]ニヒリズム,虚無主義.
(1) 既存のいっさいの秩序や価値体系を否定する態度,…
(2) 歴史 19世紀後半ロシアのインテリゲンチャ層に広がり,…
(3) 哲学 実体の存在や認識の…
7  専門語義などに解説をつけるときはコロン( : )のあとに示した.

VII 用例

1  用例は語義などのあとに改行し,斜体で示した.
2  用例では見出し語に該当する部分をスワング ダッシュ(~)で示した.ただし,見出し語が2字までの語および単音節女性形,不規則複数形はそのままの形で示した.また,~は第1提示の見出し語だけに適用し,女性形,複数形については~のあとに変化部分を付し,語尾にs,x をつけるだけのハイフン付きの見出し語の複数形も用例中では単に~s,~x などと示した.また,~の部分が大文字で始まる場合はR~などと表した.第2提示以下の見出し語はそのまま全形を出した.
3  用例では大文字のアクサン記号は省略した.
4  用例に出典をつけるときは訳語のあとに( )で示した.
5  用例中の人称代名詞および所有形容詞の訳語は次のようにした.2人称・複数 vous,3人称・目的格 l',lui,les,leur は文脈により,性・数2通りの訳語が可能であるが,本辞典はあえて一つの訳語を示すにとどめた.所有形容詞 votre,son[sa],leur についても同様である.
6  同義の用例を2つ以上併記する場合は = で示した.その際,位相の表示は成句の位相表示に準じた.

VIII 合成語

1  ある特定の分野,または一般に重用される百科的な語彙を合成語欄にまとめた.
2  合成語欄でも見出し語に該当する部分は~で表した.
3  合成語の掲載順:合成語を構成する語群内で,見出し語部分が後部に来る合成語群をまず第1ブロックとしてまとめ,次に見出し語部分が前部に来る合成語群を第2ブロックとしてまとめた.各ブロックとも単純なアルファベット順としたが,冠詞は無視した.第2ブロックは適宜第1ブロックに追い込んだケースもある.
4  特定の専門分野に集中する場合はその分野を最初に掲げ,合成語を配列した.
5  合成語の複数形は,見出し語に準じ,bateau-canon(複:~x-~s)のように示した.

IX 成句

1  成句は原則として各品詞ごとに項目本文の最後,語源がある場合は,その前に掲出した.
2  冠詞も含めて,単純にアルファベット順に配列した.
3  太字で表した成句内では見出し語はその全形を出したが,成句の用例中では,本文に準じて~を使用した.
4  おもに諺などでは,必要に応じて( →)で直訳を示し,その直後に慣用的な表現を示した.
5  同義の成句を2つ以上併記する場合は用例に準じて = で示した.それぞれに対する位相表示は,前者のみに表示するときは, = の直前に置き,後者のみに表示するときは, = の直後に置いた.また表示が同じまたは異なる場合はそれぞれの成句のあとに示した.

X 類議語・反義語

1  本辞典では,語義,用例における類義語 synonyme を(= )の形式で表示した.
例:intolérable [...][形容詞]容認しがたい(=inadmissible).
2  用例中,訳語のあとに置かれた(= )は仏文全体と置換え可能であることを示し,訳語の前に置かれた(= )は見出し語と置換え可能であることを示す.
例:indiquer [...][他動詞]…
Son visage indique sa colère. (=trahir)
彼の顔には怒りが表れている.
3  (= )に示された語句は,見出し語と意味に強弱の差が少なく,統辞法的にも置換え可能である場合に限った.
4  類義語欄に準じて,語義欄を中心に反義語を示した.その掲出は(⇔  )のようにした.

XI 略語と記号

現用主義を重んじる本辞典では,従来の参考文献に現れたもののみならず,最近の新聞・雑誌に登場する略語・記号も視野に収めて取捨選択を行った.

略語 sigle の大半は各語の最初の1字のみを並べたもの(例:petites et moyennes entreprises 中小企業→P.M.E.)である.また,その記述の仕方は資料体によってさまざまである.同じ petites et moyennes entreprises も P.M.E./P.m.e. などと分かれる.本辞典では,見出し語としては P.M.E. の記述方式を採った.

XII 比較欄

1  日本語をキーワードにして,類義語約4,000語を選定し,それぞれについて,(1)意味の強弱,(2)意味内容の違い,(3)言語レベルの差,(4)連語関係(用法)における違いを適宜用例を付して記述した.
2  意味の強弱には,(<)または(>)のマークを使用した所もある.

XIII 外来語

現代フランス語において,外国語からの借用語はその語彙のきわめて重要な部分を構成しているが,本辞典においては,これらの語を積極的に見出し語に取り入れた.

1  語形がフランス語の影響を受けず,原つづりがそのまま用いられている語は,原則として品詞表示のすぐあと(準見出し語がある場合は,親見出しの品詞表示のすぐ前)に外来語ラベルをつけた.
例:software [...][男性名詞]((英語))
2  語形がフランス語において変化を受け,原つづりと異なる場合は,語源欄で起源を示した.

【本辞典で用いたおもな記号類】

( )
・省略または追加可能な語句.
・訳語の補足説明,例示.
例:
(馬車,自動車の)車体の前半部.
アクサン・シルコンフレックス(^).
…の付属器官(葉,花びらなど).
・固有名詞で,人名・地名の小辞.
・引用した用例などの著作家名など.
・初出年.
・語家族欄.
(( )) ・文法・語法上の注記,語形表示.
・各品詞の用法の表示.例:[形容詞]((所有))
・外来語
[ ] ・直前の語句と置換え可能の部分.
・フランス県番号.
・動詞の活用番号.
〔 〕 連語関係を示す.他動詞および代名動詞の直接目的語,間接他動詞の目的語,動詞(句)の主語,形容詞(句)の被修飾語句.
《 》 ・応答形式の会話表現の用例.
・掲示などの決まり文句.
「 」 ・文学作品名など.
・会話表現,決まり文句の訳文.
・接辞・語源欄で訳語などの表示.
( →) 諺,成句の直訳,原義.
【 】 専門語の領域.
(⇔ ) 語義欄や用例中の見出し語の反義語.
(= ) ・語義欄での見出し語の類義語.
・用例中の見出し語に対応する類義語.
・連句,成句などのフランス語による言い換え.
専門語などの解説の開始.
用例の開始.ただし成句の用例では省略.
・訳語の省略部分.
・定型表示で限定しがたい部分.
例:〈ne pas ... que ...〉
[合成語] 合成語欄.
語家族欄で派生関係への指示.
・語家族欄で中心語,語基への参照.
・語源欄で参照語への指示.
連語表現の表示.おもに用例の展開に用いた.
〈 〉 特定の連語表現のパターンと語義区分とが対応するとき用いた.
・見出し語および発音の異形の併記.
・位相,文法,語法など各種ラベルの併記.
// 〈 〉および◆の定型表示で,2つ以上の文型を掲げるとき用いた.
[注] ・語法,文化的背景,関連語の表示.
・見出し語および特定の語義の異形.
・語源欄で推定形.
・見出し語の左肩上につけて,有音の h ,子音扱いの y を表示.

【略語表】

品詞に関するもの

書籍で略語となっていた品詞類は,ウェブ版では可能な限り略さず表記したが,一部(下記一覧で「ウェブ版」が空欄のもの)については略語のままとした.

書籍版ウェブ版
[名]
名詞
[男]男性名詞
[女]女性名詞
[男・複]男性名詞・複数形
[女・複]女性名詞・複数形
[代]代名詞
[代]((人称))人称代名詞
[代]((指示))指示代名詞
[代]((所有))所有代名詞
[代]((不定))不定代名詞
[代]((疑問))疑問代名詞
[代]((関係))関係代名詞
[形]形容詞
[形]((不変))不変化の形容詞
[形]((不定))不定形容詞
[形]((所有))所有形容詞
[形]((数))数形容詞
[形]((疑問))疑問形容詞
[形]((関係))関係形容詞
[形]((感嘆))感嘆形容詞
[副]副詞
[副]((疑問))疑問副詞
[副]((関係))関係副詞
[他動]他動詞
[間他動]間接他動詞
[自動]自動詞
[代動]代名動詞
[非人称]非人称の動詞
[前]前置詞
[接]接続詞
[間投]間投詞
((擬音))擬音語
[形・句]形容詞句
[副・句]副詞句
[前・句]前置詞句
[接・句]接続詞句
[接頭]接頭辞
[接尾]接尾辞
[語基]複数の語に共通に含まれ,共通の意味を担う形態素.
[合成語要素]造語力のある語構成要素.
((不変))名詞,形容詞において,男性形,女性形が同じで,かつ,単数形,複数形が同じであることを示す.
((男女同形))語尾が -e 以外の語に表示した.
((単複同形))語尾が -s,-x,-z 以外の語に表示した.
場所定型表示で「前置詞+quelque part」を表す.
cond.conditionnel 条件法
ind.indicatif 直説法
inf.infinitif 不定法
subj.subjonctif 接続法
qcquelque chose
qnquelqu'un

地域,時間,語の位相などに関するもの

書籍版ウェブ版
話し言葉
 
文章文章語
俗語
卑語
隠語
隠 ((学生))学生の隠語
隠 ((船員))船員の隠語
隠 ((軍隊))軍隊の隠語
稀にしか用いない語,または語法
古語
古風現用の語彙には含まれない語,または語法
地域地域語
パリパリの地域語
南仏南仏の地域語
ベルギーベルギー語法
カナダカナダ語法
スイススイス語法
方言
古 / 文章古語または文章語
古風 / 地域標準語としては現用の語彙に含まれないが,地域語としては一般に使用される.
古・詩古語・詩語
古・文章古語・文章語
古・俗古語・俗語
古・隠古語・隠語
古・話古語・話し言葉
話・稀話し言葉・稀
文章・稀文章語・稀
地域・話地域語・話し言葉