本辞典は、今使われている英語を忠実に映した、英語を学習する人のための英和辞典です。今の英語を忠実に映すために、英和辞典の原点に立ち返り、新しいものを取り入れることと同時に、古いもの、誤ったものを排除する手作りの辞書を心がけました。このような考え方に基づいて編集された本辞典には、次のような特徴があります。
(1)新語や口語表現、新しい研究成果による情報の充実
本辞典は、今使われているコンピュータ関連用語などの新語や日常のコミュニケーションのために役に立つ口語表現の収集、および談話辞の詳しい解説に力を尽くしました。また、従来取り上げてこられなかった語義や用法の収録をはじめ、最新の研究成果を 語法、語法ノート、構文ノート、ここが違う、類語ノート などのコラムや注記で詳しく説明しました。このような語法注記には、今までにない新しい有益な情報が数多く盛られています。
(2)新鮮な用例と適切な詳しい解説
本辞典は、語義を正しく伝える生きた用例を厳選して提示しました。用例には必要に応じて文脈上の注意点や微妙なニュアンスを伝えるための説明を加えました。
(3)特色ある画面構成
読者が使いやすいことを第一義に考え、以下のような形で具体的に画面構成に工夫をこらしています。
- 重要語には原義・基本義などの《語源説明》を加えました。成句・諺にも適宜《句源》を付して、理解の助けとなるようにしました。
- 間違いやすい発音の語には(!発音注記)で注意点を具体的に示しました。また和製英語や非文情報についても、!印と × を付して注意を促しています。
- 語義の配列は、検索の便宜を考えて、原則的に頻度順にしました。
- 重要な多義語には最初に「訳語ナビ」欄を設けて、語義が一覧できるようにしました。
- [文型表示]によって、重要語の意味と統語形式との関連が把握できるようにしました。
- 日常口語表現にはマークを付して他と区別し、オーラルコミュニケーションにも対応できるようにしました。
- 「活用ノート」では関連表現をまとめて整理し、英語を発信する場合にも利用できるようにしました。
- 同じ語源の語を集めた「語根欄」を設け、語の相互的な関連をわかりやすくしました。
- 英語を理解するために役に立つ英米の日常生活や語誌、神話解説などの詳しい文化情報を背景や参考で解説しました。
(4)古い情報・誤った情報の排除
本辞典は、最新の現代英語の生のデータとその分析に基づいて作られた英和辞典です。過去一世紀半の間にわが国で蓄積されてきた英語についての情報の中には、すでに廃れてしまった語義や用法を特別の指示もなく数多く残していたり、誤った部分が少なからずあるということが指摘されています。本辞典は、今日までの英和辞典が無批判に引き継いできたこのような古い情報を、極力排除しました。古い語義・用法でも記載に値するものは、《古》《古風》《今はまれ》などのラベルによってその旨を明記しました。また従来通説とされてきたものの中に含まれているさまざまな誤りを改めています。
このような辞典づくりの柱には、大きく次の3つの柱があります。
(5)権威ある大規模な英語コーパスBNCと独自コーパスを利用した現代英語の実態調査
現代英語の生のデータはどのようにして入手できるのでしょうか。幸い、書き言葉、話し言葉をはじめ、書き言葉であれば小説、論説、エッセーなどのジャンル別、話し言葉であれば、日常会話、テレビ・ラジオのニュース、講演などのジャンル別に、実際に使われた英語をデータ化したものが作られました。そして、必要に応じてデータを検索することができます。
例えば、「大学を卒業する」は graduate from college という自動詞用法と、graduate college という他動詞用法のどちらが現代英語では普通なのかはコーパスを使って調べることができます。約1億語からなるイギリス英語の代表的なコーパス BNC (British National Corpus) で調べてみると、graduate from college の形が約80%、gaduate college の形が約20%の割合であることがわかります。独自コーパスと英語母語話者からの聞き取り(インフォーマント調査)の結果を総合的に考えると、英米とも gradaute from college が普通であり、graduate college はまだ ((非標準)) であることがわかります。
このように、現代英語の生のデータの調査結果をもとにしてこの辞書の中身が書かれています。特に意見が分かれそうな believe を含む9語(believe, different, full, good, graduate, have, help, hike, like)については、BNCの調査結果を図表にして「コーパスパネル」として表示しました。
(6)インフォーマントによる現代英語の実態調査
英語を母語とする方々にお願いして、さまざまな現象についてインフォーマントによる調査を行いました。そして、数多くの有益な情報を提供していただきました。それが随所に生かされています。
(7)最近の現代英語研究の成果の調査・分析
編集委員・執筆者独自の研究成果をはじめ、最近の英米の英文法書や語法書を参照しました。また、近年目覚ましい進歩を遂げつつある英米の辞書も参考にしています。
以上(5)(6)(7)に基づいてその成果を総合的に分析し、ただ単なる事実の羅列になりがちな辞書記述に、「なぜそうなるのか」という観点からの解説を、スペースの許す限り随所で加えています。
本辞典は、高校生・大学生から一般の利用者に至るまで、英語を学習する人のための辞書という基本を守りつつ、英語習得に必要な知識を豊富に掲げました。英語の実態を詳しく見ると、今まで常識とされてきたような文法や語法の知識とは異なる部分が少なくありません。そのような情報については、必要に応じてそれぞれの箇所で注意を促しました。英語の実態を忠実に映しながらも、英語学習者あるいは外国語として英語を使う人にとって、どのような表現方法が好ましいのかを常に念頭に置いて記述内容を決定しました。
本辞典を大いに利用していただき、英語についての理解を深め、コミュニケーション能力の涵養に役立てていただければ幸いです。本辞典には大量の情報が盛られています。記述の中には、思わぬ誤りや不備を生じているかもしれません。利用者の方々からのご意見やご助言を賜り、さらに改良していきたいと考えております。
なお、本辞典は『ラーナーズプログレッシブ英和辞典 第2版』を土台として作られました。この辞典なくしては本辞典は存在し得ないことを思い、同辞典の編者、編集委員、執筆・校閲者のお名前を併記することによって、ここに感謝の意を表します。
2020年1月
八木克正
編集スタッフ
【編集主幹】八木克正
【編集委員】内田聖二 衣笠忠司 田中 実 安井 泉
【執筆・校閲】
五十嵐海理犬飼孝夫岩澤勝彦梅咲敦子大竹芳夫
大森良子岡田禎之甲斐雅之神崎高明小泉 直
澤田治美杉浦 隆住吉 誠高橋邦年田中明夫
田中秀毅田中廣明田原博幸友繁義典長野 格
中道嘉彦長谷尚弥藤原正道堀 智子松岡信哉
山口久子和田四郎
〈発音〉大高博美中島直嗣
【インフォーマント】
Geoffrey Blake Edward Costigan Jay Ercanbrack
John Frazier Ian Maxwell Hammett George Manolovich Nark Nagel Kate O’Callaghan Nadine Solanki George Clive Stroud-Drinkwater William Teweles Michael James Sturdy Yasui
ラーナーズプログレッシブ英和辞典 第2版 編集スタッフ
【編者】小西友七 安井 稔 國廣哲彌 堀内克明
【編集委員】池上嘉彦 八木克正
【執筆・校閲】池田善明 上杉 明 大森良子 岸野英治 東海林宏司