our Galaxy
Milky Way Galaxy
太陽が属する銀河。宇宙に多数ある銀河galaxyの一つであるが、われわれの太陽が属する銀河ということで、他と区別して英語ではgalaxyのgを大文字で書き、theやourをその前につける。これに対応して、日本語では銀河ではなく「銀河系」とよぶことにしている。英語のMilky Way Galaxyに対応する「天の川銀河」とよばれることもある。銀河には楕円 (だえん)銀河、レンズ状銀河(S0 (エスゼロ)銀河)、渦巻銀河、不規則銀河などさまざまな形態のものがあるが、銀河系は渦巻銀河で、そのなかでも中心部に棒状構造をもつ棒渦巻銀河に分類される。銀河系を外から見ると、アンドロメダ銀河(M31)にかなりよく似ていると推定される。
銀河系と銀河の発見史
1609年から1610年にかけて望遠鏡で空を詳しく観察したガリレイは、暗い夜空に淡い光の帯のように見える天の川が、実は微光星の集まりであることを発見した。この天の川を形づくる恒星集団の分布する空間が宇宙であり、それは太陽系を越えてはるか遠方に広がっていることが想像された。
体系的な観測から宇宙の形と大きさを決めようとした最初の人はF・W・ハーシェルである。1785年に発表された「ハーシェルの宇宙」は直径が約6000光年、厚みが約1100光年の円盤形で、太陽はほぼ中心にあった。
星までの距離決定技術が進み、観測データも蓄積された1922年に、オランダのカプタインが新しい宇宙モデルを発表した。円盤状で、太陽が中心近くにあることはハーシェルの宇宙と同じだが、直径は約5万光年、厚みが約1万光年であった。同じころ、アメリカのシャプリーは、球状星団の分布する範囲が宇宙と思えば、その大きさは約30万光年にもなり、しかも太陽は中心からはずれた端の方に位置することに気がついた。また当時、天球上で天の川を避けて分布する渦巻星雲の正体が何かについても天文学者の間で異なる解釈がなされていた。
1920年に、宇宙の大きさと渦巻星雲の正体について、当時の二つの考え方の代表者であるシャプリーとカーチスHeber D. Curtis(1872―1942)が、アメリカ国立科学院でそれぞれの主張を戦わせる公開討論会が行われた。シャプリーは、「宇宙の大きさは30万光年程度で、渦巻星雲は星が生まれようとしているガスの雲」という主張であった。一方カーチスは、「宇宙の大きさは3万光年程度、渦巻星雲はばく大な数の恒星の集団で、昔カントの主張した島宇宙である」という主張であった。これは後に、The Great Debate(大論争)とよばれるようになったが、この論争で決着はつかなかった。
1923年にハッブルが渦巻星雲(M31)にセファイドとよばれる変光星を発見して論争は決着した。セファイドが見つかると距離を測ることができ、その結果、M31は天の川の恒星集団のはるか外にある島宇宙であることがわかった。結局、それまで宇宙と考えられていた天の川恒星集団は、宇宙に散在する同規模の多数の恒星集団(銀河)の一つであることがわかったのである。渦巻星雲の正体についてはカーチスの主張が正しかったが、宇宙(銀河系)の大きさに関しては彼はかなり過小評価しており、シャプリーの推定のほうが現実に近かった。
銀河系の基本構造
1000億個の桁 (けた)の恒星と星間物質からなる銀河系は、パンケーキ状の薄い円盤(ディスク)とそれを包み込むようなほぼ球状のハローから成っている。ディスクの中心部分には膨らんだ楕円体状の構造があり、バルジとよばれている。太陽はディスク中にあり、中心から約2万5000光年の位置にある。天の川は、ディスクを内側から真横(エッジオン)に見た姿である。
ディスクは中心近くほど質量密度が高く、外側にいくにつれて密度は指数関数的に減少する。最外縁部は半径で約6万光年くらいまで広がっている。星と星間物質の大部分はディスクにあり、星が約9割、星間物質が約1割の質量を占める。星間物質はディスクの赤道面に濃く凝集している。そこでは星間ダストによる吸収も強いので、天の川が中央の暗い帯(ダークレーン)で二分されているように見える。ディスク中の星と星間物質は銀河系中心のまわりを回転している。太陽の位置での回転速度は毎秒約220キロメートル(回転周期約2億年)であるが、広い半径にわたって回転速度はほぼ一定である。ディスクでは、星生成活動が現在でも起きており、散開星団、発光星雲、暗黒星雲などが見られる。ディスクにある星を種族Ⅰという。
正面向き(フェイスオン)に見えている銀河の渦巻構造は容易に観測できるが、銀河系では太陽がディスク内にあることと、星間吸収が強いために、銀河系ディスクの渦巻構造を可視光で見ることはできない。中性水素原子が放つ波長21センチメートルの電波輝線が観測できるようになって、1958年にオールトらがディスク内の中性水素ガスの密度分布を描き出すことに成功した。電波は星間ダストに吸収されることがなく、銀河系全体を見通すことができるからである。この研究によって初めて、銀河系が渦巻腕構造をもつことが実証された。ハローは年齢の古い種族Ⅱの星から成るが、その密度はディスクに比べるとはるかに低い。太陽近傍で見ると、ハローに属する星の密度は、ディスクに属する星の密度の約1000分の1である。ハローには球状星団が点在しており、これまでに約150個が知られている。ハローの星や球状星団は、銀河中心のまわりを回ってはいるが、ディスクのようにそろった回転ではなく、それぞれがほとんど無秩序にさまざまな軌道で回転運動をしている。
バルジは中心ほど密度が高いラグビーボールのような回転楕円体で、銀河系の棒状構造を形づくっており、およそ100億個の恒星があると推定されている。星間吸収が強いため、バルジの詳しい観測はむずかしい。
基本的観測量
銀河系は、個々の星の成分と運動を詳しく調べることができるほぼ唯一の銀河である。星の位置と運動を調べるには、(銀経、銀緯)からなる銀河座標系を用いることが多い。銀河系のディスクの中心面(銀河面)と天球面の交線を銀緯0度とする。この線は天球上で天の川の中心線とほぼ一致する。この線に垂直方向に南にマイナス90度、北にプラス90度まで銀緯をとる。一方、銀経は銀緯0度の線に沿って測る。銀河系の中心方向を銀経0度と定め、0度から東向きに360度までとる(天の赤道と銀河面は大きく傾いているので、ここでいう東西南北は単に方向を示すために便宜上用いていることに注意)。
多くの恒星に対してその位置と速度、および金属量などの組成を知ることは銀河系研究の基本である。三次元空間での星の位置と速度は次のようにして求める。
銀経と銀緯によって天球上の星の位置が決まる。さらに、距離を決めれば、銀河系の中での三次元的な星の位置が決まる。星の距離は、年周視差法をはじめとしてさまざまな方法で測る。星の速度は、視線方向とそれに垂直な方向に分けて測定される。視線方向の速度成分(天球面に垂直な成分)は、星のスペクトルを観測し、ドップラー効果によるスペクトル線の偏移量から求める。視線方向に垂直な接線方向の速度成分(天球面内の成分)は、星の固有運動と距離から求める。固有運動とは、年周視差と年周光行差以外の経年的な星の天球上での位置ずれのことで、一定の時間間隔をおいて撮影された写真から測定される。通常は、角度秒/年という単位で表す。距離がわかっている星の方向が、天球上で1年で何秒ずれるか(固有運動)を測定すれば、接線方向の速度がキロメートル/秒の単位で計算できる。恒星の位置、固有運動、年周視差(距離)の観測は、1993年に打ち上げられた位置天文衛星ヒッパルコスHIPPARCOSによって飛躍的な進歩を遂げた。1ミリ秒角を切る高精度で約12万星のデータを掲げたヒッパルコス星表と、0.03秒角の精度で約100万星のデータを掲げたタイコTycho星表が1997年に公開された。
星の金属量は、その星をつくるもとになった星間ガス中でどのくらいの星生成活動が起きたかを知る目安となる。ビッグ・バンでは炭素より軽い元素しか合成されなかったので、炭素およびそれより重い元素(天文学では金属とよぶ)は、星の中心核で合成されたか、超新星爆発のときにつくられたものである。宇宙で最初にできた星では金属量はゼロであったはずである。このような星は種族Ⅲの星とよばれており、探査が続いているが、2010年現在ではまだ見つかっていない。超新星爆発により、金属を含む星の外層が吹き飛ばされて周辺の星間ガスに混じり、そこからまた星が生まれて超新星爆発を起こす。時間がたつにつれて、星からガスへ、ガスから星への星生成のサイクルが何度もまわり、星間ガス中の金属量が増加する。簡単にいえば、星の金属量はいつごろその星ができたのかを示す時計のかわりに使えるのである。ハローにある星はディスクにある星よりも金属量が少ないので、それらは銀河系形成の初期にできたと考えられている。これらの星は種族Ⅱとよばれる。これに対して、より後にできたディスクにある星は種族Ⅰとよばれる。
金属量の少ない星ほど銀河系形成のより初期段階の情報を保持している。種族Ⅲの星の探査が精力的に行われているのはこの理由からである。星の金属量を精密に測定するには、分光観測によって高分散のスペクトルを撮影することが必要だが、測光観測による簡易法もある。多くの金属の吸収線は紫外線領域にあるので、金属量が多い星ほど可視域の明るさに比べて、紫外域での明るさが吸収によって暗くなる。逆にいえば、金属量の少ない星ほど紫外域で明るい「紫外超過」を示すことになる。U(紫外)、B(青)、V(黄)の三つのバンドの測光データのなかで、Uバンドで明るい星は金属量の少ない星の候補となる。これらの星を詳しい分光観測の対象にして、低金属量星を探査する手法が広く用いられている。
銀河系形成の描像
エゲンOlin J. Eggen(1919―1998)たちは1962年に、太陽近傍の221個の星の運動と金属量の関係を調べて、銀河系が次のようにしてできたと推論した。銀河系を生むもとになったほぼ球状の巨大なガス塊が約100億年昔に中心に向かって重力崩壊をはじめ、わずか1~2億年の間に扁平なパンケーキ型に縮まって現在の銀河系の骨格ができた。ハローの星と球状星団はこの重力崩壊過程で生まれ、その後、円盤状に降り積もったガスの中で第二次の星生成が起きてディスクの星ができた。彼らの主張する重力収縮期間1~2億年は宇宙年齢(100億年の桁 (けた))と比べるとあっという間である。これは後にRapid Contraction(急激な収縮)説とよばれた。ところが、太陽近傍では金属量の非常に少ない星が、この説の予想ほど見つからないという「G型矮星 (わいせい)問題」が顕在化し、また、球状星団の年齢にも、1~2億年を超える相当の幅があることがわかり、銀河系の重力収縮は10億年以上の時間をかけてゆっくりと起こったとするSlow Contraction説がジンRobert J. Zinnらによって1980年ごろに提唱された。
急激な収縮かゆっくりとした収縮かの論争はその後長く続いた。しかし、急激な収縮だけでは説明できない現象が次第に見つかり、1998年には吉井譲 (ゆずる)と千葉柾司 (まさし)が、エゲンらが論拠としたデータは、対象とした星の選択に偏りがあることを示した。
銀河系の周辺には数十個の矮小 (わいしょう)銀河があるが、その一つ(いて座矮小銀河)が現在銀河系ハローに飲み込まれつつあることが1994年にわかった。また、CCDによる広域観測を行った、スローン・ディジタル・スカイサーベイ(SDSS)から、銀河系ハロー中に、矮小銀河が飲み込まれたことを示す痕跡 (こんせき)が多数見つかった。銀河系ハローはまだ形成途上にあるともいえる(矮小銀河が大きな銀河のハローに飲み込まれていく現象は最近アンドロメダ銀河でも見つかった)。
これらのことから、急激な収縮で短い間に一挙に銀河系ができたのではないと現在では考えられている。銀河系のハロー、ディスク、バルジがどのようにして現在の姿になったのかは、現在最先端の研究課題の一つである。
ダークマター(暗黒物質)
宇宙にあるすべての銀河には、電磁波では検出できない多量のダークマターが付随していることがわかっている。銀河系においてこの問題が明らかになったのは、1960年代初頭のオールトによる指摘からである。彼は、太陽近傍にあるK型星について、ディスクに垂直な方向の分布と運動を詳しく調べた。これらの星が、重力と運動が釣り合った静水圧平衡の状態にあるとすると、多数の星に対してディスクに垂直な方向の運動速度を観測すれば、それと釣り合うべきディスク中心面(銀河面)での質量密度がわかる。これを重力質量密度という。オールトが求めた重力質量密度は、1パーセク立方(約35立方光年)あたり太陽質量の約0.15倍であった。一方、観測されていた星の密度と星間物質の密度を合わせた値は太陽質量の0.09倍であった。これは、K型星がディスクの上下に飛び散ってしまわないために必要な重力質量密度の6割でしかない。つまり、見えていない質量が太陽近傍の空間にあることになる。この正体不明の物質は「ミッシングマス(行方不明の質量)」と名付けられた。
その後1980年代になって、銀河系と同じ多数の渦巻銀河の回転曲線の観測から、それらがすべて、重力は及ぼすが光では見えない正体不明の物質からなるハローに包まれていること、また楕円銀河のX線観測から、楕円銀河でも同様であることがわかった。重力作用は及ぼすが電磁波では観測できないこの物質は、正体は不明だが、宇宙に普遍的に存在することがわかった。それはもはやミッシングマスではなく、より普遍的な名前としてダークマターとよばれるようになった。銀河はダークマターハローに包み込まれているのである。
銀河系のダークマターハローは、白色矮星、中性子星、褐色矮星などきわめて暗い星、あるいは小質量のブラック・ホールからできている可能性もある。これらの天体はマッチョ(MACHO:Massive Compact Halo Object)とよばれる。1986年にパチンスキーBohdan Paczynski(1940―2007)は、銀河系ハローにMACHOがあれば、たまたまそれが星の手前を通過するときに、マイクロレンズ現象という重力レンズ効果で背景の星が明るく見えるはずだという予測を行った。いくつかのグループがMACHO探しのプロジェクトを開始し、1993年に二つのグループが、予測されたマイクロレンズ現象を発見した。しかし2000年頃までには、MACHOは銀河系のダークマターハローの質量の20%程度でしかないことがわかった。ダークマターの正体は2010年現在まだ不明である。
銀河系中心
銀河系の中心は、濃いダストの吸収によって可視光ではまったく見えないといってよい。電波による観測から、中心部に非熱的放射をだすコンパクトな電波源Sgr A*(いて座エー・スター)が見つかり、これが銀河系の中心核と考えられている。
赤外線の観測技術が進み、また、大気のゆらぎを補正して地上でも高い分解能を実現する補償光学の技術が実用化され、Sgr A*のごく近傍の恒星の運動を長年にわたって調べることができるようになった。その結果、銀河系の中心核には、太陽質量の400万倍の質量をもつブラック・ホールがあることが確実視されている。
ブラック・ホールを含む活動銀河核は通常強いX線を出すが、Sgr A*はX線ではそれほど明るくない。過去に活発な活動をした時期があるが、現在は何らかの理由で静穏な状態にあると考えられている。