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改訂新版・世界大百科事典
古今和歌集
こきんわかしゅう

醍醐天皇の詔により撰ばれた最初の勅撰和歌集。略称は《古今集》。20巻。古今とは〈いにしえ〉〈いま〉の歌の集の意と,後世の人々が,和歌が勅撰された延喜の時代をいにしえの和歌の聖代と仰ぎ見るであろう,の意を兼ねる。流布本では巻首に仮名序,巻尾に真名(まな)序を付し,歌数は1111首(重出歌1首を含む)。長歌5首,旋頭(せどう)歌4首を含むが,他はすべて短歌。分類は春,夏,秋,冬,賀,離別,羈旅(きりよ),物名,恋,哀傷,雑,雑体(長歌,旋頭歌,誹諧),大歌所御歌とする。この形式は以後の勅撰集に基本的に継承された。

 平安時代の初期は唐風文化の極盛期で,勅撰漢詩集も3回編纂され,漢詩文が隆盛となって,和歌は衰微した。しかし,894年(寛平6)遣唐使が停止されたころから国風文化が徐々に育ってくる。平仮名で書かれた《古今集》が勅撰されたのはその最初の大事業であった。それまで恋愛の場など日常生活に埋没していた和歌は晴れの場所を与えられることになった。

撰者と作者

仮名序によれば,詔は延喜5年(905)4月18日に発布された。完成奏覧は913年(延喜13)から914年の間である。撰者は紀友則,紀貫之,凡河内躬恒(おおしこうちのみつね),壬生忠岑(みぶのただみね)の4人で,友則は途中で没し編纂の主導権は貫之がとった。撰者の主張は序文に示され,〈やまと歌は人の心を種としてよろづの言の葉とぞなれりける〉と仮名序の冒頭にいうように,創作主体としての人間の心を基本に据えるものである。両序は主として《毛詩大序》を基盤として書かれており,全体に中国文学論の影響は大きい。しかし,〈この歌天地ひらけ初まりける時より出できにけり〉(仮名序)というように,《日本書紀》によりつつ,和歌は天地創造とともにあり,わが国に固有の起源を有するとする主張も結合されている。詩は中国では士大夫の必須の教養であったが,撰者は和歌にそれと同様の位置を与えようとしたのである。集中の作者はすべて127人,代表的歌人は4人の撰者のほか,六歌仙(僧正遍昭,在原業平,文屋康秀,喜撰法師,小野小町,大友黒主),伊勢,素性法師らがあげられる。〈読人しらず〉の作は全体で6割にも達し,おおむね伝承歌的な色彩があり,かなり古い時代の作を含んでいると考えられている。

歌風

《古今集》の歌風を総合的に見れば平明で,感動の直叙を好まず(《万葉集》の対極),また,言外の余情を好まず(《新古今集》の対極),内容にも形式にも平衡感覚が優先し,輪郭がはっきりした表現を旨とする。歌材も激発する感情や豪宕(ごうとう)な自然は好まれず,平穏な日常的自然や生活が中心である。言語は古典的規範文法が厳格に適用されて歌意の誤解を許さない。語彙もよく選択され俗語を排除し,一方,縁語や懸詞が発達して現実の外に小宇宙を構成する。そのことを藤原定家は,〈むかし貫之,歌の心たくみに,たけおよびがたく,言葉つよく,姿おもしろき様を好みて,余情妖艶の体をよまず〉(《近代秀歌》)と評した。〈むすぶ手の雫に濁る山の井の飽かでも人に別れぬるかな〉(巻八,離別歌,貫之)は平明な内容と明晰な語法で《古今集》を代表するものである。藤原俊成は〈おほかた全て言葉事の続き,姿,心,限りもなき歌なるべし。歌の本体はただこの歌なるべし〉(《古来風体抄》)と激賞したが,古今風の特色をよくとらえた批評というべきである。〈立ち別れ因幡の山の峯に生ふる松とし聞かば今帰り来む〉(巻八,離別歌,在原行平)は,因幡と〈去(い)なば〉を懸け,松は〈待つ〉と懸けた懸詞である。懸詞は,縁語とともに《万葉集》ではほとんど使用されず,《古今集》において発達した技巧である。

 早く藤原俊成が〈万葉集は時代久しく隔たり移りて,歌の姿,言葉うちまかせてまなび難かるべし。古今の歌こそは歌の本体と仰ぎ信ずべきもの〉(《古来風体抄》)と述べたごとく,後世から第一の古典と仰がれ,和歌の世界ばかりでなく,散文の文飾にも《古今集》を引くことが多かった。また,造形美術も表現の類型を《古今集》に求めるなど,わが国古典文化の中枢として扱われ,ひろく日本的感性を培ってきた。しかし,近代になると短歌の革新を唱える正岡子規により〈古今集はくだらぬ集〉(《歌よみに与ふる書》)と批判されるに至った。

諸本と注釈

《古今集》は多数の古写本が残り,平安時代にさかのぼるものも少なくない。全巻揃った本で最も古い本は元永3年(1120)書写の元永本古今集である。書写の古いものは伝紀貫之筆と称する高野切(こうやぎれ)古今集で,これは部分的に存する断簡である。その他,伝小野道風筆継色紙,伝藤原行成筆升色紙など,断片であるが種類は多い。いずれも名筆で仮名書道の淵叢であり,古典である。流布本の《古今集》は藤原定家の校訂書写の本の流れである。定家本はいくつかあるが,貞応2年(1223)の奥書のある本が最も流布した。

 平安時代の末の歌学の隆盛期,《綺語抄》《無名抄》《奥儀抄》《袖中抄》などの歌学書はその大きな部分を《古今集》の考察にあてている。これらは実作者の参考に供する目的での解説である。注釈書は藤原教長の《古今集註》が最も古く,治承(1177-81)ころの作である。ついで顕昭の《古今集註》がある。これは1191年(建久2)に完成し12巻と大きく,現在散逸した資料も多く用いた詳細なもので研究上重要である。その後研究と注釈はいわゆる〈古今伝授〉と呼ばれる伝授的な方向に吸収される。先輩の説を伝えることを目的とし,藤原基俊,藤原定家の秘説を伝授すると称し,外形を真言秘密の伝授や神道伝授から借り,複雑な儀式をともないながら受けつがれ,近世に至る。内容は必ずしも高くないが,朗詠の譜や歌会の故実などまで広く含み,戦後乱世を通じて学芸の保持,伝達に果たした役割は大きい。中世の研究は北村季吟《八代集抄》(1679-81成立)に総括され,近世の研究に基礎を提供した。契沖の《古今余材抄》(1692成立)は近世的な科学的研究を開始した重要な研究であり,本居宣長《古今和歌集遠鏡(とおかがみ)》(1794成立)は最初の口語訳である。香川景樹《古今和歌集正義》(1835刊)は近世の最もすぐれた《古今集》研究である。明治以後の業績は古写資料の公刊と整理が大きい。第2次大戦後の西下経一《古今集の伝本の研究》(1954)は古写本の系統論的研究の模範的な作で,以後の研究の基礎を置いた。久曾神昇《古今和歌集成立論》4冊(1960-61)は多くの資料を収集,整理して詳細な解説を付し,独自の見解を加えたもので,《古今集》の研究はここに資料的基礎が置かれた。
[奥村 恒哉]

[索引語]
古今集 紀友則 紀貫之 凡河内躬恒 壬生忠岑 六歌仙 藤原教長 古今集註 顕昭 古今伝受(授) 北村季吟 八代集抄 契沖 古今余材抄 本居宣長 古今和歌集遠鏡(とおかがみ) 香川景樹 古今和歌集正義 西下経一 古今集の伝本の研究 久曾神昇 古今和歌集成立論
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