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日本歴史地名大系

仙丈ヶ岳
せんじようがたけ

赤石あかいし山脈(南アルプス)北部の高山で、市野瀬村の東にあり、東は甲斐国と境をなす。標高三〇三三メートル。北は北沢きたざわ峠の鞍部を隔ててこまヶ岳(二九六六メートル)のこぎり山等に続き、南は農鳥のうとり岳・塩見岳等の高峰に連なる。西に地蔵岳(二三七一メートル)があり、ともに三峰みぶ川の水源地をなし、東は甲斐の野呂のろ川の水源地となっている。

伊那地方ではまえ岳とよんでいたものと思われるが、正保年間(一六四四―四八)の作といわれる信州伊奈郡之絵図(飯田市立図書館蔵)には「前岳」の記載はなく、大正一〇年(一九二一)刊の「上伊那郡史」所載の「元禄時代ノ伊那ノ図」には甲斐国境に「前嶽」とある。また文化九年(一八一二)成立の「伊那志略」の入谷いりのやの山の項には、「白崩嶽

在黒河内甲信之境也、
甲斐称駒嶽是也
荒川嶽、前嶽
在中尾一
曰小勝嶽
」とあり、同一四年調製の木師御林山絵図(「黒河内史料」上伊那郷土館蔵)には「鋸岳」「白崩山」「駒ケ岳」「前岳又地蔵岳トモ云フ」「三峰岳」「荒川岳」「塩見岳」の山名が記入されているが、仙丈ヶ岳の名はみえない。

安永八年(一七七九)成立の「木の下蔭」に、「当城より辰巳にあたる前岳は駒ケ嶽につゞいて高岳なり入野谷郷市瀬村の枝村杉島萩沢といふ所より登る難所多し」と前岳登山記を載せているが、前岳の位置がはっきりしない。昭和一一年(一九三六)刊の「長野県町村誌」の長谷村の部は明治九年(一八七六)取調べとあるが、山の項に仙丈ヶ岳はみえず、前岳の説明に「東は甲斐白根岳に連り、南は荒川岳に接し、北は赤河原岳に連互す。村より左へ折れ、柏木より上る。登山路四里八町、嶮にして近し」とあり、位置的にみればこれが仙丈ヶ岳のことかと考えられる。

明治三四年刊行の佐野重直編纂の「南信伊那史料」の山岳の部に、「前嶽 地蔵ヶ岳トモ云フ甲州ニテハ千丈ヶ岳ト呼ブ美和村ノ巽位ニ方リ甲斐ノ白根及駒ヶ岳ト相鼎形シテ屹立シ高九千七百六十八尺柏木ヨリ登路四里八丁」とあり、伊那地方で前岳とよんでいたものが甲斐では仙丈ヶ岳とよばれ、明治中頃より伊那地方でも一般に仙丈ヶ岳とよばれるようになったものと考えられる。

伊那側は江戸時代高遠藩の御林であったが、現在は国有林となり、長野・山梨・静岡の三県に連なる山岳一帯は昭和三九年に南アルプス国立公園に指定されている。

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