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『下町ロケット』

2011-08-09

1か月のご無沙汰です。いやあ、先週の涼しさはどこへやら、東京にもようやく暑さが戻ってきました。そしてゲリラ豪雨ならぬ、ピンポイント雷雨&豪雨……日傘やら折り畳み傘やら、いったいどっちやねんって、日々、天気に惑わされている、かおるんです。

さて、ジャパンナレッジで連載していた「漱石右往左往」がついに単行本化(9月中旬発売予定)されるということで、先日、本に載せるための写真を撮影しに、東京・大森へ行ってきました。

大森は漱石の時代、海水浴客でにぎわったところ。漁業も盛んでした。いまだにその名残があって、海苔屋さんもちらほら見かけます。しかし、昭和の高度経済成長時には海苔の生産は禁止となり、代わりにたくさんの町工場ができました。

そしていまでも、大森には町工場がたくさんあります。長引く不況、円高、そして節電という状況のなか、厳しい現実に直面している工場が大半だと聞きます。工場があれば足を止め、カメラ片手にぐるぐる町をまわっていました。

その数日後、手にした本。それは第145回直木賞を受賞した、池井戸潤さん作『下町ロケット』です。

宇宙科学開発機構で働いていた主人公は、自分が開発したエンジンの不具合により念願だったロケットの打ち上げに失敗、その責任をとって職を辞し、家業である精密機械製造業を継ぎます。その会社、佃製作所は、そう、まさしく大森のある大田区の町工場です。

ある会社には突然取引停止を言い渡され、違う会社からは特許侵害の疑いで訴えられたりで、主人公が、そして社員が四苦八苦しているところから物語は本格的にスタートします。

倒産の危機に遭いながら、なんとか踏ん張って会社は持ちこたえましたが、今度はロケットエンジンをめぐって大手、帝国重工との交渉に立ち向かうという展開。自分たちが開発した部品を供給するのか、はたまた使用許諾料を相手から得るのか──つまり、夢やプライドをとるか、それとも金をとるか──主人公だけでなくあらゆる人の葛藤が見え、そして息遣いが聞こえてきます。ページを繰るたび、ハラハラドキドキ、そしてワクワクさせられます。あきらめないこと、モノづくりのすばらしさ、そしてなにより働くことって面白いんだ!という気持ちが全面に出ている、希望が詰まった“男たちの物語”でした。

さて、ここのところ、日本では大震災や円高の影響、そして政治の停滞で、にっちもさっちもいかない状態が続いています。そのうえ、アメリカの国債が格下げされ、株安、ドル安が止まりません。どうすればいいのか、打つ手はあるのか、ほんとうに世界はたいへんな時期に直面しています。

だけど──それに怯えて日々を過ごしても仕方ない。

フィクションの世界は現実をどうこうする力はないのだけれど、少なくとも心の支えになります。心の灯になります。こんな時代だからこそ、こんな素敵な本に出逢えて、ほんとうによかったと思いました。

2011-08-09 written by かおるん
さて、長崎は今日で原爆が投下され、66年目の夏を迎えました。11日は東日本大震災から5か月の節目。そして来週15日は終戦記念日です。お盆休み、過去をそして未来を、立ち止まって考えるチャンスなのかもしれません。