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漱石先生と考えるこれからのニッポン

2011-09-06

1か月のご無沙汰です。単行本の編集作業がようやく終わり、心も体も抜け殻状態。「私の夏」はどこ行ったっ! まだ「夏をあきらめて」なんて、絶対いわないぞぉ、かおるんです。しかしながらそろそろ秋風が吹きそうな感じですね。とほほ。

さて、台風12号、あんなに大きな被害をもたらすなんて思ってもみませんでした。6日13時現在、死者は42人、行方不明者は56人にのぼります。なかでも、豪雨による紀伊半島の被害は想像をはるかに超えるものでした。

100年前の明治44年8月、あの文豪、夏目漱石も和歌山で同じような体験をしていました。「現代日本の開化」という名講演を行なったのち宴会を始めると、次第に風雨が強まってきたそうです。泊まるはずだった海沿いの宿を断念し、市内の旅館に移動したけれど、電灯もつかない、ランプもつかないといった状態。日記には「風雨鳴動のうちにいよいよ十六日となる」という記述が見られます。

ジャパンナレッジ連載「漱石右往左往」の著者牧村さんが気象台を訪ねて、当時の記録を見せてもらったところ、「15日夜より暴風雨16日未明に最も強く、和歌山最大風速21.0米/秒(南南西)に達し」とあり、風力を示す記号の羽が和歌山に幾重にも開いていたそうです。漱石の記述通り、和歌山地方は記録的な暴風雨に見舞われていました。そしてこの体験をもとにして描かれたのが、小説『行人』のクライマックスシーン。彼にとって、とても印象深い出来事だったのでしょう。

ところで和歌山での漱石の100年前の名講演「現代日本の開化」とはどんなものだったのでしょうか、要約してみると──

日本の近代化は、外から押し付けられた外発的開化である。体力、知力とも旺盛な西洋が長い時間をかけて到着したところに、日本は猛スピードで追いかけたのだから、無理が生じ、矛盾が生まれ、不安が残る。「上皮を滑っていき、また滑るまいと思って踏ん張るために神経衰弱になる」ことをどうすることもできない。日露戦争後、一等国になったという気楽な見方もあるが、日本の将来は悲観せざるを得ない。

──あれから100年経った2011年。3月11日、東日本大震災という壊滅的な地震が起こりました。福島の原発問題はいまだ解決の見通しがたっていません。そしてこの夏の新潟、福島、紀伊半島の豪雨など、自然の脅威はとどまることを知りません。そのうえ政治の迷走、経済の空洞化など深刻な事態に日本は直面しています。日本の将来は悲観せざるを得ないという、漱石先生の言葉が胸に沁みます。

スピーディーな対応は今の日本にとって最も必要です。しかしときには、はたと立ち止まり、先人たちの言葉に耳を傾け、これからの自分のありかた、そして日本のありかたを考える──この秋、文庫本片手にそんな時間をもってみてはいかがでしょう。

※この文章は『旅する漱石先生』より一部引用しています。

ジャパンナレッジの好評連載「漱石右往左往」がついに単行本化されます。タイトルは『旅する漱石先生~文豪と歩く名作の道』。9/15(木)、小学館より発売予定。著者は朝日新聞記者の牧村健一郎さん。牧村さんの綿密な取材に基づいたエッセイはもちろん、漱石の名文の数々も味わえます。見ても使っても楽しい、イラストマップがついています。この秋、あなたも漱石先生と、旅に出かけてみませんか?詳細はコチラ

2011-09-06 written by かおるん
かおるんの夏の思い出といえば、先週末のMr.Childrenのライブ。青春時代のあの曲も、大好きなニューアルバムからの楽曲もたっぷり披露してくれました。10何年前に比べて若い男の子たちの観客が多いのにはびっくり! いやあ、ライブって、やっぱりいいもんですね。