森銑三 著
源氏物語と並ぶ不朽の名作「一代男」は、わが国の文学に浮世草子の新生面を開いた画期的作品である。西鶴その人の伝は不明の部分が多く、謎に包まれている。果して一代男以外、書肆の需めにも応じて濫作を続けた職業作家だったろうか。西鶴研究に独自の識見をもつ著者が、いわゆる西鶴作という諸作品をも精読して、ここに真の西鶴像を浮び上らせた。
[江戸][文化人]
小高根太郎 著
鉄斎はセザンヌ、ゴッホにも比すべき近代の世界的大芸術家であり、大学者でもあった。著者は鉄斎に傾倒すること20数年、一万点に及ぶ作品、数百巻にのぼる鉄斎自筆の記録、明治・大正期のあらゆる美術文献などを精査して、従来の謬説を正し、正確な鉄斎像を描き出した。鉄斎伝の決定版であり、欠くことのできない好指針である。
[江戸|明治|大正][文化人]
城福勇 著
非常の才を抱き、非常の事を行ない、非常の死を遂げた無類の奇人。広く物産学を修め特に技術に長じ、多くの発明殊にエレキテルでは最も世人を驚かした。非凡な小説や戯作なども書く通人であったが、その才能は世に容れられず、晩年弟子の一人をあやめて投獄され、自ら絶食して世を去った。この破格な生涯を巧みに描いた最も興味深い伝記。
[江戸][文化人|学者]
小林計一郎 著
瓢々奇特の俳人一茶についての著書は、その多くが文学研究者の手になるもので、一茶の生活面にまで及ぶことがなく、その伝記には誤り伝えられている部分が少くなかった。本書は一茶の故郷信州柏原村の近世史料を初め、従来知られていない史料を多数利用し、新しい立場、とくに経済史的面をも追求した、正しい一茶伝である。
[江戸][文化人]
阿部喜三男 著
多くの資料と紛々たる論説、または多彩な俗説を整理し、最近特に進歩した芭蕉研究の成果をふまえて、従来にない正確さで、新しくまとめられた伝記。作品・作風の展開を述べ、その風雅、文芸の境地を解説するだけでなく、その生涯のあらゆる部面にわたって綿密な検討を遂げ、さらに死後の一章をも叙した芭蕉翁の全貌である。
[江戸][文化人]
佐藤昌介 著
渡辺崋山は幕末のすぐれた文人画家であるだけではなく、三河・田原藩家老として藩政を担当し、また蘭学を通じてアヘン戦争前夜の対外的危機状況を的確にとらえ、幕府の鎖国政策を批判して、蛮社の獄の悲劇を招いた。本書は、戦後発掘された新史料を駆使して、崋山の人となりや藩政との関係、蛮社の獄の真相等を究明、従来の崋山像を更新した労作。
[江戸][学者|文化人]
仲田正之 著
代官として有能な江川坦庵(太郎左衛門)は、蘭学者・外交官・芸術家・軍学者・教育者にして剣客でもある。幕末の生んだ多芸多能の先覚者といえよう。その幅広い交際から、渡辺崋山・高島秋帆らの力を幕政に反映せしめんとして果せず、晩年は、ペリー来航より登用され、二年余の奔走のすえに没した。著名な人物だが本格的研究がなかった坦庵像に初めて迫る。
[江戸][武人・軍人|文化人|外交官|学者|教育家]
田中健夫 著
島井宗室は博多を代表する豪商であり、織豊政権をめぐる大名・商人・農民などの人間関係の曼陀羅模様の中でも、その生涯は異彩を放っている。商人的才腕と茶人的天分とを発揮して遠く海外にまで活躍した行動記録は、広く新しい史料蒐集とその綿密な検討とによってはじめて正確に描き出されたもの。本叢書中には特異な人物である。
[戦国|安土桃山|江戸][商人|文化人]
浜田義一郎 著
南畝は江戸文芸界をリードする巨人であり、当代最高の知識人として江戸文化に限りない影響を及ぼした。彼の一生はそのまま江戸文化形成の歴史である。本書は多年の研鑽により資料の厳選、新史料の発掘、視野の拡大によって再検討し、特に従来の南畝伝が疑問とした部分に新しい実証的な光の照射を試みようとした野心作である。
[江戸][文化人]
若林喜三郎 著
加賀百万石の領主であり、加賀藩の制度・文物万般にわたる完成者であった松雲公前田綱紀は、世に名君と呼ばれている。しかしその治績が模範的であればあるほど、封建政治の矛盾をはらんでいる。本書は藩政史料を厳密に調査し、社会経済史的立場から、彼の幾多の業績に検討を加え、そこに彫りの深い封建領主像を描き出した。
[江戸][大名|文化人]
西山松之助 著
江戸荒事歌舞伎の源流初代市川団十郎より、明治中期の団・菊・左時代を飾った九代目団十郎までの成田屋歴代の芸道精進のあとと、その演劇界における位置を、厳密な史料批判を基礎にまとめた好篇。豊富な引例とエピソードとによって興味深く説き、思わず読みつづけさせる。新装版にあたって、現代に至る十・十一・十二代目の章を増補し一層の充実を期した。
[江戸|明治|大正|昭和][文化人]
河竹繁俊 著
歌舞伎の狂言作家として、名人小団次をはじめ、いわゆる団・菊・左らの名優を対象に世話狂言・時代狂言・活歴劇・散切狂言・舞踊劇にわたり三万余種の作品をのこした黙阿弥は、江戸演劇の大問屋と評された。本書はその生涯・人物・主要作品の梗概を興趣深く語り、さながら近代日本演劇の鳥瞰図の観を呈する。歌舞伎研究必携の書である。
[江戸|明治][文化人]
岡田章雄 著
クルスの旗印を高く掲げて原の故城に立籠る一揆勢四万の指導者、天の使と仰がれキリシタンの妖童として怖れられた少年四郎時貞。国際色豊かな島原の乱の全貌を、豊富な史料と明快な行文に描きつつ、その人物像を鮮かに浮彫した異色の伝記であり、島原一揆の顚末を知る上にも好個のもの。正に一幅の好絵巻というべきである。
[江戸][文化人]
井上義巳 著
江戸後期、折衷学派の儒者。病身の生涯ながら、豊後国(大分県)日田に私塾咸宜園を開設、50余年にわたり、門弟2,900余名を育成するとともに、大村益次郎・高野長英ら、幕末の逸材を輩出した大教育者であり、詩人としても名高い。本書は、その教育の実態と特色とを中心に、新史料を駆使して生涯を詳述した、著者多年にわたる研究成果の結晶である。
[江戸][学者|文化人]
三枝康高 著
契沖以来の国学の大成をめざし、『万葉集』の研究に心血をそそいだ賀茂真淵は、世に“国学四大人”の一人にかぞえられる。真淵は国学に指導的役割を果し、古典研究の立場と方法を発見して、古道と詠歌とを緊密に結びつけた功績は大きい。とかく無味乾燥になり易い国学者の伝記を、本書は真に血の通った人間として再現した。
[江戸][学者|文化人]
麻生磯次 著
化政文化を代表する戯作者。原稿料で生計を立てた日本最初の作家ともいえよう。山東京伝に入門し、八十二歳で没するまでの血の滲むような著述生活は、家庭の労多く悪戦苦闘の連続であった。本書は、そのおびただしい著作や、失明をおして完成した晩年の大作『南総里見八犬伝』に至る悲壮な生涯を、近世国文研究の権威が詳述した、正確な実伝である。
[江戸][文化人]
森蘊 著
「遠州流」とか「遠州好み」とかいう言葉は茶道や花道においていまも著名であり、より以上に庭園史上不朽の名を残した小堀遠州であるが、その実伝となると意外に知られていない。著者は庭園研究の傍ら深く遠州に傾倒し、多くの史料を博捜すると共に、実地の探査を重ねて、公私両面にわたる遠州の生涯を描き出した。詳細なる正伝完成。
[江戸][文化人|武将・将軍]
河竹繁俊 著
「作者の氏神」とたたえられる大近松も、その人物像や生活については意外に知られるところが多くない。本書は歌舞伎研究に畢生の努力を傾けた著者が、多年にわたって渉猟した資料によってまとめた詳伝であり、その生涯を作品とともに始めて明らかにした各界絶賛の書。歌舞伎や浄瑠璃の理解は、本書を通して一段と深められよう。
[江戸][文化人]
兼清正徳 著
公家歌学の伝統と国学者による尚古主義的歌論に反対して和歌革新ののろしをあげた香川景樹は、和歌の純粋性を強調し、調べを主としてまことの感情を詠むべきことを唱えた。その桂園の歌風一世を風靡し、門人多く輩出して明治の御歌所和歌の源流を開いた。本書は忠実なる伝記的記述のうちにその歌学史ないし思想史上の意義を究明した力篇である。
[江戸][文化人]
鈴木暎一 著
独学古典を研鑽し、『難古事記伝』以下多数の著作をもって宣長学を大胆に批判し、創見に富む学説により国学史上に異彩放つ守部。桐生・足利の機業家・豪農等に多くの門人をもった彼の事蹟は、天保期における庶民文化の発展と、国学の普及発達を見る上からも注目される。本書は幾多の新史料を駆使して、その生涯と学績とを解明した力篇である。
[江戸][学者|文化人]