冨倉徳次郎 著
虚構の衣をはがした古典作家の伝記は、多くは枯槁な姿をさらすが、“双岡の粋法師”兼好の場合もその例に洩れなかった。しかしながら、国文研究の権威者による本書は、近時新発見の史料によって、その生涯を新しく肉付け、兼好の中世隠者としての意味の究明と、「徒然草」の文芸性の探求という意図に立ち、ありしがままの人間像を見事に描出・活写した。
[鎌倉|南北朝][宗教者|文化人]
多賀宗隼 著
平氏から源氏へ、そして北条氏へとめまぐるしい転変を続ける平安末~鎌倉初頭の動乱期に、四たび天台座主となって仏教界・思想界に君臨し、新古今歌壇の雄として六千首の歌什を残す。摂籙九条家の出で深く政治をも解し、名著『愚管抄』により史家としてまた不朽の名を伝える。本書は慈円研究の権威によるそのすぐれた伝記。
[平安|鎌倉][宗教者|文化人]
村山修一 著
華やかな歌道の精進をつづける傍ら、すがりつくような思いで顕栄を願う官僚生活。一方悪化してゆく世相の中で所領をおびやかされ、絶間ない病苦に悩まされる。堂上公家とはいえ、やはり一個の人間であり、一代の歌人がたどる苦闘の一生は、まさに反抗的な美の極致の追求でもある。詳細な研究成果と新史料を盛って全容を解剖した著名な堂上歌学者の伝。
[平安|鎌倉][文化人|官人]
目崎徳衛 著
中世的人間の典型“数奇の遁世者”西行。草庵閑居と廻国修行を多彩に織りまぜつつ、宗教・文学・政治・芸能・故実など、当代文化の全領域に活躍し、古代末期の波瀾の時代に独自の生き方を貫いたその生涯を鮮やかに描写。多くの史実を明らかにした『西行の思想史的研究』の著者が、一般読書人のために平易に興味深く紹介した好伝記。
[平安|鎌倉][宗教者|文化人]
橋本義彦 著
平安時代末期から鎌倉時代初期という激動の時代に生きた公家政治家。従来、良い評価は与えられてこなかったが、それは通親と鋭く対立した九条兼実の日記『玉葉』の記述に依拠したためである。本書は通親の生涯の足跡をたどり、できるだけ正確な全体像を描く。また改元定、院殿上定など儀式制度の内容にも具体的に触れ、当時の宮廷生活を垣間見させる。
[平安|鎌倉][政治家|文化人|官人]
永井晋 著
鎌倉時代末期の政治家。霜月(しもつき)騒動に連座して不遇の幼少期をおくるが、得宗(とくそう)家の信頼を得て六波羅探題(ろくはらたんだい)・連署(れんしよ)となり、病弱な執権北条高時を支えた。15代執権に就任するが、政争の激化により辞任、幕府の滅亡に殉じた。膨大な貞顕(さだあき)書状から、高時政権を再評価し、称名寺造営や金沢文庫本の充実から、鎌倉の武家文化に足跡を残した権力者の実像に迫る。
[鎌倉][武将・将軍|文化人]
井上宗雄 著
鎌倉時代後期の歌人。藤原定家の流れを汲む和歌の一門に育ち、伝統的な歌風を刷新する「京極派(きようごくは)」を確立。宗家の二条派と争った末、勅撰集『玉葉(ぎよくよう)和歌集』を撰進(せんしん)するが、「和歌の師範」の立場を超えた政治への介入を疎(うと)まれ、二度の配流(はいる)に遭う。清新な美意識と印象鮮明な歌風に彩られた豊富な作品を織り交ぜながら、反骨を貫いた波瀾の生涯を描く実伝。
[鎌倉][文化人|官人]
田渕句美子 著
鎌倉時代の女流歌人。歌道の家である御子左(みこひだり)家に嫁ぎ、古典を講じ、歌論書を執筆するなど、当時の女性としては類を見ないほど和歌の世界で活躍し、家業を支えた。夫の為家(ためいえ)死後、遺産争いの訴訟で鎌倉に下向した時の様子を『十六夜(いざよい)日記』として残す。才気溢れる文学者であり、良妻賢母の手本とされたその人物像を、時代背景や女性観に即して描き出す。
[鎌倉][文化人|女性]