渡辺保 著
伊豆の片田舎に育ち、源家嫡統の頼朝と激しい恋愛によって結ばれたが、そこから彼女の宿命的変転がはじまる。勝気な鎌倉女性の典型であり、妻として、さらに母として、異様なまでの肉親相剋に苦悩する。本書は従来の政子観の不当な取扱いを是正し、鎌倉創業期の政治の動向を通じて、政子の行動と生活とをえぐり出した。
[平安|鎌倉][政治家|女性]
桑田忠親 著
悲運の戦国大名の家に生を受け、父母を滅ぼし弟を串刺しにした仇敵信長の部将秀吉の愛妾となり、秀頼を生んでその寵を一身に集め、太閤なき後は落日の大坂城に君臨して家康の前に節を屈せず、愛児とともに自滅して果てた勝気な女性。本書は著者の多年渉猟の史料による脚色ぬきのその生涯。興味は却って稗史や戯曲にもまさる。
[安土桃山|江戸][その他|女性]
今井源衛 著
『源氏物語』の名声ほど作者紫式部については知られない。本書は、その華やかな御堂関白道長の時代に生きた紫式部の生涯を、誕生から、埋もれた恋愛、不幸な結婚生活、宮廷からの追放、そして晩年に至るまでを、数多くの知見を示して、天才紫式部の特異な人間像を再現する。新装版を機に、最新の研究成果を取入れて晩年の記述を大幅に改訂した。
[平安][文化人|女性]
塩田良平 著
明治文壇の明星。若くしてこの世を去った樋口一葉は、従来それが伝説化されがちであった。本書は30年にわたる実証主義的研究により、客観的観察を重んじた最も正確な一葉伝である。下級士族の娘に生まれた一葉が長じて自己の周辺の矛盾に苦しみ、反抗し、悲しい諦観を持ち、さらに自我に生きようと努力したあとを追求する。
[明治][文化人|女性]
林陸朗 著
華麗な天平文化の頂点に立つ“美貌の皇后”彼女はまた凄惨極りない政争の嵐の中にそびえ立つ存在でもあった。彼女は生来の叡智と仏への深い帰依によって数々の事業をなし遂げるが、公私にわたり人間としての悲喜にも遭遇する。この天平宮廷に生きた一女性を、政治・社会・文化の各方面からダイナミックに描き出したものである。
[奈良][天皇・皇族|女性]
岸上慎二 著
和漢の学才にすぐれ、『枕草子』の作者としてあまりにも著名な、平安時代を代表する女流随筆家・歌人。学識と機智に富む稀代の才女の生涯──その家系・幼少期・結婚・宮仕え・晩年などにわたり、彼女の教養・性格や、当代および後世の人物評をおりまぜ鮮やかに描く。清少納言研究の第一人者が、蘊蓄を傾け、従来の断片的諸研究を総合した必読の伝。
[平安][文化人|女性]
武部敏夫 著
幕府再三の要請により、やむなく公武合体の犠牲となって将軍家茂に降嫁し、程なく家茂没して未亡人となる。さらに幕府滅亡の期に及んでは最も辛苦をきわめ、死を決して夫家の救助につくす。皇女たるの節義を二つながらに固く守って苦悶懊悩する悲劇の生涯、幕末史を彩る数奇、薄命を克明に描く力篇。
[江戸][天皇・皇族|女性]
山中裕 著
和泉式部の生涯については文献が少ない。『和泉式部集』『和泉式部日記』が唯一の伝記を探る史料である。本書は『歌集』『日記』を主としながらも、残された文献を可能なかぎり集め、伝記と伝説を峻厳と区別する。摂関政治全盛期に生きた苦難のその姿を、娘小式部をはじめ、紫式部、赤染衛門などとの関係を絡ませ詳述、王朝時代女流作家の生活の意義を説く。
[平安][文化人|女性]
山崎孝子 著
明治四年、岩倉大使一行にまじって満七歳の振袖・稚児髷姿で渡米留学した津田梅子は、不自由な異国の生活を克服して、勉学に励み、長じて帰国後は、女性の解放と女子高等教育の開拓に精魂を尽した。本書は厳密な資料操作に基づき、細やかな愛情を投げかけつつ、梅子の生涯と社会環境とを鮮やかに展開した感動を呼ぶ一編である。
[明治|大正|昭和][教育家|女性]
直木孝次郎 著
『万葉集』の女流歌人。大海人(おおあま)皇子との間に十市(とおち)皇女を生むが、後に中大兄(なかのおおえ)皇子に娶(めと)られたとされる。中大兄の大和三山歌をはじめ、熟田津(にぎたつ)船出の歌、三輪(みわ)山別れの歌、大海人との蒲生野(がもうの)贈答歌など、『万葉集』に残る名歌の解釈をめぐる諸説を検証。王の呼称に対する新説を提起するなど、従来の評価を見直しつつ、額田の個性と内外の緊張が高まる時代を描く。
[飛鳥][文化人|天皇・皇族|女性]
久保貴子 著
江戸時代初期、徳川秀忠の娘和子(まさこ)は、家康の対朝廷政策により、後水尾(ごみずのお)天皇の許に嫁ぎ、皇后となった。娘の興子(おきこ)が明正天皇として皇位を嗣いだため、若くして国母(こくも)となる。朝廷・幕府間の軋轢(あつれき)に苦悩しつつも、双方への細やかな気配りから存在感を示した。将軍の娘、そして天皇の妻・母の立場から朝幕関係や後宮の実態を見る「東福門院(とうふくもんいん)」初の伝記。
[江戸][天皇・皇族|女性]
関民子 著
江戸後期の女性思想家。江戸築地の生家は、父工藤平助の下に当代の蘭学者たちが集い、世界情勢を物語る特異な場であった。女の手本を志し、経世済民を問い続け、やがて社会を批判し女性の闘争を宣言した『独考(ひとりかんがえ)』を著す。工藤家の〝廃絶〟や出版を託した曲亭馬琴との絶交など、遠く仙台の地で失意の内に終えた生涯を通じ、江戸時代の女性像に変革を迫る。
[江戸][文化人|思想家|女性]
田渕句美子 著
鎌倉時代の女流歌人。歌道の家である御子左(みこひだり)家に嫁ぎ、古典を講じ、歌論書を執筆するなど、当時の女性としては類を見ないほど和歌の世界で活躍し、家業を支えた。夫の為家(ためいえ)死後、遺産争いの訴訟で鎌倉に下向した時の様子を『十六夜(いざよい)日記』として残す。才気溢れる文学者であり、良妻賢母の手本とされたその人物像を、時代背景や女性観に即して描き出す。
[鎌倉][文化人|女性]
義江明子 著
奈良朝に政界で活躍した女官。少女の時より、天武から聖武までの歴代天皇に側近として仕える。特に元明女帝との強い絆と卓越した資質で比類ない政治力を培い、夫藤原不比等の政治基盤を固め、子の橘諸兄、光明子らの政治的地位を確立させた。女帝が即位し、貴族女性の政治的活躍が求められた時代、新興氏族の藤原・橘氏の繁栄の基盤を築いた生涯。
[飛鳥|奈良][官人|女性]