遺産を各共同相続人の具体的な相続分に応じて分配すること。相続人が2人以上いる共同相続の場合、遺産は、相続開始と同時に相続分に応じて各人に帰属することになるが、これをすぐに相続人の間で分けることは実際には不可能であるから、共有(あるいは含有)の形にしておき、あとで各相続人にどのように分配するかを具体的に決めることになる。その方法は、被相続人が遺言(いごん)で自ら指定し、または指定を第三者に委託することができるが(民法908条)、とくに遺言がなければ、相続人同士の協議のうえで決める。協議が調わないときは家庭裁判所に分割の請求をすることになる(同法907条)。ただし、被相続人の遺言、共同相続人の特約、家庭裁判所の審判により、期間を定めて、分割を禁止することができる(同法907条3項、908条)。
分割にあたっては、遺産が一体としてもつ経済的価値をなるべく損なわず、同時に各相続人にこれを適正に配分するという二つの要求をうまく調和させることが要求される。このためには、遺産に属する物や権利の種類・性質、各相続人の職業、その他いっさいの事情を考慮に入れなければならないとされている(同法906条)。したがって、個々の財産をそれぞれ実際に分割する必要はなく、評価額のうえで相続分に応じた分け方をすればよい。
ところで、共同相続人のなかに、被相続人から、遺贈や生前贈与を受けた者(特別受益者)がいる場合に、その者がさらに遺産分割によって法定相続分の遺産を受け取ると不公平が生じる。それゆえ、このような場合には、その特別受益分を相続財産に加算して遺産分割を行うこととなる(同法903条1項)。これを、特別受益の持戻しという。ただし、被相続人が遺言などで、持戻し免除の意思表示を行っていた場合には、それに従い、持戻しは行わなくてもよい(同法903条3項)。そこで、2018年(平成30)の相続法改正では、配偶者を保護するために、次のような方策を講じた。すなわち、婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他方配偶者に対し、その居住用建物またはその敷地を遺贈または贈与した場合には、持戻しの免除の意思表示があったものと推定し(同法903条4項)、遺産分割において、当該居住用不動産の価額を特別受益として扱わずに計算をすることができることにした。このほか、相続された預貯金債権について、生活費や葬儀費用の支払い、相続債務の弁済などの資金需要に対応できるよう、遺産分割前にも払戻しが受けられる制度が創設された(同法909条の2)。また、共同相続人の一人が遺産分割前に遺産に属する財産を処分した場合にも、共同相続人全員の同意により、当該処分された財産を遺産分割の対象に含めることができることとし(同法906条の2)、計算上生じる不公平が是正されている。
2019年7月19日