アメリカの医学者。ニューヨーク市生まれ。ハーバード大学でダウン症などの小児遺伝学を学び、1978年卒業、1984年にペンシルベニア大学大学院で医学博士号を取得した。小児科専門医としてデューク大学で経験を積み、ジョンズ・ホプキンズ大学で博士研究員として遺伝学の研究を深めた。1990年から同大学の講師となり、独立の研究室を開設、1999年から同大学教授に就任。2003年から同大学の細胞工学研究所の所長も務めている。
セメンザは1980年代から酸素濃度に応答する細胞の仕組みの解明に取り組んだ。酸素が少なくなると(低酸素症)、赤血球を増やすホルモン「エリスロポエチン(EPO)」が産生されることがわかっていたが、その遺伝子レベルのメカニズムは不明だった。セメンザは、EPO遺伝子にくっつき、増殖を促す因子をつきとめようと肝細胞を培養して調べた。その結果、酸素が少ない環境下では、EPOの遺伝子に作用するタンパク質「HIF」(低酸素誘導因子)が産生されることを発見した。このHIFは、HIF-1α(アルファ)と、ARNT(HIF-1β(ベータ))という二つのタンパク質で構成され、とくに酸素欠乏状態になるとHIF-1αが細胞内で蓄積することを発見した。増えたHIF-1αは核内に取り込まれ、ARNTと結び付いて、HIFとして働く。一方で、酸素が十分にある条件下では、HIF-1αは、プロテアソームというタンパク質分解酵素複合体によって、細胞内で処理されることも確認した。がん細胞では、HIF-1αが大量につくられ、酸素が少ない条件下でも新生血管が形成され、増殖することなども明らかにした。こうした細胞の酸素応答の仕組みを遺伝子レベルで解明したことで、貧血、がん治療、虚血性心疾患など多くの病気の治療薬などの開発に道を開いた。
2008年にアメリカ科学アカデミー会員、2012年アメリカ医学アカデミー会員。2010年にガードナー国際賞、2016年アルバート・ラスカー基礎医学研究賞を受賞。2019年「細胞が低酸素状態を感知し、応答する仕組みの発見」による業績で、ハーバード大学のウィリアム・ケリン、オックスフォード大学のピーター・ラトクリフとノーベル医学生理学賞を共同受賞した。
2020年2月17日