新型インフルエンザや新型コロナウイルス(COVID-19)など新たな感染症への対策を定めた法律。平成24年法律第31号。略して新型インフル特措法、改正特措法などとよばれる。感染力が高い未知の新感染症が発生したとき、外出自粛・休業要請などで感染拡大を抑え、健康や経済への悪影響を最小限にとどめるねらいがある。2009年(平成21)の新型インフルエンザ(H1N1型)の世界的流行を踏まえ、感染症法(平成10年法律第114号)など既存法を補完するため、補償や知事権限強化を法制化する目的で2013年4月に施行された。対象とする感染症は新型インフルエンザ、過去に大流行した再興型インフルエンザ、未知の新感染症で、2020年(令和2)3月の改正で新型コロナウイルス感染症を暫定的に加えた(暫定期間は2020年3月14日~2021年1月末)。
流行に備えて国、都道府県、市町村は行動計画を作成し、医薬品など緊急物資の備蓄や対策の訓練を行い、医療・医薬品・医療機器、電力、ガス、輸送などの事業者を指定する。感染症発生時には、政策の総合調整役となる政府対策本部(本部長は内閣総理大臣)を設け、医療事業者らへ予防接種(特定接種)を実施する。内閣総理大臣は、(1)国民の生命と健康に著しく重大な被害を与えるおそれがある、(2)全国的かつ急速な蔓延(まんえん)で国民生活と経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある、の2条件を満たすと判断した場合、専門家諮問委員会の意見を聞き、緊急事態宣言を発令できる。発令は全国一律にこだわらず、地域や期間を限定できる。宣言を受け、都道府県知事は住民への不要不急の外出自粛や、小中高校・保育所・介護施設への休業を要請できる。延床面積1000平方メートル超の大学、百貨店、映画館、イベント会場、スポーツ・娯楽施設などへの使用制限要請も可能。従わない場合、要請より強い指示に変更し事業者名を公表するが、従わなくても事業者に罰則はない。感染症拡大時の私権制限は「必要最小限のものでなければならない」と同法第5条に定めているが、医薬品などの緊急物資や医療施設に関する命令は私権制限を伴う。緊急物資の生産・販売・輸送業者に売り渡し・保管を命令でき、従わない場合、強制収用できる。保管命令に従わずに隠匿・横流しなどをすると、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金を科す。医療施設を臨時設置するため、土地や建物に立入検査し、収用できる。検査に応じない場合、30万円以下の罰金に処す。このほか、感染国からの入国制限、公的負担による住民への予防接種、死亡した医療従事者への補償、緊急物資・土地・建物を収容された場合の補償、自治体間の相互応援、24時間以内の埋葬・火葬を認める特例措置、生活物資の価格安定、免許証更新や納税期限などの延長、政府系金融機関による融資などの対策がとられる。
安倍晋三(あべしんぞう)政権は2020年4月、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づき、初めて東京都など7都府県に緊急事態を宣言し、その後全国に拡大した(2020年5月に順次解除)。ただ同法には知事要請に応じない事業者への罰則や休業事業者への補償措置などが盛り込まれておらず、各地の知事などから知事権限強化や補償措置の立法化を求める声が上がっている。
2020年8月20日