一般的には、民間企業の雇用労働者を対象とする医療保険をさすものとして、自営業者などを対象とする国民健康保険(国保(こくほ))と対比して使用される。しばしば健保(けんぽ)と略称。各種の医療保険を総称するものとして使用されることもあるが、ここでは一般の用例に従う。
2020年11月13日
健康保険は、日本最初の社会保険として1922年(大正11)の健康保険法により制定され、1927年(昭和2)から実施された。当初の適用対象は、工場や鉱山の労働者と年収が一定額以下の事務職員に限定され、被扶養者である家族は給付対象外であったが、第二次世界大戦の戦時体制下には事務職員や家族に対しても適用を拡大した。
戦後のおもな改正は以下のとおりである。
(1)1973年(昭和48) 被扶養家族の自己負担率の引下げ(5割→3割)、高額療養費支給制度の導入。
(2)1980年 家族入院の自己負担率を2割に引下げ。
(3)1984年 被保険者本人について定率1割の自己負担の導入。
(4)1997年(平成9) 本人の自己負担率を2割に引上げ。
(5)2002年(平成14) 本人および家族の自己負担率を3割に引上げ(ただし、70歳以上75歳未満は原則1割負担、現役並み所得者は2割負担)。3歳未満の乳幼児は2割に引下げ。総報酬制の導入。
(6)2006年 特定健康診査・特定保健指導の実施。現役並みの所得のある高齢者の自己負担率を3割に、70歳以上75歳未満を2割に引上げ、乳幼児の負担軽減措置を義務教育就学前に拡大、政府管掌健康保険を公法人化し全国健康保険協会の管掌とする。
(7)2010年 協会健保の国庫負担割合を13%から16.4%に引上げ。後期高齢者支援金の3分の1について総報酬割(負担能力に応じた分担方法)を導入。
(8)2015年 後期高齢者支援金の全面総報酬割の導入。入院時の食事代の見直し。紹介状なしの大病院受診の定額負担の導入。患者申出療養の創設。
(9)2019年(令和1) 保険者間で被保険者資格の情報を一元的に管理するオンライン資格確認の仕組みの創設、被用者保険の被扶養者について原則として国内に居住していること等の要件の追加。
2020年11月13日
健康保険の保険者(運営主体)は、全国健康保険協会管掌健康保険(協会健保)と組合管掌健康保険(組合健保、健康保険組合)に分かれる。組合健保には、事業主が単独設立する単一組合と、業種または地域を同じくする複数の事業主が共同設立する総合組合がある。このうち、単一組合は700人以上、総合組合は3000人以上の従業員数であることが認可の条件である。一方、協会健保は、組合健保の設立されていない企業の従業員を対象としている。そのため一般には、大企業の従業員は組合健保、中小零細企業の従業員は協会健保の適用を受けている。常時5人以上の従業員を使用する事業所、または5人未満であっても法人の事業所で常時従業員を使用する事業所は、健康保険の強制適用事業所となり、その従業員は強制被保険者となる。従業員5人未満の個人事業所、5人以上であってもサービス業の一部や農林水産業の個人事業所は任意適用事業所で、事業主が従業員の2分の1以上の同意を得て適用事業所となることができる。これらの健康保険適用事業所の75歳未満の従業員が被保険者となり、その75歳未満の被扶養者である家族にも保険給付を行う(75歳以上の者は後期高齢者医療制度の被保険者となる)。被扶養者の認定基準は、原則として年収が130万円未満(障害者と60歳以上の者は180万円未満)であって、かつ被保険者の年収の2分の1未満であることとされている。
2020年11月13日
(1)療養の給付・家族療養費 自己負担率は、被保険者および被扶養者ともに、70~75歳未満2割(現役並み所得者3割)、義務教育就学後~70歳未満3割、義務教育就学前2割。
(2)入院時の食事療養費 標準負担額は、平均的な家計における食費(食材費+調理コスト相当額)を勘案して定められ1食460円であるが、指定難病患者・低所得者については軽減措置がある。
(3)入院時生活療養費 医療と介護および入院と在宅療養の負担の公平化を図る観点から療養病床に入院する65歳以上の者について自己負担を求めるもので、標準負担額は平均的な家計における食費と居住費の状況等を勘案して定められ、1日につき1750円であるが、指定難病患者・低所得者に対する軽減措置、病状等によって入院時食事療養費と同額の負担とする軽減措置がある。
(4)訪問看護療養費・家族訪問看護療養費 自己負担率は一般の医療と同じ。
(5)保険外併用療養費 差額病床などの患者の選択・同意による選定療養、先進医療など将来的な保険導入のための評価を行う評価療養、先進医療であって患者の申し出によって行われる患者申出療養については、基礎的部分が保険外併用療養費として保険給付される。
(6)高額療養費支給制度 1か月の自己負担額が一定額を超えた場合、超過額が償還される。
(7)高額介護合算療養費支給制度 医療保険と介護保険の1年間の自己負担の合計額が一定額を超えた場合、超過額が償還される。
2020年11月13日
(1)移送費・家族移送費 病院などへの移動が著しく困難で、移送が緊急やむをえないものである場合、もっとも経済的な通常の経路・方法により移送されたときの費用により算定された額が支給される。
(2)傷病手当金 被保険者が傷病のため労務につくことができず、報酬が受けられないときに、4日目から標準報酬日額の3分の2相当額が支給される。支給期間は同一の傷病につき1年6か月である。
(3)出産手当金 被保険者が出産のため分娩(ぶんべん)の日前42日、分娩の日以後56日以内において労務につかず、報酬が受けられないとき、標準報酬日額の3分の2相当額が支給される。
(4)出産育児一時金・家族出産育児一時金 被保険者または被扶養者である家族が分娩をしたとき、1児につき42万円(産科医療補償制度に加入している分娩機関で出産した場合の額。その他の場合は40万4000円)が支給される。
(5)埋葬料(葬祭費) 被保険者および被扶養者である家族が死亡したときは5万円が支給される。
2020年11月13日
健康保険の保険料は、標準報酬月額と標準賞与額を算定基礎として、これに保険料率を乗じて毎年算定する。保険料率は、協会健保は全国平均を10.0%としたうえで都道府県単位で医療費水準に応じて設定され、組合健保は組合ごとに定められる。保険料は、協会健保が事業主と被保険者の折半負担であるのに対して、組合健保では事業主の負担割合を高めることができる。国庫負担は、協会健保に対して、保険給付費等の16.4%、組合健保に対しては一部の財政窮迫組合に必要な額を定額で補助している。
2020年11月13日