深刻な農作物被害や生態系の乱れの原因となっている有害鳥獣を国が「指定管理鳥獣」として指定し、適正数まで捕獲・減少させる補助事業。2014年(平成26)に改正された「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」(鳥獣保護管理法、平成14年法律第88号)に基づいて政府が創設し、2015年から同事業が始まった。環境大臣が同年、狩猟によって頭数減少や生息域の縮小を促す指定管理鳥獣として、ニホンジカとイノシシの2種を指定(イノシシは豚熱の感染拡大防止のねらいもある)した。事業の実施主体となる都道府県に対し、捕獲目標数などを盛り込んだ事業計画の策定を求め、捕獲などに要した経費の全部または一部を補助する。都道府県は、従来必要だった捕獲許可を不要とし、捕獲を専門的に行うNPO法人や警備会社などを「鳥獣捕獲等事業者」として認定(認定事業者数は2021年9月時点で158)。これまでの猟友会頼みでなく、専門的な民間組織に捕獲をゆだね、効率的・計画的な捕獲を目ざす。鳥獣捕獲等事業者は森林での夜間狩猟を一部解禁され、許可があれば住宅地でも麻酔銃による捕獲ができる。環境省と農林水産省は2013年度、ニホンジカ(2011年度時点で推計261万頭)とイノシシ(同88万頭、北海道を除く)を2023年度までに半減させる目標を掲げた。しかし同事業実施後も指定管理鳥獣の減少テンポは緩やかで、生息域の広域化が進んだ。このため2016年に鳥獣被害防止特別措置法(正称「鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための特別措置に関する法律」平成19年法律第134号)を改正し、市町村にまたがる広域捕獲を可能としたほか、捕獲鳥獣の食品(ペットフード含む)としての利用を明記し、ジビエ(野生鳥獣肉)利用を促進するため、捕獲費や捕獲鳥獣の流通・加工費、狩猟者向け食肉衛生講習会費などにも交付金を活用できるようにした。
日本では1970~2010年の40年間で狩猟免許の所持者数が6割以上減少したうえ、ハンターの高齢化も進み、シカやイノシシなどの野生動物の増加に捕獲が追いつかない状況が続いている。2019年度(令和1)の野生動物による農作物被害は158億円にのぼり、年間5000ヘクタールの森林が被害を受け、市街地での交通・鉄道事故も後を絶たない。