マイクロ波による長距離通信を可能とするために、宇宙の中継局の役目を果たす人工衛星。地球局から送信される電波を受信し、周波数変換したのち増幅して再度地球局に送信する。このような衛星を固定通信衛星という。周波数帯(バンド)は、C(4~8ギガヘルツ)、X(8~12ギガヘルツ)、Ku(12~18ギガヘルツ)、Ka(26~40ギガヘルツ)を使用する。衛星通信はカバーできる通信可能区域が広く、高周波数帯の電波が使用できる。このため、高速・大容量の伝送が可能であるうえ、地理的障害の克服、通信品質の均一性、耐災害性に優れ、同報通信および多元接続方式が可能などの利点がある。固定衛星通信は、地上回線が不通の際にはバックアップとなるため、省庁や自治体、民間会社が独自の回線網を構築している。日本では1988年(昭和63)に実験用静止通信衛星「さくら3号」を打ち上げた。また超高速インターネット衛星「きずな」が2008年(平成20)に打ち上げられ、超高速通信を広範囲で行う実証実験を実施した。
一方、地球局と航空機、船舶や車両などの移動体と相互に通信を行えるような通信衛星を移動体通信衛星という。インマルサット(INMARSAT)に代表される海事通信サービスは1979年に開始され、2016年時点では第5世代(Kaバンドを使用する静止衛星)まで合計11機の衛星を運用している。インマルサットは音声通話、ファックス、電子メール、インターネット、パケット通信などさまざまな衛星通信サービスを提供している。日本では移動体通信の実利用を目ざした技術試験衛星「きく5号」(1987)、「きく6号」(1994)が打ち上げられ、各種の通信実験が行われた。技術試験衛星「きく8号」(2006)では、小型携帯端末への個人レベルの移動体通信実験が行われた。
データ中継衛星は静止軌道上に配置され、地球観測衛星などの観測データを中継することで、実時間での通信可能領域を飛躍的に拡大できる。日本ではデータ中継技術衛星「こだま」が2002年に打ち上げられ、陸域観測技術衛星「だいち」のデータ中継を行った。アメリカ民間会社の運用するイリジウムは、高度780キロメートルの地球周回軌道に66個の衛星を配置して、衛星携帯電話サービスを行っている。当初は77個(そのため原子番号77番の元素イリジウムにちなんで命名された)で全地球領域をカバーする予定であった。今後、新たな衛星に置き換えられてサービスが継続される。
[森山 隆]